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人身取引対策行動計画


平成16年12月7日

 

I.人身取引対策の重要性

 
 人身取引は、重大な人権侵害であり、人道的観点からも迅速・的確な対応を求められている。これは人身取引が、その被害者、特に女性と児童に対して、深刻な精神的・肉体的苦痛をもたらし、その損害の回復は非常に困難だからである。
 
 このような認識の下、政府は、人身取引の防止・撲滅と被害者の保護に向け、関係省庁間の緊密な連携を図り、国際社会と協調し、これを早急かつ着実に推進するため、本年4月、人身取引対策に関する関係省庁連絡会議を設置した。人身取引は、複合的かつ幅の広い問題であり、人身取引対策を推進するに当たっては、その防止・撲滅、被害者の保護を含む総合的・包括的な対策を取ることが重要であることから、人身取引政府協議調査団をフィリピン及びタイに派遣し、内外の関係機関やNGOの意見を聴取した上で、総合的・包括的な人身取引対策を早急に講ずることを目指して、行動計画を策定し、国際的な組織犯罪である人身取引に決然として立ち向かうこととした。
 
 行動計画では、人身取引被害者を保護の対象として明確に位置づけ、被害者が心身共に過酷な状況に置かれていたことを十分配慮し、被害者の状況に応じ、きめ細かな対応を行うとともに、加害者(ブローカー、雇用主等)の処罰に関しては、事案の重大性を十分に踏まえた刑罰法令等の整備を図るとともに、取締りを一層強化することとした。また、我が国に人身取引の存在を許容する要因となり得ていた諸制度にも踏み込み、人身取引の防止を図ることとした。
 
(注) なお、本行動計画にいう「人身取引」は、「国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約を補足する人、特に女性及び児童の取引を防止し、抑止し及び処罰するための議定書」第3条の定義に従っている。
 

II.人身取引の実態把握の徹底

 
1.被害者の実態把握
 
 各関係機関による被害者の実態把握
 
 警察及び入国管理局において、外国人女性等が稼働する店舗、外国人労働者が稼働する建設現場や工場等の実態の把握、人身取引事犯に係る外国人、ブローカー、雇用主等に関する情報の収集に努めるなど、関係機関において情報収集活動に努めるとともに、入手した人身取引に関連する情報を集約した上で、これを共有し、また婦人相談所において人身取引被害者の保護の状況について調査を行うなど、被害者の実態把握に努める。 さらに、各機関の間で事案を引き継ぐ際には遺漏のなきよう、確実な連絡体制を確立する。
 
諸外国政府及び関連機関との情報交換
 人身取引の目的地国である我が国における被害者の実態を把握するため、諸外国政府及び関連機関等との間で連絡ネットワークを立ち上げ、関連情報の収集を推進する。
 
 
2.ブローカーの実態把握
 
 捜査機関におけるブローカーの実態把握
 
 人身取引容疑事案を認知した場合、悪質なブローカー、雇用主等の取締りや国内外のブローカーの組織的背景の解明を念頭に置いて、事件化に向けた捜査を積極的に行い、ブローカーの実態把握に努める。
 
退去強制手続等におけるブローカーの実態把握
 
 退去強制手続及び在留審査手続において人身取引事案を認知した場合には、外国人被害者から実態について事情聴取しているところ、その一環として国内外のブローカー組織等についても積極的に実態の把握に努める。
 

III.総合的・包括的な人身取引対策

 
 
1.人身取引議定書の締結
 
 人身取引議定書の締結
 
 「国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約を補足する人、特に女性及び児童の取引を防止し、抑止し及び処罰するための議定書(以下「人身取引議定書」という。)」(仮称)の早期締結のため、可能な限り次期通常国会の承認を求めることを目指し、人身取引議定書を実施するための国内法整備の要否及びその内容について、関係省庁間での検討を鋭意進める。
 
