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南シナ海・東シナ海

コラム 国連海洋法条約を侵食する中国
-国内立法と解釈による歪曲

坂元 茂樹 (神戸大学名誉教授)

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1. はじめに

 「海の憲法」と称される1982年の国連海洋法条約(以下、UNCLOS)は、各国が海洋の利用について、立法・司法・執行の権限を行使する際に協調した処理するための客観的な枠組み設けるものである。その条約規定は、各国の法制や国内措置に編入されることを前提としている1。同条約は、2022年12月31日現在、168カ国が締約国となっている普遍的な多数国条約である。UNCLOSの締約国は、通常、UNCLOSの条文を国内実施するために国内法を制定している。UNCLOS が海洋に関する国際慣習法を成文化したこと、また条約の採択から40年経過したこともあり、UNCLOSの条文の多くは、条約の非締約国に対しても国際慣習法規則としての地位を獲得している。

 国際社会において「法の支配」を確立するためには、各国が条約及び国際慣習法を遵守する必要がある。そのため、各国は、通常、自らの憲法に国際法の遵守義務を規定する2。ところが、中国憲法には、国際法との関係に言及した条文が存在しない。その結果、中国が国際法の典型である条約と憲法の関係をどのように考えているのか明確ではないし、中国の国内法体系における条約の効力順位も明らかでない。なお、中国は、国家の立法権を全国人民代表大会と中国全国人民代表大会常務委員会に付与している3。問題は、中国の立法機関が条約上の義務の履行のための国内法の制定にあたって、当該義務を自らの国益確保のために歪めて国内法化していることである。この歪曲には、国内立法による歪曲とUNCLOS の条文の自己中心的解釈による歪曲という二つの歪曲がある。

 実際、中国政府は自らの「核心的利益」を確保するために、UNCLOS の条文と乖離する国内法を制定することを全くいとわない姿勢を示す。中国は、UNCLOS の締約国でありながら、UNCLOS の条文に抵触する国内法を制定し、自国の海洋権益の確保のために他の締約国とは異なるUNCLOS の解釈を採用する。本来、締約国であれば、国内法を条約、すなわちUNCLOS に適合的に解釈する必要があるが、それを行わない。逆にUNCLOS に違反する自らの国内法規定を根拠に、周辺国に圧力をかけ続けている。

 しかし、UNCLOSのような多数国間条約は交渉国の合意、換言すれば各国の共同の意思によって定立されるのであって、その合意である条約を中国という個別の国家意思、つまり国内法で一方的に変更することはできない。中国が締約国である条約法に関するウィーン条約(1969年)は、「効力を有するすべての条約は、当事国を拘束し、当事国は、これらの条約を誠実に履行しなければならない」(26条)と規定し、「当事国は、条約の不履行を正当化する根拠として自国の国内法を援用することができない」(27条)ことを確認している。このことは、国際司法裁判所(ICJ)によって、国連本部協定事件(1988年)で、「条約の締約国間の関係において、国内法の規定が条約規定に優先しえないことは、一般に承認された国際法の原則である」として確認されている4

 21世紀の今日、UNCLOS の条文の自己中心的解釈をよって国際法秩序から逸脱することもいとわない中国の姿勢は、これらの国際法の諸規則に違反しており、南シナ海及び東シナ海において周辺国との間でさまざまな紛争を生んでいる。

註1

山本草二「国連海洋法条約の歴史的意味」『国際問題』617号(2012年)1頁。

註2

例えば、日本国憲法98条2項は、「日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする」と規定する。確立された国際法規とは、国際慣習法を指す。

註3

中国憲法58条。。

註4

Applicability of the Obligation to Arbitrate under section 21 of the United Nations Headquarters agreement of June 1947, Advisory Opinion of 26 April 1988, ICJ Reports 1988, pp.34-35, para.57.。

2. 国内立法によるUNCLOSの歪曲

(1)中国領海法における外国軍艦の無害通航権の否定

 中国の国内法である「領海及び接続水域法」(1992年)は17カ条で構成されており、二つの例外を除けば、おおむねUNCLOS第2部「領海及び接続水域」の内容を踏襲している。

