林千晶メッセージ

予定「不調和」から生まれるもの

「ばかもん!実際の農村に足を運んだこともないヤツらが、農業政策を語るな。」
    第3回のゲストは開口一番に私たちを叱り飛ばしました。
    たしかに、典型的な「高齢化が進む危機的な農村」の勝手に描いていた固定概念と、ゲストスピーカーが説く「豊かな自然があり自給自足に近い生活の場としての農村」には、大きな隔たりがありました。強烈な問題提起が起点となり、懇談会メンバーは2つのグループに分かれ、農村の持つ可能性について真剣な議論を進めることができました。
    この懇談会で面白かったのは上述のように、驚くほど予定調和がなかったことでした。行政庁が主催する会議だからといって皆遠慮はなく、ゲストもメンバーも生々しく、挑戦的な発言を繰り広げ、互いに刺激しあって議論が進められるから、結論がどこにたどり着くかは誰もわからない。だからこそ各回の社会課題の重大性を実感でき、「自分ごと化」できたのだと感じています。

「メンバー×場」のデザイン、「議論×手法」のデザイン

議論の質を高めるためには、メンバーの選定は大切。そしてどのような場で議論するか、どのようなスタイルで議論するかのデザインも同じくらい大切です。     1回目のミーティングは、典型的な会議室で長方形のテーブルを囲み、メンバー一人ずつが発言して終了しました。「こんな距離があったら議論はできない、机なんていらない。行政の方々も後ろでメモとっているだけではなくて輪に加わって議論に参加してほしい。」そう伝えたら、2回目からテーブルが取り払われ、事務局の人たちも議論に加わるスタイルで場がデザインされていました。
    さらに調子にのった私は、「リアルタイムで議論を可視化するグラフィックファシリテーションを取り入れて、知的化学反応を加速させてみたい」と提案してみました。すると、3回目にはグラフィックファシリテーションチームが参加。さらにメンバー一人ずつにiPadが渡され、最新のグループ・コミュニケーションアプリ“Share Anytime”を使って、話を聞きながらコメントも残せるようになっていました。最初はおそるおそる書き込んでいた私たちも、回を重ねるごとに慣れてきて「いいね!」「ここ重要」と共感を伝えたり、質問につなげたりして、議論を進めるための基盤となっていきました。大切な発言がリアルタイムでドキュメンテーションにされ、自分の似顔絵とともにフキダシで表現され、それはまるでテキストではなく「発言」として訴えかけてくるから不思議です。

    大臣もメンバーもゲストも学生も、ひとつの輪に加わって自由に発言してもらうための工夫。コミュニケーションツールを使って多くの意見を吸い上げる工夫。議論のリアルタイムな可視化を通じてアイディアの化学反応を促す工夫。いい議論を実現するために、さまざまな「場」や「手法」のデザインを工夫できたのは画期的でした。

私たち=国という視点

この懇談会では特別な家庭教師から日本という国が抱えている課題を集中的に教えてもらったようなものだと感じています。各回テーマが異なるので、全体を通じて「具体的な解決策を考える」という場ではなかったと思います。共通して感じたのは、自分と「国」の関係をつくりなおす必要があるということでした。
    「国」を、自分が所属しない第三者と捉えがちとなり「なぜ国はこれをやってくれないんだろう?なんでこんなことやっちゃうんだろう?」ついつい文句が出てしまいます。
    でもよく考えると自分がいて、自分の家族がいて、自分の家族が属する街があって、その街が属する都道府県があって、そして国を形成する。つまり、国を批判することは自分を批判することと同じなんだなと思った瞬間がありました。
    自分が所属する「国」。自分ができることは小さくても、それをよくできるかどうかも、自分たち次第なのだと。

イノベーションの領域では、未来をつくる大切なサービスとは思いもしない小さな一歩から始まることが多い。アメリカのタクシー業界を改革したのは、モバイルがベースとなっているドライバー評価システム「Uber」。1万9000以上の都市、掲載部屋数は10万件以上、自分の空いている部屋を自由に貸し出すことができるサービス「AirBnB」は、全世界のホテル事業者を震撼させています。国の仕組みを変えなくても、教育システムを批判しなくても、人を動かすどこか大切なツボをおすことで、国を超える大きな変化をもたらす事ができると言えるはず。
    私たちが自分たちの望む未来をつくるために、何ができるだろう?次はそんなことを考えてみたいと思います。