 人身の自由を侵害する行為の処罰に関する罰則の整備
 
 人身取引議定書第5条に定める人身取引の犯罪化のため、現在、法制審議会において、人身取引を始めとする人身の自由を侵害する行為の処罰に関する罰則の整備について審議中であり、その答申を受けた後、次期通常国会を目途に刑法等の一部を改正する法律案(仮称)を提出する方針である。
 
 出入国管理及び難民認定法の改正及び諸手続の柔軟な運用
 
 人身取引議定書第6条及び第7条に定める人身取引被害者の保護等のための退去強制事由、在留特別許可事由等についての改正を行うため、次期通常国会を目途に出入国管理及び難民認定法の一部を改正する法律案(仮称)を提出する方針である。また、出入国管理及び難民認定法に定める諸手続の柔軟な運用を行う。
 
 婦人相談所における被害者に対する援助
 
 人身取引議定書第6条に定める人身取引被害者の保護及び援助のため、衣食住の提供、カウンセリング、通訳の確保等の取組みを推進する。
 
 取り締まりの強化
 
 警察及び海上保安庁においては、人身取引容疑事犯を認知した場合には、相互に緊密な連携、協力を図るとともに、入国管理局、労働基準監督署等関係機関と連携し、悪質な雇用主、ブローカー等の摘発を念頭において、人身取引事犯の取締りを一層強化する。
 
 
2.人身取引を防止するための諸対策の推進
 
(1)出入国管理の強化
 
 空海港における厳格な上陸審査の実施
 
 人身取引による被害を未然に防止するためには、空海港における水際対策が重要かつ効果的であり、厳格な上陸審査を実施する。具体的には、これまでも次のような対応を行っているところ、これをなお一層厳格に行っていく。
・「短期滞在」の在留資格から不法残留する者は、不法滞在者全体の約7割を占めていることから、人身取引被害者を含めて、不法残留者が多く発生している出身国別にデータを分析し、上陸審査を強化する。
・我が国を経由し第三国に入国を図ろうとする人身取引被害事案を防止するため、空港の直行通過区域におけるパトロール活動を行い、航空会社と協力してブローカー等からの偽変造旅券の受け渡し等不審な動きの監視・摘発に努める。
 さらに、今後は、我が国への不法入国者が数多く出発している外国の空港にリエゾン・オフィサー(連絡渉外官)として偽変造文書鑑識のエキスパートを派遣することなど、新しい水際対策を積極的に行っていく。
 
 人身取引事案に係る情報の共有
 
 送出国の関係機関相互との連携を強化し、ブローカーに関する情報を始め人身取引事案に係る情報を共有し、これを積極的に活用することによって、人身取引事案発生の未然防止を図る。
 
 水際における監視、取締りの推進
 
 警察、入国管理局、海上保安庁等は緊密な協力関係を構築し、相互に情報交換及び合同摘発を行うことにより、ブローカー等に対して強力な取締りを推進する。
 
(2)旅行関係文書のセキュリティ確保
 
 IC旅券の導入
 
 旅券の偽変造や不正使用の防止強化のため、日本旅券にICチップを登載し、これに所持人の顔画像を電磁的に記録して発給する。具体的には、平成17年度中の導入を目指す。
 
 査証に係る偽変造対策
 
 我が国への偽変造査証での入国を防止するため、高度な偽変造対策を施した機械読取り査証(MRV)作成システムの整備を推進する。
 
 偽変造文書対策の強化
 
 人身取引被害者を入国させる手段として旅券等の偽変造文書が使用されないようにするため、偽変造文書の鑑識をより厳格に実施する。
 具体的には、平成15年度に、審査ブース等において入国審査官が旅券等の文書鑑識を行うための機器(ビデオマイクロスコープ)を全国の空海港に配備しているので、上陸審査時にこの機器をも活用し、引き続き偽変造文書鑑識を強化していく。
 また、偽変造文書保持者の出発地・到着地の双方において包括的な偽変造文書対策を採る必要があるので、この点について検討していく。
 
