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総合的論点

論点解説 領土と認められるために必要なこと

中野 徹也 / 関西大学法学部教授

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竹島問題と類似する領土紛争に関する例
「マンキエ及びエクレオ事件」

 イギリスとフランスが、国際司法裁判所で、マンキエ及びエクレオの帰属をめぐって争った事例は、かねてより、竹島問題との類似性が指摘されてきた。両国間に係争領域の帰属を明記する条約がなく、また互いに古くから当該領域を領有してきたと主張していたからである。

 マンキエ及びエクレオは、イギリス領チャンネル諸島に含まれるジャージー島とフランス本土との間にある小島群である。19世紀末から、イギリスとフランスは、これらの帰属をめぐり争ってきたが、1950年12月、両国は特別協定を締結し、この問題を国際司法裁判所に付託することに合意した。 

 主たる争点は、マンキエ及びエクレオの帰属を決定するに足る国際法上の根拠は何かだった。両国は、まず中世以降の歴史的事実に基づき、「古くからの権原」や「原始権原」を保持していると主張した。 この点につき、裁判所は、広く知られている歴史的事実に照らして、イギリスのいう「古くからの権原」から、同国の見解が妥当であるとの推定を導くことができるとしつつも、これだけでは帰属を決定するに足る決定的根拠にはならないとした。 また、フランスのいう「原始権原」は、これも広く知られている歴史的事実に照らして、かりに保持していたとしても、失効した可能性が高いので、「別の有効な権原」に引き継がれる必要があるとされる。裁判所によれば、決定的に重要なのは、中世の出来事から導かれる間接的な推定ではなく、占有に直接関係する証拠である。

 裁判所は、占有に直接関係する証拠として、裁判記録、課税、土地の登記、関係法律の制定及び施設の構築を挙げている。これらは、「主権者として行動する意思」を示すものであって、「国家機能の表示」であるとされる。裁判所は、イギリスが関係する証拠をより多く提示した一方で、フランスは係争領域がイギリス領であることを認めていたと解される行動をとっていたことに留意し、マンキエ及びエクレオは、いずれもイギリスに帰属するとの判決を下した。

国際裁判所が提示してきた基準
「領域主権の継続的かつ平穏な行使」

 国家領域は、陸地の部分である領土、海の部分である領水および空の部分である領空から成る。国家領域の基本となるのは、陸地の部分である領土である。領土周辺の一定の海域が領水、領土と領水の上空が領空とされるので、領土がなければ、領水と領空もないからである。 

 国家領域に対しては、国家の主権が及ぶ。国家は、他の権力に従属することなく、自国領域に存在するすべての人及び物を統治し、支配することができる。主権のなかで、統治を行う権利や領域を処分する権利など、領域にかかわる権利が領域主権である

 一定の陸地を国家領域とするためには、そうするに足る原因又は根拠が必要となる。国際法は、これを領域権原と呼んできた。先占、時効、割譲、併合、添付及び征服などの様式が、伝統的に認められてきた領域権原である。 しかし、これらの様式は、複数の国が対象領域に対して権原を主張するような場合を想定していない。実際には、竹島問題のように、複数の国が、権原について相反する主張をすることによって紛争が発生する。 しかも、事実関係の複雑さと多様性が紛争の原因になっていることも少なくない。たとえば、先占が主張される場合、対象領域が無主地だったのか、それとも他国の領域だったのか、さらにはどの国が実効的支配を行ってきたのか、などである。これらを決定する際に必要な事実関係を認定するのはきわめて困難である。

 それゆえに、領域紛争の解決を依頼された国際司法裁判所は、伝統的な領域権原によらず、独自の基準を提示して解決してきた。その嚆矢が、1928年のパルマス島事件である。 本件で、単独仲裁人として任命されたフーバーは、「領域主権の継続的かつ平穏な行使」が権原に相当するとし、その観点から、パルマス島の帰属を決定した。 また、常設国際司法裁判所は、東部グリーンランド事件で、デンマークによる「領域主権の継続的かつ平穏な行使」と、それを相手国ノルウェーが承認していたことに依拠して、デンマークに係争地域が帰属するとの判決を下した。 さらに、国際司法裁判所も、上述のマンキエ及びエクレオ事件で、「主権者として行動する意思」をともない、「国家機能の表示」とみなされる行為をとってきたと認定するに足る証拠を、フランスよりも多く提示したイギリスに、係争領域が帰属するとした。

