大屋雄裕メッセージ

全体を通じて、現在の日本が抱えている問題についてはさまざまな側面からその存在が示されたと思います。
    そのなかで、人口と経済の拡大・成長を前提としてきたこれまでの社会制度が現実とズレてきていること、それによる負荷が社会的に蓄積してきており、遠からずその解決について選択を迫られる状況にあることが明らかになったのではないでしょうか。その意味でも、我々は「戦後レジーム」の再検討を迫られているのでしょう(もちろん、検討したところ「戦後」がもっとも望ましいのでそれを維持するために新たな負担を社会的に引き受けることにする、というのもこの時点ではなお開かれた選択肢です)。
    その際に問題になるのは、「どのように社会的な意思決定を行なうか」という「決め方」自体が検討・選択の対象であり、すでに大きな問題を抱えているということでしょう。この点で最大の問題になるのが「世代間正義」であり、将来世代にツケを一方的に回すような政策決定を防ぐような意思決定の方法はどのようなものかです。今回の懇談会は、若い世代の人々が自ら検討し、意見を言うという形でこの問題に答えるものでもあり、意義深いものと思いました。
    他方、特にアカデミズム以外の委員についてはおそらく同世代のなかでも例外的にアクティビティの高い人々であり、世代の平均的な意識とは一定の距離があるのではないかとも思います。若い世代、あるいはさらに将来世代の意思を社会的に確認し、政策的に反映させる方法については、なお検討が必要かもしれません。一部の先進的・活動的な部分をさらにエンハンスすることで全体を改善するとか、トライアル・アンド・エラーの成果を還元することはもちろん重要であり、これまでのように安全重視・ユニバーサルサービス重視の行政のあり方を盲目的に続けるべきではないとも、一方では思います。他方、国家が領域内で正当な実力を独占する唯一の機関であり、国民全体に対して責任を負っていることを考えれば、弱い部分・遅れた部分に対する最低限の配慮だけは失うべきでないと考えます。議論のなかでも指摘したことですが、広く薄く全体に対して確実に保障されるべき国家の機能と、それを超えて実験的・挑戦的な試みが許される部分の切り分けが重要ですし、その点に関する国民的な合意形成を促す検討が必要であると考えます。
    また、今回の懇談会ではあまり正面から取り上げられなかったように思われるのが、国際化やグローバライゼーションをめぐる問題です。国家財政がシュリンクするなかで社会が必要とする福祉などのサービスをどう供給するかという問いに対しては、シュリンクを避けるために移民政策などにより社会規模を維持・拡大するという選択肢も(善し悪しは別にして)あるでしょう。すでに留学生比率が10%を超え、教育・研究のあり方のみならず組織運営やガバナンスの方法についても質的な変化を迫られている国立大学の視点からすると、このような変化を社会の一部セクターに閉じこめるのか、全体で受け止めるのかという根本的な選択が迫っている状況にあるのではないか、社会全体で考える必要があるのではないかとは思います。