(3)「興行」の在留資格・査証の見直し
 
 在留資格「興行」に係る上陸許可基準の見直し・上陸審査及び在留審査の厳格化
 
 在留資格「興行」で入国してきた者、特にフィリピン政府が発行する芸能人証明書の所持により上陸許可基準を満たすとして入国したフィリピン人に芸能人としての能力がなく人身取引の被害者となる者が多くいると認められることから、上陸許可基準を定めた「出入国管理及び難民認定法第7条第1項第2号の基準を定める省令」のうち、法別表第一の二の表の興行の項の下欄に掲げる活動の項の一・イ・(1)の「外国の国若しくは地方公共団体又はこれらの準ずる公私の機関が認定した資格を有すること。」との基準を削除し、芸能人としての能力の有無について実質的な審査を行えるようにするとともに、その他の基準についても抜本的な見直しを行う。
 また、招へい業者や出演店舗が人身取引に関与することがないように、上陸審査・在留審査の厳格化を図る。
 
 適正な査証審査の実施
 
 「なりすまし」による不正な査証発給を防ぐため、在留資格認定証明書に加え提出を求めている関係書類に係る真偽確認の徹底及び関係者間の意見交換等の関係省庁との連絡体制の強化を推進すること等により本人確認の厳格な実施に努める。
 
 在留資格「興行」を悪用した人身取引事犯の取締りの強化
 
 警察及び入国管理局においては、在留資格「興行」を悪用した人身取引事犯の取締りを強化することなどにより、在留資格「興行」の適正化を図る。
 
(4)偽装結婚対策
 
 在留資格取消制度の活用
 
 平成16年12月2日から、改正出入国管理及び難民認定法に基づく在留資格取消制度が施行され、この制度では「偽りその他不正の手段により、在留資格該当性がある等として、上陸許可の証印等を受けた者」は在留資格の取消しの対象となる。したがって、日本人との婚姻を偽装して「日本人の配偶者等」の在留資格を受けた場合には、この規定により在留資格を取り消すことが可能であることから、この制度の活用を図る。
 また、入国管理局と警察庁は、偽装結婚を始めとする合法滞在を装う者やこれらの取締りを徹底するための連携強化を目的とした調査・捜査協力プロジェクト調整会議を立ち上げており、今後このプロジェクトを強力に推進していく。
 
 婚姻の実態に疑義のある者の追跡調査
 
 在留資格「日本人の配偶者等」を有する者については、在留活動の制限がないことから、就労を目的として日本人の配偶者を装い本邦に入国・在留しているものが相当数に上るものと考えられる。
 昨今、特に酒類提供飲食店でホステスとして稼働する外国人は、在留資格「日本人の配偶者等」を有する者が相当数を占めている状況が認められることから、これらの店舗の摘発に際しては、身分事項等の確認に加え、在留資格「日本人の配偶者等」を有する者で、稼働先店舗と外国人登録上居住地が遠隔であるなど婚姻の実態に疑義がもたれる者については追跡調査を行い、在留資格の取消しや告発につなげていく。
 
(5)不法就労防止の取組み
 
 不法就労事案の厳正な取締り
 
 人身取引被害者を不法就労させるブローカー等について関係機関が連携して厳正な取締りを継続する。入国管理局においては人身取引被害者を雇用する者に対して厳正に対処するため積極的な告発を行うなどし、人身取引被害者の救済に協力する。警察においては、不法就労を助長する犯罪及びこれに介在する暴力団員やブローカーを重点的に取り締まる。
 
 不法就労防止に係る総合的な広報・啓発の推進
 
 人身取引の温床となる不法就労の防止に向けて、人身取引事案の多発地域、業種を中心として、事業主や経済団体等に対して、外国人労働者の雇用に際しては、在留資格を確認するなど、法令を遵守するよう広報・啓発するとともに、人身取引被害者の送出国や受入国などに対して関係国、関係機関等が協力して総合的な広報を行う。
 
 性風俗関連特殊営業等への不法就労の防止
 
 人身取引の被害者の多くが風俗営業、性風俗関連特殊営業等に不法に就労している状況があり、人身取引を防止するためには、これら営業への不法就労を防止することが効果的であると認められることから、これら営業に係る不法就労事案の取締りを徹底するとともに、これら営業を営む者等に対する積極的な広報・啓発活動を推進する。
 
