大木聖子メッセージ

    @    全体を通じて

この十数年,地面ばかり見て地震と地球のことしか考えず,この5年は地震防災のことしか考えずにきたので,自分は視野が狭くて偏った考え方をしているということを,少なくとも自覚はしている人であろうと思ってきました.確かにその通りで恥ずかしい限りなのですが,この勉強会に参加して,少しその認識を変えてもいいんじゃないかと思える発見が2つありました.ひとつは,物事を一生懸命考えた経験があれば,他のテーマを与えられても一生懸命考えることができるということ.もうひとつは,世の中にあるたくさんの問題の根源は,実は同じところにあると感じられたことです.
    特に2つめの発見は私に希望を与えるものでした.問題が同じところに根ざしているのであれば,解決方法も同じ方向性でいいはずです.この世に山ほどある問題は,概ね同じ方向を向いて解決していけるということです.ニュースを見るたびに課題の多さに絶望的になって,自分の課題である地震防災以外はシャットアウトしていたのですが,そんな絶望する必要はないのだと思えるようになりました.難しい課題ばかりを次々と投げてくるこの勉強会で,予想外にも希望を見つけました.
    その問題の根源について,うまく書けると思いませんが,書いておきます.問題の根源は,「一人の人間がひとつのアイデンティをなんとなく指定されて生きていなきゃならない窮屈さ」にあると思います.例えば私なら,30代の女性だし,GWに結婚式をしたばかりの新婚さんだし,もしかしたら母にもなるかもしれない.掃除は苦手で,経理処理なんて超不得意だけど,はまると意外に気に入って突き詰めたりもする,そうなると得意だと思われたりもする.こういういろんな側面を持っているのに,世間からは,地震学者・防災の人・准教授,という認識で,それに適したコメントやアクションを求められます.政府の仕事も大学の仕事もいっぱいさせられます.それが嫌だと言いたいのではなくて,例えば私に子どもができて「PTAに全力を注ぎます」宣言をしたらどうなるのでしょうか.今の社会のあり方は,「分かりました.PTAのお務めが終わったら,そこで感じたことを持ってまた戻ってきてください」と受け止めるものではないと感じています.
    そんな遠い想像をしなくても,既に仕事相手に「妊娠する予定とかないですよね?」と言われたことがあります.雇い主に言われたわけではないところがポイントです.「大木さんには地震学者としてだけ生きていて欲しい」というすごく強い欲求を,何度も,複数の人々からぶつけられます.「結婚するような女性だと思わなかった」と,「もっとキャリアだけを考えて生きていると思っていたのにガッカリした」と,男性からも女性からも言われ続けています.おそらく,そういった方々とそういった方々のコミュニティの利益のためには,私が地震学者としてだけ生きていくことが望まれているため出てくる考え方なのだろうと拝察しています.私がいなくても自律しているコミュニティが実現できていてもこう言われるのです.直接言われた云々がここでの本質なのではなく,今までの社会のあり方や美徳が,「ひとつの(他者に求められている)アイデンティで生き抜くこと」にあったのではないでしょうか.
    一方で,この勉強会で早い段階から出ていた,「コミュニティ」「パブリック」「自分の事化」などのキーワードが,私のいう様々な問題を解決するひとつの方向性だと思うようになりました.例えば,地域の防災力を説いてまわる私が,自分の居住する地域の防災については手がけていない.この矛盾は,私がPTAになったり,地域運営本部に入ったりすれば解決することです.地震学者だけれど,一住民,一家庭人として,これまでのフィールド以外の場所でもありのままの私を生きる.つまり,ホンモノに様々な立場の人がかかわる.議題に上がったいろんな問題は,概ねこの方向で,解決に向けての第一歩を踏み出すことができる,というのがこの勉強会を通して私が得た希望の光です.

    A    やり残したこと

上述の通り,私自身は得ることが多かったのですが,これを社会に還元していないことに罪悪感に近いような感覚を抱いています.例えばここで得た人脈を生かして何かをクリエイトすることもできた(できる)でしょうし,上述の希望の光をもっといろんな人に味わってもらうための私個人の積極的な活動もあり得たはずなのですが,ほとんど着手していません.税金でさせていただいている勉強会であることに鑑みても,様々な立場の人がホンモノにかかわる,をもっと実現していかねばと反省しています.
    もうひとつは,専門家がいないので議論に埒が明かないことも見受けられた点で,それを解決することも申し上げることもしなかったことです.一方で,専門家ばかりが集まった委員会と異なる点がこの勉強会の素晴らしいところです.このトレードオフをどうしたらいいのかまだわかりませんが,今はこの現実も受け止めながら,参画していくしかないと思っています.
    最後の反省点です.この勉強会の最中にも,特定秘密保護法や原発問題など重要な課題が国会で取り上げられており,国民からは特に大きな関心が寄せられ,ムーブメントがありました.そういうものを突然議題に上げてもしょうがないのはわかっているのですが,見て見ぬふりのような気分にもなり,どうしたものかと帰宅してから考えたこともありました.

    B    次につなげる・何をすればよいか

もっともストレートフォワードなのは,上述@の解決方法を私が体現していくことです.職務に対する無責任ではなく,「様々な側面を持つワタシ」を生きるようすをそのまま見せることです.これはやや的外れな意見だとは思っていますが,現実的かつ明確に私にできること,そして好き勝手書き連ねた埋め合わせとして実行していきたいです.