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他国の主張分析
コラム 韓国の社会科教育課程における竹島問題の取扱い
藤井 賢二 (島根県竹島問題研究顧問)
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はじめに
韓国の教育課程は日本の学習指導要領にあたる。本稿では、韓国の社会科教育課程を主材料として、島根県が「竹島の日」を制定した2005年以降の韓国の社会科教育における竹島(韓国名「独島」)問題の取扱いを検討する。
1. 日本の動きと韓国の社会科教育課程改訂
文部科学省は2008年告示の学習指導要領解説の中学校「社会」〔地理的分野〕で、「我が国と韓国の間に竹島をめぐって主張に相違があることなどにも触れ、北方領土と同様に我が国の領土・領域について理解を深めさせることも必要である」とした。また、2009年告示の高校の学習指導要領解説について「中学校と同様、竹島を指導するという趣旨である」と説明した。中学・高校の地理教育で竹島問題への理解を深めさせることが指示された。
韓国の2010年改訂社会科教育課程では、それまで中学「社会」〈地理領域〉と高校「韓国地理」だけであった竹島問題の記述が、中学「歴史」と高校「韓国史」で加わった。これは日本の動きへの対応であろう。中学「歴史」では「独島をはじめとする領土問題と周辺国家の歴史葛藤などを探求して正しい歴史観と主権意識を確立する」とされた。2011年改訂社会科教育課程では、竹島問題の記述は、小学校「社会」、中学「社会」〈一般社会領域〉、高校「東アジア史」でも加えられた。
2014年改訂の学習指導要領解説の中学校「社会」〔地理的分野〕では、竹島について、「我が国の固有の領土であるが、(略)韓国によって不法に占拠されているため、(略)韓国に対して累次にわたり抗議を行っていることなどについて的確に扱い、我が国の領土・領域について理解を深めさせることも必要である」と記述が詳細になった。また、同じく〔歴史的分野〕と〔公民的分野〕、高校の「地理歴史」と「公民」でも、竹島問題への理解を深めさせることが指示された。「我が国の固有の領土」である竹島で韓国が行っているのは不法占拠であること、竹島の領土編入は国際法上正当な根拠を持つこと、日本は平和的手段による竹島問題解決をめざしていること、これらへの理解を深めさせることが指示されたのである。
2. 2015年改訂の韓国社会科教育課程
2015年改訂社会科教育課程では竹島問題の記述は詳細で多くなった。指摘すべきことが三点ある。
一点目は、2010・2011年改訂社会科教育課程にあった「独島をはじめとする領土問題」という表現が消えたことである。竹島に領土問題は存在しないという韓国政府の立場とは相いれないことに気付いたのであろう。高校「韓国史」の「独島は歴史的に明らかな私たちの固有の領土であり、現在私たちが実質的に支配している。したがって、独島については領有権問題ではなく歴史問題として接近しなければならず」という説明は、竹島に領土問題は存在しないという立場の反映であろう。不法占拠の現状を領有根拠とするこの説明は、到底認められるものではない。
なお、日本の文部科学省は、2014年改訂の学習指導要領解説の中学校「社会」〔地理的分野〕で、「尖閣諸島については、我が国の固有の領土であり、また現に我が国がこれを有効に支配しており、解決すべき領有権の問題は存在していないことを、その位置や範囲とともに理解させることが必要である」と説明していた。
二点目は、小学校「社会」での竹島問題の取扱いが、2011年改訂社会科教育課程の「⑴暮らしやすい我が国土」の単元から2015年改訂社会科教育課程の「⑻統一韓国の未来とグローバル社会の平和」の単元に移ったことである。この単元の目的は「我が国の固有の領土である独島に対する領土主権意識を養い、南北統一のための努力と課題を見て、グローバル社会の様々な葛藤事例と持続可能な未来建設の課題を探索することで統一韓国の未来を構想し、グローバル社会の平和のために努力する世界市民の姿勢を育む」であった。北朝鮮や竹島を含む広い領域を持つ韓国ならば世界への影響力はより大きなものになる。そのような願望を感じる。
三点目は、中学「歴史」の「日本と中国の主張を論駁する作文授業を行い、資料調査の正確性、主張の明瞭性、論理展開の一貫性などを基準に評価することができる」という評価方法のように、能動的な学習態度が重視されていることである。2017・2018・2020年、韓国の中学生が島根県の中学校宛に竹島教育を非難する郵便物を送付してきた。これは、能動的な学習態度が主体的な活動に発展した実例であろう。
3. 日本の教育強化と1905年の竹島編入の争点化
2017年文部科学省告示の学習指導要領の小学校「社会」では、「竹島や北方領土、尖閣諸島が我が国の固有の領土であることに触れること」とされた。さらに、2017年告示の学習指導要領の中学校「社会」の〔地理的分野〕と〔公民的分野〕、2018年告示の学習指導要領の高校「地理歴史」の〔地理総合〕と〔地理探求〕、同じく「公民」の〔公共〕と〔政治・経済〕でも、日本固有の領土である竹島をめぐる問題を取り上げるとされ、学習指導要領解説では竹島問題への生徒の理解を深めさせることが指示された。また中高の歴史学習でも竹島問題に言及することとされ、韓国では2011年改訂社会科教育課程で実現していた、小学校から高校までの教育で竹島問題を扱う仕組みが整った。
2017年告示の学習指導要領解説の中学校「社会」〔歴史的分野〕と2018年告示の学習指導要領解説の高校「地理歴史」の〔日本史探求〕と〔歴史総合〕では、1905年の竹島の島根県編入について「竹島、尖閣諸島については、我が国が国際法上正当な根拠に基づき正式に領土に編入した経緯にも触れ、これらの領土についての我が国の立場が歴史的にも国際法上も正当であることを理解できるようにする」と説明された。
韓国の2015年改訂社会科教育課程では、中学「歴史」で「日帝の国権侵奪過程とこれに合わせた国権守護運動の流れを理解し、日本が独島を違法に占有したことを把握する」、高校「韓国史」で「日帝によって成された独島不法編入過程の問題点と間島協約の不当性を理解する」と、1905年の竹島の島根県編入は日本の朝鮮半島侵略過程の一つと主張されていた。1905年以前に朝鮮半島にあった政府が竹島を支配していた証拠はないためこの主張は誤りであるが、日本の学習指導要領解説は韓国の主張に反論する形になっていた。