国家機能・主権者として行動する意思の表示と認定されるのは?
「立法権、行政権及び司法権の行使」

 このように、国際裁判所は、伝統的な領域権原のいずれかを適用して領域紛争を解決してきたのではない。紛争当事国に、「領域主権の継続的かつ平穏な行使」にあたる証拠、すなわち、対象領域について主権者として行動する意思をもって国家機能を有効に表示又は行使してきたとみなすに足る証拠の提示を求め、その優劣を判断するという手法をとってきた。

 これまで、国際裁判所は、対象領域に対する立法権、行政権及び司法権の行使を、たびたび「領域主権の継続的かつ平穏な行使」にあたると認定してきた。 たとえば、上述のマンキエ及びエクレオ事件で認定されたもののほか、狩猟及び漁業に関する法律の制定(東部グリーンランド事件)、海がめの卵の採取に関する規制管理措置、鳥獣保護地区の設置(リギタン・シパダン島に対する主権事件)、 出入国管理規制(出入国審査官による対象領域への訪問、第三国国民に対する労働許可及び査証の発行)(カリブ海における海洋画定事件)、関係国公務員に対する対象領域への訪問許可(ペドラ・ブランカ/ブラウ・バツ・プテーに対する主権事件)などがある。

 他方、灯台や浮標などの航行援助施設の建設又は設置については、判断が分かれている。カタールとバーレーンの海洋境界画定及び領土問題事件では、「極小の島嶼」にこのような施設を建設又は設置した国は、かかる島嶼に対する主権を有するとの主張を裏付けるに足る証拠と認定された。 他方、マンキエ及びエクレオ事件では、主として船舶輸送を保護するために、かかる施設が建設又は設置されていたとされ、国家機能・主権者として行動する意思の表示とはみなされなかった。複数国の海軍による共同巡視又は演習、軍旗の掲揚などの行為も、それらの目的に照らして、通常は主権の表示にならないとされている(ペドラ・ブランカ/ブラウ・バツ・プテーに対する主権事件)。

 したがって、国家機関の活動であっても、そのすべてが領域権原に相当する証拠と認定されるわけではない。国際裁判所は、さまざまな要素、とりわけ活動の目的を考慮して、当事国が提示する証拠の優劣を判断していると言える。  なお、私人の活動は、原則として国家に帰属しないので、国家機能・主権者として行動する意思の表示とはみなされない。ただし、私人の活動であっても、公的な規制にもとづき、又は政府の許可を得て行われたものについては、 かかる機能・意思の表示とみなされる余地がある(リギタン・シパダン島に対する主権事件、カリブ海における海洋画定事件)。この場合は、純然たる私人の活動ではなく、国家による行政権の行使が、私人の活動を介して明らかになると解されるからである。

「関連要素の考慮」

 国家機能の表示にあたる行為がない場合でも、対象となった島が「船舶の航行に危険を及ぼす障害」として広く知られており、かつ、その島に対して競合する主権の主張が提起されていなければ、周辺を支配していた国の原始権原が認定されることもある(ペドラ・ブランカ/ブラウ・バツ・プテーに対する主権事件)。

 地図は、領域の帰属を定める条約に添付されているときなどは、最優先の証拠として扱われる。それ以外の地図の証拠としての価値は、出所、品質および作製時期など、さまざまの要素により左右される。一般に、公式地図は、私的地図よりも価値が高い。対象領域を正確に表示している地図や、紛争発生前に作製された地図も、高く評価される可能性がある。 また、公刊物、とくに政府が出版する書籍などに対象領域が記載されている(又は記載されていない)ことが、どのような効果をもたらすのか(又はもたらさないのか)という点も、領域紛争に関する国際裁判で、しばしば提起される争点の一つである。 国際裁判所は、さまざまの要素を考慮して、その効果を判断してきた。紙幅の関係もあり、ここでは、事実の描写が主たる目的であるとして、政府公刊物への記載の有無を重視しなかった裁判例(ペドラ・ブランカ/ブラウ・バツ・プテーに対する主権事件)があることを指摘するにとどめておこう。  

国家機能・主権者として行動する意思の表示
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