 第一の例外とは、UNCLOSが、軍艦を含むすべての船舶の外国領海における無害通航権を認めているにもかかわらず、中国は同法6条2項で、「外国軍用船舶は、中華人民共和国の領海に入る場合には、中華人民共和国政府の許可を経なければならない」と規定し、外国軍艦の中国領海の通航につき事前許可制度を採用していることである5。UNCLOS を採択した第3次国連海洋法会議の議長を務めたコー(Mr.Tommy Koh)氏は、
「私は、この点に関してUNCLOSはかなり明確であると考える。軍艦が、他の船舶と同様に領海内で無害通航権を持つこと、沿岸国の事前の許可または事前の通告でさえ必要ない6」と明言している。つまり、中国の領海法はUNCLOSの条文に違反している。このことは、国際海洋法裁判所(ITLOS)によって、ウクライナ艦船の抑留事件暫定措置命令(2019年)において、「UNCLOSの下では、無害通航又は通過通航といった通航制度は、全ての船舶に適用される7」(68項)との表現によって確認されている。

(2)接続水域への安全保障の管轄権の延長

 第二の例外とは、同法13条の「中華人民共和国は、隣接区域[接続水域を指す]内において、その陸地領土、内水又は領海内で安全、税関、財政、衛生又は出入国管理に関する法律又は法規に違反する行為を防止し、処罰するための管轄権を行使する権限を有する」との規定である。UNCLOS第33条が定める「通関上、財政上、出入国管理上又は衛生上の法令の違反」に加えて、冒頭に「安全」を加えている。このように中国は、安全保障に対する管轄権を接続水域に延ばしている8。この規定は、明らかにUNCLOSに違反している。

 その結果、周辺国である日本との間で接続水域に関して非対称が生じている。中国の海警の船舶は日本が実効支配する尖閣諸島周辺の接続水域にほぼ毎日入域するが、日本の海上保安庁の巡視船は領海侵入を警戒して周辺海域で警備するものの、日本の接続水域への中国海警船舶の入域を、安全保障を理由に拒んではいない。しかし、逆は成立しない。日本のみならず、他の国の軍艦や公船は中国の領海や接続水域において航行の自由を享受することができない状況にあるからである。

(3)中国海警法によるUNCLOSの歪曲

(i)「中国の管轄海域」という曖昧な概念

 中国による管轄権の拡大が、他の諸国にとって具体的な脅威として現れるのは、2021年の海警法の制定である9。国際法上、沿岸国が執行管轄権を行使できる海域とその条件はUNCLOSで明確に定められており、それと異なる海域や条件を定めた国内法による執行管轄権の行使は国際法上違法であり、他の国の主権や管轄権を侵害することになる。

 中国海警法は、海警が活動する海域として、「海警機関は、中華人民共和国の管轄海域(以下、「我が国管轄海域」という。)及びその上空において海上権益擁護の法執行業務を展開し、本法を適用する10」(3条)と規定する。UNCLOS上、国家が管轄する海域は、内水、領海、接続水域、EEZ及び大陸棚(延長大陸棚を含む)の海域である。しかし、中国はその国内法において「中国人民共和国の管轄海域」という曖昧な概念を創設し、UNCLOS上、本来、管轄権を行使できない海域(例えば、南シナ海の九段線内の海域)で海警が海上権益擁護の法執行業務を展開することを明記している。注意すべきは、同法が「その上空において海上権益擁護の法執行業務を展開」としている点である。領海の上空はたしかに領空であり、領空侵犯に下位国が管轄権を行使することは国際法上許容されるが、EEZの上空は公海と同様に上空飛行の自由が認められており、これに管轄権を行使するのは国際法違反であると同時にUNCLOSに違反する。

 問題は、こうした国際法違反の国内法を制定している国が世界最大の海上警察機関を有する国であるということである。中国は、南シナ海における九段線の主張に基づきフィリピンのEEZの主張を認めず、フィリピン漁船の操業を妨害している。中国は立法管轄権を行使して、中国の領海法に基づき、日本の領土である尖閣諸島周辺に領海を設定している。これにより、日本に対し「中国の領海」あるいは「中国の管轄水域」と主張し、執行管轄権を行使することが中国国内法上担保されたことになる。

(ii) 外国軍艦や外国公船への強制措置

 海警法は、外国軍艦や非商業的目的のために運航する政府船舶(例えば、海上保安庁の巡視船など)が中国の管轄水域で中国の国内法に違反する事例を生じさせた場合に、「外国軍用船舶及び非商業目的に使用される外国船舶の我が国管轄水域における我が国の法律又は法規に違反する行為に対して、海警機関は、必要な警戒及び管制措置を講じて制止し、関連する水域から直ちに退去することを命じる権利を有する。退去を拒否するとともに重大な危害又は脅威を発生せしめたものに対して、海警機関は、退去強制、強制引き離し等の措置を講じる権利を有する」(21条)と規定している。

