大臣メッセージ

いよいよこの「国・行政のあり方に関する懇談会」も一つの区切りを迎えました。

私が第2次安倍内閣において行政改革担当大臣に就任して以来、一つのもやもやした思いがありました。それは「行政改革とは何のために行うのか?」ということです。最近の行政改革を振り返ると、とかく無駄の撲滅、公務員や独立行政法人の削減、いわゆる「天下り」の規制強化など、数減らしであったり、公務員を叩くといったことが目立っていたと思います。もちろん、これらにしっかりと取り組み、行政への国民の信頼を高めることは極めて重要です。一方で、政治家だけで国家を運営することができないのは前政権を見ても明らかであり、いかに国民の共有財産である官僚機構、行政組織に存分に力を発揮してもらうべきかということも国益の観点から追求しなければなりません。

我が国をとりまく現状を見れば、超少子高齢化社会の進展、危機的な財政状況、地域社会の衰退、新興国との激しい競争などまさに「国難」と言うべき状況にあります。官民が協力し、これらの困難な課題を克服していかなければならないのは明らかです。そうした中で、国、とりわけ行政は何ができるのか、何ができないのか、何をすべきでないのか、あるいは国民に何をお願いするのか、前例や既得権益にとらわれることなく、国益のため、そして将来の国家国民のためにも、議論し、決断すべき時期が来ていると思います。そうした認識を持って、私は初回の会議においてJ.F.ケネディ米国大統領が1961年の就任演説で述べた「国があなたのために何ができるかを問うのではなく、あなたが国のために何ができるかを問うてほしい」という言葉を引用して、メンバーの皆さんに議論をお願いしました。

この会議は政府の会議としては型破りなものです。まず、行政改革推進本部事務局のメンバーが全国に散り、100人以上の方々にお会いして、17人の輝く宝石のようなメンバーを探し当ててきました。年齢は20代から40代を中心に、平均年齢は40歳余り、女性比率は半分を超えています(10人が女性)。また、経済団体等の代表者といった大御所ではなく、ベンチャー起業家、NPO代表、若手学者などしがらみのない方々にお集まりいただきました。また、会議の運営自体もインターネット中継やソーシャルメディアの活用はもちろんのこと、東海大学や早稲田大学、株式会社MetaMoJiなどのボランティアの協力も得て、タブレット端末を用いたリアルタイムな議論の共有や、グラフィックレコーディングの活用など新しいチャレンジを次々と行いました。今日の行政改革の重要なキーワードである「オープンガバメント」の一つの理想形を強力に実践できたと思います。

今回の会議の取りまとめは、例えば、中央省庁の再編とか、国家公務員のリストラとか、法律の見直しなどに直結するわけではありません。もちろん直ちに目に見える成果というのも大事ですが、それは近視眼的なものにしばしば陥りがちです。私は、大きく困難な改革の前には、一度立ち止まり、現状を曇りのない目で分析して、改革を貫く背骨のような視点、理念、哲学というものを見出すべきだと思っています。振り返ると、行政改革に確固とした哲学を持って臨んだのは橋本龍太郎内閣総理大臣(在任:1996年〜1998年)が最後の例だったと思います。橋本総理は「変革と創造」の6つの改革を掲げ、その中核に中央省庁再編を柱とする行政改革を位置付けました。橋本総理は行政改革会議という総理が議長の会議に毎回出席して精力的に議論をリードし、行政改革を行うことで、国民が明治憲法下で統治の客体とされ、戦後の現憲法下でも行政に依存しがちであった「この国のあり方」自体も改革し、「この国のかたち」の再構築を行うことを目標としていました。中央省庁再編は2001年に実現しましたが、橋本総理が目指していた行政と国民のあり方の改革、「この国のかたち」の再構築はまだ道半ばだと思います。私は、この橋本総理の思いを継承し、より現代的な課題への対応も見据えながら、新たな行政と国民との「かたち」を作り出していきたいと思います。長く言われているように、「公(おおやけ)」は官の独占物ではありません。東日本大震災において、行政機能が危機的状況にあったとき、真っ先に被災地へ飛び込んで生活再建に当たった数多くのNPOの方々に見られるように、限られたヒト・モノ・カネの行政組織だけで現在の様々な課題に対処していくことはできず、多くの志ある国民の方々の力を借りなければなりません。そうした現状認識を国民と行政とが共有することで、お互いに何をすべきか、あるいは、もう何をやめるべきかといったことがきちんと議論できるようになると思っています。

右肩上がりの時代は終わりました。政治や行政が富の再分配をして済んでいた古き良き時代は終わり、国民が痛みに感じる負の再分配ということも国民にお願いしていかないといけないのが現実です。でも、私は昨日よりも今日、今日よりも明日に希望が持てる日本にしたいと思っています。私はクールジャパン戦略担当大臣も担当していますが、世界が日本を「クール(かっこいい、素敵)」と呼ぶのは何もマンガやゲームばかりではありません。実は様々なモノ、サービスの背後にある日本人の精神や文化といったところを見通し、そこに「クール」だと共感を得ているということを実感しています。先に述べたとおり、日本は様々な困難な課題に直面しています。しかし、これらの課題を克服していくことで、世界はますます日本に魅了されることと思います。今、私は日本、日本人にはこれができると確信しています。なぜなら、そのためのたくさんのヒントがこの会議で提示されたと思うからです。

「国・行政のあり方懇談会」はここで一旦終わりますが、これからはこの会議が生み出したたくさんの「種」をまいていかなければなりません。そして、その中から一つでも多くの種が芽吹き、成果という花が咲くことを期待しています。メンバーの皆さんにはその「種まく人」として引き続きの協力をお願いし、私もその一員に連なるとともに、多くの、そして、大きな花を咲かすことができるよう力を尽くしていきます。

2014年6月12日
行政改革担当大臣