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国土強靱化:私のひとこと vol.17

未来を書き換えよう!
~小さなBCPの積み重ねが、無限のBCPに~

Web版「リスク対策.com」編集長 
大越聡氏

リスク対策.COM WEB版 編集長の大越聡氏に、BCPの状況や今後の展望などについて話を伺いました。

もともと、水回り設備総合メーカーで長年、CSRや危機管理などのコーポレート広報を担当していました。2011年に東日本大震災が発生し、企業の広報としてメディア対応するなか、被災地に対して何もできない自分を歯がゆく思っていました。その後、縁があり日本で唯一の危機管理とBCPの専門誌「リスク対策.com」の編集部に参画し、現在はWeb版「リスク対策.com」(http://www.risktaisaku.com/)の編集長をしています。 BCPとはBusiness Continuity Planの略で、一般的には「事業継続計画」と呼ばれています。中小企業庁のホームページでは以下のように説明されています。

“BCP(事業継続計画)とは、企業が自然災害、大火災、テロ攻撃などの緊急事態に遭遇した場合において、事業資産の損害を最小限にとどめつつ、中核となる事業の継続あるいは早期復旧を可能とするために、平常時に行うべき活動や緊急時における事業継続のための方法、手段などを取り決めておく計画のこと”
http://www.chusho.meti.go.jp/bcp/contents/level_c/bcpgl_01_1.html

災害大国日本において、企業がBCPを策定することは企業を守るため、取引先を守るため、そして何よりも従業員を守るためにとても大切なものですが、今年度の内閣府の発表では大企業で6割程度、中小企業ですと3割程度という策定状況でした(「平成 27 年度企業の事業継続及び防災の取組に関する実態調査」/内閣府防災担当より)。なんとかこの数字を100%に近づけること、そして策定した企業にはさらなるブラッシュアップを図ってもらい、次の巨大災害で一人でも犠牲者を少なくすることが私たちの使命だと思っています。
ただし、現実は非常に厳しいものがあります。BCPには建物の耐震補強、備蓄や代替拠点の確保、専任の担当者を置くなどを少なからず企業に投資を強いるものになります。日々、従業員や株主などのステークホルダーに利益を還元しながら企業活動を展開している経営者の皆さんには、いつ来るかわからない災害対策に多額の投資をすることの優先順位が非常に低いものになっているのは、理解ができないでもありません。

レジリエンスってなんだろう?

さて、少し視点を変えた話をしたいと思います。現在、「国土強靭化」とも訳されている「レジリエンス」とはいったいどのようなものでしょうか。強靭化の「靭」の文字は「しなやか」という意味なので、「強くしなやかな国づくり」というのは非常に興味深い訳語だと思っています。その「強くしなやかな国づくり」をするために、具体的に何が必要なのかを考えた時期がありました。その時に、とある教授に聞いた式がとても印象に残ったので紹介します。阪神・淡路大震災以前の防災とは、以下のような被害低減モデルでした。

すなわち、被害(D)を低減するには、危機の大きさ、ばく露量(E:どのくらいの人が被害にあったか)と惰弱性(V:土木建築構造の弱点)を減らせば良いという、言わばハード中心の考え方だったのです。しかし、皆さんもご存じのとおり阪神・淡路大震災や東日本大震災ではハード中心の対策の「もろさ」が露呈し、一方で自助、共助の取り組みやボランティアといった「人間の行動」そのものが災害の時には大きな力になることが証明されました。それを自然科学的に表現したのが以下の式です。

ハードももちろん大事ですが、それと同じくらい重要なものとしてA(人間の行動)が挙げられています。すなわち、レジリエンスとは耐震補強や備蓄などの「ハード」と、事前の訓練や有志によるボランティアなどの「人間の行動」が合わさることによって、「復旧・復興までの時間を少なくする」ことだと定義しているのです。この考え方は、私のなかでとてもしっくりきました。それと同時に、BCPに対する考え方も変わっていきました。

1人ひとりのBCPが無限のBCPになる

会社のBCPがどれだけしっかりしていたとしても、従業員一人ひとりの防災意識が高くなければ、そのBCPは絵に描いた餅になってしまうでしょう。なぜなら、自分の家族が被災していたら、会社で十分な仕事ができるとは考えられないからです。この「私のひとこと」シリーズでも取材されていたあんどうりすさんは、「家庭を守れない人に組織は守れない」と話しています。私もまさにその通りだと思いました。企業がBCPを当初の目標通りに達成するには、従業員全員が、まず自分の家庭で普段から防災について考えていくことが重要なのです。
先進的なBCPを策定されているとあるメーカーでは、最近「従業員が自宅でどれだけ備蓄しているか」をBCM(事業継続マネジメントシステム)指標の1つにすることを真剣に検討しているそうです。また、とある飲食店を展開するグループでは帰宅困難者対策として、同じ方面に帰る従業員をグループ分けし、懇親会を定期的に開催してもらい、防災について考えてもらうという取り組みをしています。どちらもそれほど費用がかかるものではありませんが、企業のBCPの本質をついたアイデアではないかと思います。こうした小さな取り組みを繰り返すことによって、1人ひとりの小さなBCPが増えていくことが、来るべき災害に対応できる無限のBCPになるのではないかと現在私は考えています。