 しかし、UNCLOSは、「この条約のいかなる規定も、軍艦及び非商業的目的のために運航するその他の政府船舶に与えられる免除に影響を及ぼすものではない」(32条)と規定し、政府公船に対する沿岸国の執行管轄権からの免除を認めている。仮に海警がそうした軍艦や政府公船に「強制曳航」などの措置を取れば、UNCLOSの違反となろう。まして、軍艦に対しては、UNCLOS上、沿岸国に認められているのは退去要求に限られており(30条)、「関連する法律の規定を適用する」との条文がそれ以上の措置を含意するのであれば、UNCLOSに違反することになる。本条文は、南シナ海で航行の自由作戦を行う米国へ対抗しようという中国の意図を条文化したものであろう。

 改正海上交通安全法(2021年)120条は、「外国籍の公務船舶が中華人民共和国の領海で航行し、停泊し又は作業をする際に、中華人民共和国の法律又は行政法規に違反するときは、関係する法律や行政法規の規定に基づいて処理する。中華人民共和国の管轄海域内における外国籍の軍用船舶の管理については、関連する法律の規定を適用する」と規定する11。東シナ海でいえば、尖閣諸島の領海で海洋調査を行う日本の政府公船が該当するおそれがある。さらに関係する法律等に基づき処理するというが、前述したように、UNCLOSは、軍艦及び非商業的目的のために運航するその他の政府船舶に免除を認めており、仮にそうした措置をとれば、UNCLOS に違反することになる。

(iii) 武器の使用基準の曖昧さ

 海警法22条は、「国家の主権、主権的権利及び管轄権が、海上において外国組織及び個人の違法な侵害を受ける又は違法な侵害を受ける緊迫した危険に直面する場合、海警機関は、本法及びその他の法律又は法規に基づき、武器の使用を含む全ての必要な措置を講じ、現場において侵害行為を制止し、危険を排除する権利を有する」と規定する。この条文でいう「外国組織」が「外国の国家組織」を意味するのか、「外国のテロ組織」を意味するのかは判然としないが、国家主権が侵害を受ける場合を想定していることを考えれば、「外国の国家組織」を含むと解される。また、46条で、「以下に掲げるいずれかの状況が発生した場合、海警機関職員は制圧用具又は現場のその他の装備・道具を使用することができる」と規定する。その条文中に「(2)法に基づき船舶を退去強制、強制引き離しを行う場合、(3)海警機関職員が法に基づき任務を遂行する過程において、障害・妨害に遭遇した場合」が含まれている。さらに、49条で「海警機関職員は、法に基づき武器を使用し、警告が間に合わない又は警告を行った後にさらに重大な危害が生じる可能性がある場合、直接武器を使用することができる」と規定する。

 海警法22条は武器使用の対象範囲を外国組織にまで広げ、さらに同法46条及び49条はより積極的な武器の使用を容認する規定のように読める。尖閣諸島周辺海域を主権が及ぶ自国の領海と称し、日本漁船を追尾する中国海警船舶が、武器の使用に至る可能性も排除されていない。また、46条3号の「海警機関職員が法に基づき任務を遂行する過程において、障害・妨害に遭遇した場合」の規定は、尖閣周辺海域で日本の海上保安庁の巡視船が中国海警船舶による日本漁船の追尾を中断させる行為を行った際には、中国海警法上は「妨害行為」として中国海警船舶による武器の使用の可能性も排除されないことになる。日本としては、中国のこうした新たな動きへの対応を準備する必要がある。

 海警法でさらに見逃せないのが83条の条文で、「海警機関は、『中華人民共和国国防法』、『中華人民共和国人民武装警察法』等の関係法律、軍事法規及び中央軍事委員会の命令に基づき、防衛作戦等の任務を遂行する」と規定している。つまり、海警は、自国の管轄海域で防衛作戦を行う海軍の機能(軍事的活動)と海上法執行機関の機能(法執行活動)という二重の機能をもつ組織と明記されている。同法により、海警は対外防衛の任務をもつ組織に変化した。その結果、海警は軍隊組織としての色彩がさらに強まり、装備面でも大型化、武装化が進むものと思われる。

 このように中国は、その国内法によってUNCLOS上の義務を自らの海洋権益の確保のために歪めて国内法化している。

註5

もっとも、外国軍艦の無害通航権を認めない、あるいは何らかの制限を加えている国は40カ国以上あると言われている。Eleanor Freund, Freedom Navigation in the South China Sea: A Practical Guide, Harvard Kennedy School Belfer Center, Special Report June 2017, p.12, note 2.

註6

As cited in B. H. Oxman, The Regime of Warship under the United Nations Convention on the Law of the Sea, 24 Virginia Journal of international Law, 854 (1984).

