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世界各国のスタートアップ企業と政策担当者に対する日本の規制のサンドボックス制度の活用方法案内(パネルディスカッション議事録)

2023年11月16日(木)11時45分-12時15分
於:シンガポール・フィンテック・フェスティバル、レギュレーション・ステージ

左から鬼頭武嗣 Elevandi Japan Co-founder兼CEO、岡田陽 内閣官房 企画官


鬼頭
 鬼頭武嗣です。私はElevandi JapanのCo-founder及びCEOでございまして、日本政府の規制のサンドボックス制度に関する委員を6年間務めております。本日は、岡田さんと日本の規制のサンドボックス制度に関する紹介の機会をいただき、誠にありがとうございます。それでは、岡田さん、自己紹介をお願いいたします。

岡田
 日本の内閣官房新しい資本主義実現本部事務局企画官の岡田陽と申します。本日はお集まりいただきありがとうございます。私は、日本の規制のサンドボックス制度に関して、各省庁と調整を行う省庁横断的なチームのリーダーをしています。その他、スタートアップ支援策の総合調整等を担当し、新しい技術・ビジネスモデルの社会実装・市場創出を支援しています。

鬼頭
 ありがとうございます。それでは、まず初めにご来場の皆様に質問させていただきます。日本の規制のサンドボックス制度について聞いたことのある方は挙手をお願いいたします。聞いたことのある方は、誰もいらっしゃらないですか。
 ありがとうございます。岡田さん、日本の規制のサンドボックス制度に関してご説明いただけますか。

岡田
 日本の規制のサンドボックス制度の概要をご説明します。近年、AI、IoT、ブロックチェーンといった技術進歩が次々と出現しています。他方、規制所管官庁はそうした技術進歩についての包括的な知見が不十分な場合があり、既存の法体系は新規技術を前提として作られていないため、法と技術が整合的でない場合も見られます。規制のサンドボックス制度は、そうした課題に対応するために創設された、規制の壁を乗り越えるためのアジャイルな解決手段です。規制のサンドボックス制度は、分野を問わずあらゆる分野において、規制との関係を整理し、実証の期間や参加者など条件を限定した上で、既存の規制の適用を受けることなく、新しい技術を用いた実証を迅速に実施することを可能にします。実証によって得られた情報やデータは、事業化や規制改革の推進に活用することが可能です。実証後、規制面の問題がなければ、そのまま事業化に進むことができ、規制に関する課題があれば、実証で集めたデータが規制改革の触媒として機能し、規制所管官庁は法令の見直しを含めた規制改革を検討することになります。
 規制のサンドボックス制度は2018年に3年間の時限付きで導入され、20件を超える実証案件が認定され、成功例も出たことから、2021年に恒久化されました。これまでに、フィンテック、モビリティ、AI、IoT、ヘルステック等の幅広い分野において30件の実証案件が認定されています。
 また、内閣官房には、規制改革に関連する相談を広く受け付ける一元窓口を設けており、事業者の事前相談を受け付け、情報提供や伴走支援等を提供しています。以上が日本の規制のサンドボックス制度の概要です。

鬼頭
 岡田さん、ありがとうございます。いくつかキーワードがあります。日本の規制のサンドボックス制度は金融業界だけではなく、あらゆる業界で利用可能であり、また、商用化や規制改革にも利用されており、すでに30案件になります。そのため1つずつ詳細を伺います。
 まず初めに、他国の規制のサンドボックスと日本の規制のサンドボックス制度との違いを説明いただけますか。

岡田
 多くの国に、「規制のサンドボックス」と称する制度はありますが、対象範囲や機能が様々な点で異なります。日本の制度の最も顕著な特徴は、金融サービスに限らず、他の分野も含めて、あらゆる分野、産業において適用可能な点です。
 また、日本の制度では、規制のサンドボックス制度や他の規制改革関連制度を利用したい場合に、内閣官房に設けられた一元窓口に相談することが可能です。ここでは、申請内容に対する審査のみならず、正式申請前の事前相談も受け付けています。どの法規制が自社のビジネスモデルに関係するのか分からなかったり、新規ビジネスの妨げとなり得る特定の規制を懸念されたりする場合があるかと思います。このような場合には、内閣官房の一元窓口に相談をいただければ、規制上の課題を精査し、規制所管省庁と議論をするための調整を行い、実証の設計や実施を支援します。日本の制度では、こうした伴走支援を提供しています。

