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総合的論点

3 竹島について

 我が国の関わる領土紛争のうち、竹島紛争について、韓国側の主張する「実効支配」の形態は、「警備隊の駐屯、灯台の設置、竹島を図案にした切手の発行、実地測量による地図の作成、植生調査などの学術調査の実施、民間人の住所登録、各種建造物の建築、埠頭・ヘリポートの建設等、多くの行政権行使や物理的管理」である4。これらの行為は、領有権が確立している場所においてなされたものならば、正当な行為として国際法上も認められよう。しかし、いずれも1952年1月18日に当時の李承晩大統領が「海洋主権宣言」なる布告を発し、一方的に日本海に広大な海域を囲い込む「平和ライン」(いわゆる「李承晩ライン」)を引いてその中に竹島を囲い込んだ時点より後の行為であって、「海洋主権宣言」に対して我が国が繰り返し抗議し、その無効を主張してきた期間になされた行為である。

 換言すれば、わが国が「紛争」の存在を主張し始めて後に上記のような行為が韓国政府によって行われてきたのであって、韓国は「紛争」の存在を否定するが、すでに上記の「紛争」の定義の箇所で見たように、「紛争の単なる否定だけでは、紛争が存在しないということの証明にはならない。(中略)両当事国の見解が明確に対立するような事態(中略)が存在する場合、裁判所は国際紛争が発生していると結論付けなければならない。」というのである。これは国際裁判所という高度な司法専門機関のいうことであるが、常識的にも十分納得のいく説明である。韓国の主張に対し、我が国は1952年以来抗議し続けており、3回にわたって問題を国際司法裁判所に提訴すべきことを申し入れているが、韓国はその都度これを拒否したという事実経過がある。

 こうした状況に鑑みて、竹島紛争のクリティカル・デートはいわゆる「李承晩ライン」宣言の1952年とするのが妥当というべきで、そうであるとすると、その後に韓国がとってきた一連の「実効支配」と申し立てる行為は、国際法的に正しい「実効的支配」になっていないということである。したがって、上記のような韓国の一連の行為をメディアなどが鵜吞みにして「実効支配」の行為と表現するのは正しくない。

註4

塚本孝「国際法から見た竹島問題」(平成20年度「竹島問題を学ぶ」講座第5回講義録、2008年10月26日於島根県立図書館集会室)による。

4 尖閣諸島について

 南シナ海における近年の中国の動きは、「実効支配」を狙っているとしても、更に根拠が乏しいといわなければならない。一方的に「九段線」なる海域囲い込みを行って、その範囲内の海域を自国の主権下にあるからとしてそこで何をしようが問題なしとするが、その根拠は、その範囲が歴史的に中国のものだという以外に何も無く、それも曖昧であり、説得的な法的根拠ではない。2016年7月12日のフィリピン╱中国「南シナ海仲裁裁判」の本案判決は、さすがに中国の主張を否認する判断を示しており、当然であろう。従って、その海域にある島嶼に中国が我が物顔で海港、空港などを建設するのを「実効支配」などとメディア等が表現するのは真に不適切で、事実上中国の行動を是認・支援することになっているともいえる。

 中国の尖閣諸島周辺海域への進出も「実効支配」の既成事実化を狙うものだと表現されることがあるが、これも当を得ていない。我が国の尖閣諸島に対する領有権は、1895年尖閣諸島の沖縄への編入及びそれ以後の民間人に対する貸与や払い下げ等の行政措置を通じた「実効的支配」に基づいており、確固たる国際法上の根拠を有する。これに対して中国は我が国の編入措置以来4分の3世紀にわたりまったく抗議の声を上げず、我が国の領有権を黙認してきたのであるから5、「紛争」は存在しない。1960年代末期に尖閣諸島周辺海域に石油・天然ガス賦存の可能性が報告されると、俄かに声高に領有権主張を始め、辻褄合わせのためか1992年2月に「領海及び接続水域法」を制定して「釣魚島(尖閣諸島の中国名)」を国家領域の一部と規定して国内法体制を整え、尖閣諸島周辺海域に中国海警局の巡視船を頻繁に派遣し、領海にまで無断で入り、あまつさえ我が国の漁船の操業を中国の領海侵犯(主権侵害)としてこれを妨害する挙に出るなど、我が国領海において無害通航にはほど遠い国際法違反の行動を見せている。この現象を称して、中国は尖閣諸島に「実効支配」を及ぼそうとしているのではないか、とメディアが報道しコメンテーターなどが発言することがあるが、それは言葉の誤用も甚だしいものであって、看過するわけにはいかない。

註5

中国は、20世紀半ばにおいても、尖閣諸島に対する我が国の領有を前提とする行為をとっていた。例えば、1953年1月8日付け『人民日報』は、「琉球諸島」等と並べて「尖閣諸島」と日本語の島名を用いて記事を書き、1958年9月4日の12海里領海宣言では、「釣魚島」を欠いた自国領の島嶼を列挙している。

おわりに

 実効的支配の関連でもう一点注意すべきことは、不当な行為に対してこれを認めないという態度を維持することの重要性で、これを怠ると相手の行為を黙認したことになる虞がある。韓国の竹島に対する行為や中国の尖閣諸島周辺海域における行為に対して、我が国はその都度外交チャンネルを通じて抗議を繰り返している。これを生ぬるいと称する向きもあるが、国際法上は最小限の意思表示として抗議は有効であり、国際裁判においてもそれが認められた例がある6

 領土に対する主権・領有権の取得及びその維持ないし保有において国際法上最も重視されるのがその行為の客観的「実効性」であり、それが正当性を有るときに領有が本物になるのである。したがって、世上に出回っている「実効支配」という表現は、「事実上の支配を狙う行為」を表すものでしかないと理解すべきであろう。

註6

メキシコ・米国国境のリオグランデ河の氾濫によって生じた土地の帰属をめぐる1911年の「シャミザル事件」仲裁判決において、当該土地を事実上占有する米国の措置に対してメキシコが物理的に占有する強硬手段を避けて、数次にわたってより緩やかな「外交書簡の形の抗議」に訴えたことが評価され、米国の取得時効の主張は退けられた。Reports of International Arbitral Awards, Vol. 11, p. 329.

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