註7

ITLOS, Case Concerning the Detention of Three Ukrainian Naval Vessels (Ukuraine v. Russian Federation), Provisional Measures Order, May 25, 2019, para.68.

註8

接続水域に安全保障の管轄権を延ばす主張を行う国としては、カンボジア、中国、スーダン、シリア及びベトナムの5カ国がある。

註9

海警法の包括的な分析としては、Raul (Pete) Pedrozo, Maritime Police Law of the People’s Republic of China, 97 Int’l. L. Stud. 465 (2021), pp.467-471.

註10

https://www.lawinfochina.com/display.aspx?lib=law&id=34610

註11

Raul (Pete) Pedrozo, China’s Revised Maritime Traffic Safety Law, 97 Int’ L. Stud. 967 (2021).

3. 自己中心的解釈によるUNCLOSの歪曲

 中国の解釈によるUNCLOSの歪曲は、2016年の南シナ海仲裁判決後の同判決に対する中国政府の解釈に典型的に表れている。周辺国はこれに対してUNCLOSの条文を根拠に抵抗している。UNCLOSの条文は国際的な司法機関、例えば国際海洋法裁判所(ITLOS)、国際司法裁判所(ICJ)、及び附属書Ⅶによって組織される仲裁裁判所によって解釈され、発展させられている。しかし、中国はそうした判決に従わず、UNCLOSに抵触する自国の関連国内法を適用し続けている。その結果、UNCLOSを遵守する周辺国と対立を生んでいる。

 南シナ海仲裁判決は、2016年7月12日、「中国の『九段線』内の生物資源及び非生物資源に対する歴史的権利の主張は、UNCLOSが規定する中国の海域の限界を超える限度においてUNCLOSと両立しないと結論する12」と判決し、中国による九段線の主張を否定した。それにもかかわらず、中国は、同判決を違法かつ無効とし、この判決の履行を拒んでいる。しかし、UNCLOS296条1項は、「この節の規定に基づいて管轄権を有する裁判所が行う裁判は、最終的なものとし、すべての紛争当事者は、これに従う」と規定し、判決の既判力(res judicata)を認めている。判決の履行を拒む中国の態度は、この規定に違反している。

 しかし、中国は、2020年6月2日付けの国連事務総長に対する口上書で、再び、「中国は南シナ海において歴史的権利を有している。南沙諸島に対する中国の主権及び南シナ海における海洋権益は長い歴史的慣行の過程において確立され、国連憲章及びUNCLOSを含む国際法に合致している」(1項)と述べるとともに、「仲裁裁判所は、権限を踰越して管轄権を行使し、そして事実の確認及び法の適用において明らかに誤りを犯している。仲裁裁判所の行動とその判決は、…主権国家及びUNCLOSの締約国としての中国の正当な権利を重大に侵害しており、それゆえ不当かつ不法である。中国政府は、仲裁判決を受け入れないし、また承認もしないことを厳粛に宣言する。この立場は国際法に合致する13」(3項)とまで述べた。

 しかし、間違っているのは南シナ海仲裁判決ではなくて、中国であることは明らかである。この中国の反論に対して、ニュージーランドは、2021年の口上書において、「2016年の南シナ海仲裁判決で確認されたように、南シナ海の海域に関する『歴史的権利』を主張する国には法的根拠はない14」と反論した。

 最近南シナ海で注目されるのは、中国による群島基線の主張である。UNCLOSは、フィリピンやインドネシアのような全体が一又は二以上の群島から成る国を群島国家とし、群島国家の領海その他は、群島の最も外側の島の外端を結ぶ群島基線を用いることを認めている(47条1項・48条)。大陸国家である中国は、1996年に南シナ海の西沙諸島に、2012年に東シナ海の尖閣諸島に直線基線を引いた。近い将来南シナ海の他の諸島に直線基線を採用する可能性がある15。実際、中国の研究者は、UNCLOS第5部は、群島制度が大陸国家の遠洋群島に適用可能かどう16。言うまでもなく、遠洋群島とは、UNCLOS7条(直線基線)又は47条(群島基線)に規定されている地理的条件を満たしていない群島である。しかし、チャーチル教授及びロウ教授(Professors Churchill and Lowe)が明確に指摘するように、群島国家のみが群島の周囲に群島基線を引くことができる。群島国家には、遠洋群島を所有する本土国家は含まれない。つまり、デンマーク(フェロー諸島)、エクアドル(ガラパゴス諸島)、ノルウェー(スバールバル諸島)、ポルトガル(アゾレス群島)及びスペイン(カナリア諸島)が群島基線を引くことも、その周囲に直線基線を引くこともできないのである17