鬼頭
 岡田さんは、内閣官房の一元窓口を率いておられますが、規制に関する課題に取組もうとする企業が日本の規制のサンドボックス制度を使用したい場合にはどのようなプロセスで進むかについて教えていただけますか。

岡田
 日本の規制のサンドボックス制度の機能についてご説明をします。まず、内閣官房の一元窓口に問合わせをいただければ、実証の設計についての事前相談や伴走支援を提供します。実証内容が具体化した段階で、規制を所管する主務大臣へ正式申請を行います。
 主務大臣は、1か月以内に申請に対する見解を新技術等効果評価委員会に提出します。評価委員会は、独立した第三者委員会であり、申請内容や大臣の決定を評価し意見を述べることができます。主務大臣は、評価委員会の意見を踏まえてその決定を再考し、最終決定を行うこととなります。
 実証計画が認定された場合、実証の実施が可能となり、実証後にデータ等を含めた実証結果を主務大臣に報告します。規制に関する課題がない場合は、すぐに事業化に移ることが可能です。課題がある場合には、規制所管大臣が既存の法規制を見直すことになります。
 規制所管大臣の対応が遅い場合には、内閣官房から規制所管大臣に対して規制改革に向けた検討の加速を迫る仕組みもあります。以上が日本の規制のサンドボックス制度のプロセスの全体像です。

鬼頭
 ご紹介ありがとうございました。規制のサンドボックス制度が規制改革に役立つとおっしゃいましたが、日本には様々な規制改革に関する手段があると思います。日本における他の規制改革手段をご紹介いただけますか。

岡田
 規制改革は、民間セクターでの経済成長を促す重要な政策課題です。先ほど日本の規制のサンドボックス制度の概要を説明しましたが、規制改革に関しては規制のサンドボックス制度の他にも制度があります。例えば、グレーゾーン解消制度は、事業を始める前に法規制の解釈や適合性を確認したい場合に利用できます。また、新事業特例制度は、事業化のための特別措置を求める場合に利用できます。
 このように、規制改革に繋がる多くの政策手段があります。自社のビジネスに適切な政策手段を判別することが大変な場合もあると思いますが、このような場合に、内閣官房の一元窓口に相談いただければ、御社の課題を精査し、規制のサンドボックス制度のみならず、規制改革関連制度から最も迅速で問題解決に適した制度を紹介することができます。

鬼頭
 現時点で既に30件の認定があったとの言及がありました。日本において大きなインパクトのあったユースケースを教えていただけますか。

岡田
 規制のサンドボックス制度における代表的な成功例としては、mobby ride社とLuup社により行われたモビリティに関する実証があります。これらは、電動キックボードのシェアリング事業です。当時の規制枠組みでは、公道において電動キックボードを運転する際には、ヘルメットの着用や運転免許証の所持等が求められました。他方、電動キックボードの移動サービスを展開したいスタートアップ企業にとって、ヘルメットの着用や運転免許証の所持を顧客に求めることは困難を伴いました。そのため、私有地である大学構内での実証を計画しました。大学構内の道路は公道ではないため、運転免許証の所持等がなくても、電動キックボードを走行させ、データを収集することが可能となりました。
 実証から得られたデータ等を基に段階的に規制が緩和され、2022年4月の道路交通法改正に繋がりました。ヘルメットの着用は努力義務となり、16歳以上であれば、運転免許証を所持せずに、車道のみならず自転車専用レーンで電動キックボードを運転することが可能となりました。
 この規制の見直しは、新しいモビリティサービス市場を創出するとともに、日本経済に大きなインパクト与えるものとなりました。

鬼頭
 日本進出を希望しているが、規制における課題をお持ちのグローバル企業を、どのように引き込もうとしていますか。

岡田
 外国企業やスタートアップを日本市場に誘致し、日本でイノベーションを起こしてもらうことは極めて重要だと考えています。他方で、外国企業は、日本市場参入の際に規制の問題に直面することがあり、外国企業は日本の規制について詳しくないため、どの法規制が自社の事業に適用されるのか分からない場合もあります。こうした規制上の問題が外国企業による日本市場への参入を妨げている可能性があります。
 こうした規制の問題を乗り越えるため、日本政府は、規制のサンドボックス制度やグレーゾーン解消制度を含む規制改革関連制度を整備しています。また、内閣官房に一元窓口を設けて、外国企業に対して事前相談や伴走支援を提供しています。こうした措置は、日本市場への進出を考える外国企業にとって魅力的なものとなり得ます。
 残念ながら、規制のサンドボックス制度に関連した補助金はありませんが、こうした実質的な支援を提供することが可能です。この点は、日本の規制のサンドボックス制度や規制改革関連制度の最も顕著な特徴であり、日本市場への進出を考えている外国企業への実質的なメリットになり得ると考えています。