防災・BCPはプロフェッショナルだけのものではない

私が現在編集長をつとめているWeb版「リスク対策.com」は、全て無料で危機管理に関するノウハウなどのコンテンツを順次公開しています。これは読者の皆さんに広く危機管理や防災に対する知識を持ってほしいと思うのと同時に、「危機管理や防災はそれほど難しいものではない」ということを読者に伝えたかったという想いがあります。私自身も東日本大震災が発生する前までは、防災は研究者や企業の防災担当者、町の消防団など、プロフェッショナルでないと分からないものだと考えていました。しかし実際に取材してみると、プロフェッショナルだと考えていた人たちも日々悩みながら防災に取り組んでいることが分かります。また、企業や自治体の防災担当者は人事異動で人が変わると「1からやり直し」になってしまう事は少なくありません。私たちはいつも危機管理に対して「素人の目線」を保ちながら、少しでも多くの人に役立つ情報を届けたいと考えています。
もう1つ編集で心がけているのは、「成功事例を探そう」ということです。残念ながら日本の多くのメディアでは、失敗したことは大きく取り上げますが成功した事例についてはあまり取り上げない傾向にあります。BCPにおいて成功するということは、災害にあったのちに速やかに業務が再開できることです。そのため、なかなか表に出ることもありません。しかし、そのためには日ごろからのたゆまぬ訓練や担当者の努力が存在します。これこそが「人間の行動」によるレジリエンスなのだなと考えます。

知られていない「熊本地震の教訓」

熊本地震でもさまざまな事例を取材しました。そのなかでは、これはメディアもふくめ誤解されているなと感じるところもありました。例えば、熊本地震では「避難所でもスマホは通じたので助かった」「避難所に発電車がすぐ駆けつけてくれたので、スマホの電源には困らなかった」という話を聞いたことがないでしょうか。でも、その発電車の燃料はどこから来たのでしょう。発電車は正式には「高圧発電機車」と呼ばれ、エンジンで電気を発電し、電源を供給します。そのために必要な燃料は1時間に100リットル。ドラム缶が200リットルと言えばその多さが分かるでしょうか。その電源車が全国から最大で162台駆けつけ、被災地に電気を届けました。もちろん、スマホの基地局を稼働するのにも燃料は不可欠です。それだけの大量の燃料を被災地に届けたのは誰なのでしょうか?
東日本大震災では、被災地で深刻な燃料不足が発生。燃料にも出荷制限がかかるため、ガソリンスタンドに夜を徹して並ぶ光景があちらこちらで見られました。燃料を節約するために車で七輪を焚いたことによる死亡者まで出ています。そのような状況のなかで活躍したのは、いわゆる中小の燃料配送業者でした。彼らは当時の教訓を生かし、全国どこが被災しても燃料を届けられるような体制を構築するサービスを開始しています。今回の熊本では、被災した益城町に隣接する菊陽町に、そのような燃料配送業者が3万リットルの燃料を保管しており、被災地の電力供給に貢献しました。逆に考えると、この3万リットルの燃料がなければ被災直後からの電力供給はあれほど安定したものではなかったかもしれません。電力が供給されなければ、スマートホンも通じません。私が恐れているのは、今回の熊本地震で「スマートホンは比較的通じた」という事実だけが残り、次の災害対応で間違った対応をしてしまうことです。
先ほどの成功事例の話もそうなのですが、何も問題が発生しなければ、メディアでは取り上げられません。私たちは専門誌として、「なぜ問題が発生せずに済んだのか」も検証していかなくてはいけないと考えています。

南阿蘇村に行く国道沿い

崩落した阿蘇大橋の現場

未来を書き換えよう!

    【発災直後の様相】建物・人的被害
  • 地震の揺れにより、約 62.7 万棟~約 134.6 万棟が全壊する。これに伴い、約 3.8 万人~約 5.9 万人の死者が発生する。また、建物倒壊に伴い救助を要する 人が約 14.1 万人~約 24.3 万人発生する。
  • 津波により、約 13.2 万棟~約 16.9 万棟が全壊する。これに伴い、約 11.7 万 人~約 22.4 万人の死者が発生する。また、津波浸水に伴い救助を要する人が 約 2.6 万人~約 3.5 万人発生する。
  • 延焼火災を含む大規模な火災により、約 4.7 万棟~約 75 万棟が焼失する。こ れに伴い、約 2.6 千人~約 2.2 万人の死者が発生する。

これは内閣府が平成25年3月に発表した「南海トラフ巨大地震の被害想定について (第二次報告)」から「発災直後の様相」を抜粋したものです。私たちの活動は、この被害想定を少しずつ良い方向に書き換える作業と言えるのではないでしょうか。もしも現在、BCP策定を躊躇(ちゅうちょ)されている企業がありましたら、BCPは「万が一の時の備え」ではなく、「来るべき未来を、少しでも良い方向に書き換えるために必要なこと」と考え、取り組んでほしいと思います。リスク対策.comは、そのために必要な情報を日々発信していきたいと考えています。

大越聡氏 プロフィール
大学卒業後、通信社や出版社などを経たのち、大手水回り機器総合メーカーにて約10年間危機管理やCSRなどのコーポレート広報を手がける。2013年から「リスク対策.com」に参画し、現在はWeb版「リスク対策.com」編集長。企業・自治体の危機管理・BCPに関する取材多数。得意分野はリスクコミュニケーション。

HP http://www.risktaisaku.com/
Twitter https://twitter.com/Business_Risk
Facebook https://www.facebook.com/risktaisaku/

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