 遠洋群島の周囲の直線基線を支持する中国の論者が言うように、仮にUNCLOSの条文に「曖昧さ」や「欠落」が存在するとしても、沿岸国が7条又は47条のいずれかの条件を満たしていない群島に対して、直線基線を引けるということを意味するものではない。実際、南シナ海仲裁判決は、「裁判所は遠洋群島に関して直線基線を用いることによって群島基線の効果に近づけようとするいくつかの国家の実行があることを承知している。裁判所の見解ではこうした方法での南沙諸島の直線基線の適用はUNCLOSに違反する18」と判決している19。ローチ(J. Ashley roach)教授は、「遠洋群島を囲むための直線基線の使用は、UNCLOS46条に基づく群島国家としての要件を満たさないし、UNCLOS又は国際慣習法によって正当化されない」と明確に指摘している20

註12

In the matter of the South China Sea Arbitration, at p.111, para.261.

註13

Note Verbale dated 2 June 2020 from the Permanent Mission of the People’s Republic of China to the United Nations addressed to the Secretary- General of the United Nations, CML/46/2020.

註14

Note Verbale dated 3 August 2021 from the Permanent Mission of New Zealand to the United Nations addressed to the Secretary- General of the United Nations, Note Verbale No. 08/21/02.

註15

Hua Zhang, The Application of Straight Baselines to Mid-Ocean Archipelagos Belonging to Continental States: A Chinese Lawyer’s Perspective, Dai Tamada and Keyuan Zou (eds.) Implementation of the United Nations Convention on the Law of the Sea, 115(2021).

註16

Jiang Li and Zhang Jie, A Preliminary Analysis of the Application of Archipelagic Regime and the Delimitation of the South China Sea, 2010 China Ocean Law Review 167 (2010).

註17

R.R. Churchill and A. V. Lowe, The Law of the Sea, 3rd ed., 120 (1999).

註18

Award, supra note 12, at p.237, para.575.

註19

https://amti.csis.org/reading-between-lines-next-spratly-dispute/ (last accessed:20 November 2022)

註20

J. Asley Roach, Offshore Archipelagos Enclose by Straight Baseline: An Excessive Claim? 49 OC&IL, 190-191(2018).

4. おわりに

 今後とも日本及び国際社会は中国の強引な海洋進出に対して警戒を解いてはいけない。 海洋強国中国の南シナ海や東シナ海における最近の行動は、その軍事力や海上警察機関を背景に、「力による現状変更」を求めているからである。

 2021年5月22日・23日の両日に中国国際法学会と海南大学の共催で開催された「習近平法治思想と国際法」では、習近平法治思想を指導として国際法を研究し運用するとの観点から国際法の適用が論じられた21。ある中国の研究者の論文に依れば、習近平総書記は、「国際法の基本原則と規則は、現代国際社会の基本的秩序の構築と維持の礎石である」としながらも、「国際法の完成を促進することは、不公平で不合理なグローバル・ガバナンス体制を変革し、より公正で合理的な国際秩序と国際システムの構築を促進する重要な手段である」とし、「すべての国は国際法の歪みに反対し、『法の支配』の名の下に他国の正当な権利と利益を侵害し、平和と安定を損なう行為に反対する権利を行使すべきである22」と述べているという。つまり、習近平氏は現行の国際法秩序には歪みがあるとし、より公正で合理的な国際秩序と国際システムの構築、言い換えれば中国の利益が反映された国際法秩序の完成が必要であるとの認識に立っていることになる。たしかに、すべての面において現行の国際法秩序が完全なものとはいえないであろうが、不完全だからといっても自国に不都合な国際法規則は無視していいということにならない。

 2022年10月22日に閉幕した中国共産党大会で、中国共産党内での習氏の「核心的な地位」と習氏が掲げる思想の「指導的な地位」を確立する「2つの確立」が党規約に盛り込まれた。今後、中国が、「習近平法治思想」によって国際法にどう向き合うか見極める必要がある。中国が誠実にUNCLOSを遵守する姿勢に転換するのか、あるいはUNCLOSの歪みを強調しUNCLOSの国内実施にあたってUNCLOSを修正する国内立法や解釈を維持するのか、中国の動きを慎重に見極める必要がある。

註21

“习近平法治思想与国际法”研讨会举行・人民日報2021年5月23日 http://cpc.people.com.cn/n1/2021/0523/c64387-32110805.html(最終閲覧:2023.1.9)

註22

張暁・尊重国际法权威 维护国际秩序(国際法の権威を尊重し、国際秩序を維持する)中国共産党新聞網2018年10月16日 http://theory.people.com.cn/n1/2018/1016/c40531-30344197.html(最終閲覧:2023.1.19)

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