鬼頭
 それは良いですね。実際にこの会場でJapan Pavilionを構えており、そこで海外の企業から多くのご質問をいただいていますが、日本への参入に不安を感じている企業の多くが、規制を十分に理解できていなかったりします。ですが、岡田さんのお話では、規制のサンドボックス制度のチームは日本における規制の課題に取組むために多大な支援をしています。この話を聞けて本当に良かったです。
 それでは、次の質問に移ります。海外企業からの規制のサンドボックス制度に関する問合わせについて、どのような状況でしょうか?

岡田
 日本の規制のサンドボックス制度は、外国企業にも活用されています。例えば、事業展開のために日本に子会社を設立し、日本人を雇用して事業展開した上で、規制のサンドボックス制度を活用するといった例があります。
 我々としては、本社が海外にある外国企業によって直接活用されるようなモデルケースを創出したいと考えています。シンガポールや東南アジア諸国での事業展開だけではなく、日本でも同時に事業展開を実施したい外国企業を想定しています。日本市場参入の際に、外国企業は、規制上の課題だけではなく、人材確保の課題にも直面するかもしれません。事業展開や市場調査を実施し、英語でコミュニケーションができる日本人を確保することが難しい場合もあるかもしれませんが、皆様にシンガポールや東南アジア市場と同時に、是非日本市場に乗り出していただきたいと思っています。挑戦していただける企業をお待ちしています。

鬼頭
 素晴らしいですね。ここで視点を変えたいと思います。政策担当者や規制当局の観点では、規制のサンドボックス制度の国際連携や日本国外の政策担当者との連携機会があると私は考えています。そこで最初の質問としては、規制のサンドボックス制度の国際連携についてどう考えているのか、日本国内によりフォーカスしていくつもりなのか、他国の政策担当者への働きかけにフォーカスしていくつもりなのかという点についてお伺いします。

岡田
 他国政府の政策担当者との国際連携は重要であると考えています。先ほどお話しした通り、多くの政府では、「規制のサンドボックス」と称する制度はありますが、その適用対象や機能の範囲は様々な点で異なっています。他方、国際的な意見交換は、我々の規制のサンドボックス制度を理解し改善するために必要です。各国の規制のサンドボックス制度に関する差異や共通点を理解し、その機能や審査プロセスの迅速化について知見を共有することは出来ます。また、他国のベストプラクティスに基づき、制度全体のプロセスを絶え間なく改善する方法を学ぶことも有意義です。
 個人的には、国境を越えた協力が必要な政策分野はあると思いますが、国際連携の必要性の程度は分野に異なります。フィンテックのような分野には、国境を越えて共通する多くの要素があるのではないでしょうか。そうした分野では、例えば、複数国で同時に申込審査をするというような国際的又は多国間の規制のサンドボックスの枠組みを設けることの将来的な可能性もあるかもしれません。

鬼頭
 岡田さんに多くの質問を用意してきたのですが、時間も無くなってきました。最後に、日本の内閣官房に相談したいという企業や政策担当者向けに何かコメントはありますか。

岡田
 外国企業による日本の規制のサンドボックス制度のフル活用をお待ちしています。事前相談から正式申請に至るまでの伴走支援として、規制所管省庁との議論や実証計画の設計に関して支援を提供しています。また、こうした伴走支援に加えて、規制改革に詳しい弁護士による無料相談を提供する制度もあります。
 我々は、外国企業が日本市場に進出する際のあらゆる懸念を緩和し、払拭したいと考えています。最先端の技術を活用した新しいビジネスアイデアをお持ちの方は、どの分野でも、またどの国籍であっても、お気軽にお問い合わせください。
 各国の政策担当者に対しては、あなた方と協力できることを期待していることをお伝えします。規制のサンドボックス制度や規制改革関連制度に関する意見交換や、規制のサンドボックスに関する国際連携の可能性についての議論を行いたいと考えています。

鬼頭
 ありがとうございました。


※なお、本パネルディスカッションの概要は、こちらに掲載しております。