 性風俗関連特殊営業の規制の在り方の検討
 
 風俗営業、性風俗関連特殊営業等に関する人身取引を防止するため、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律の改正も視野に入れ、風俗営業、性風俗関連特殊営業等の規制の在り方について検討する。
 
(6)売買春防止対策の推進
 
 売買春事犯の取締り
 
 いわゆるデートクラブ等の派遣型売春事犯、高額な債務を負わせるなどして外国人女性に売春を行わせる事犯や児童買春事犯が広がっている状況にかんがみ、これら売春事犯に加え、外国人女性を性風俗特殊営業等に不法就労させている事犯に重点をおいた取締りを行う。
 
 売春防止法に基づく被害者の保護
 
 売春による搾取は、人身取引被害者を含め女性の尊厳を傷つけ、人権を侵害するものであり、婦人相談所においては、こうした過酷な状況に置かれた女性に対し、相談・一時保護等、適切な支援の措置を講ずる。
 
 学校教育、家庭教育等における取組み
 
 教育においては、人間尊重を基盤として、売買春防止のための啓発を含む各種施策を、学校教育・家庭教育等を通じ実施する。また、 独立行政法人国立女性教育会館においては、売買春防止に関する教育の充実を図る観点から必要な調査研究・教材の開発等を行う。
 
 
3.人身取引を撲滅するための対策の推進
(1)刑事法制の整備
 
 人身の自由を侵害する行為の処罰に関する罰則の整備
 
 人身取引議定書の早期締結を目指すとともに、近年における人身の自由を侵害する犯罪に適切に対処するため、現在、法制審議会において
 1)人身の売渡行為及び買受行為を犯罪とすること
 2)「生命・身体加害目的」による略取行為等を犯罪とすること
 3)被略取者等の「輸送」、「引渡し」、「蔵匿」行為を犯罪とすること
 4)国外移送目的略取等の構成要件を「日本国外」から「所在国外」に拡大すること
 5)逮捕・監禁及び未成年者略取・誘拐罪の法定刑を引き上げること
などを内容とする、人身の自由を侵害する行為に関する罰則の整備について審議中であり、その答申を受けた後、次期通常国会を目途に刑法等の一部を改正する法律案(仮称)を提出する方針である。
 
(2)取締りの徹底
 
 悪質な雇用主、ブローカー等の取締りの徹底
 
 警察及び海上保安庁においては、人身取引容疑事犯を認知した場合には、相互に緊密な連携、協力を図るとともに、入国管理局、労働基準監督署等関係機関とも連携し、悪質な雇用主、ブローカー等の摘発を念頭におき、また、その背後に潜在する国際犯罪組織の解明を視野に入れ、人身取引事犯の取締りを一層強化する。
 
 関係罰則の積極的な活用
 
 人身取引事犯の取締りに当たっては、人身取引に関連する行為を処罰する現行の罰則(刑法の略取・誘拐罪、出入国管理及び難民認定法違反、売春防止法違反、職業安定法違反、労働基準法違反、児童福祉法違反、いわゆる児童買春・ポルノ禁止法違反等)のほか、現在法制審議会で審議中の罰則について(法律の施行後)、これらを積極的に適用し、犯罪収益のはく奪を含め、今まで以上に厳正な科刑の実現に努める。
 
 労働基準法等関係法令の履行確保
 
 人身取引に付随して労働基準法等関係法令違反が認められる場合には、関係機関が連携し、適切に対処する。
 
(3)旅行文書等に関する情報交換の推進
 
 紛失・盗難旅券に係る情報の国際共有
 
 人身取引事案の多くが、不法な形態による国際間移動を企図する傾向にあることから、関係各国が連携して偽変造旅券や紛失旅券に係る包括的な情報を共有し得る体制を構築し、同情報の有効活用により出入国審査の強化などを図る。具体的には、平成16年中に、紛失・盗難により失効処理した旅券情報を警察庁を通じてICPO(国際刑事警察機構)に提供し、情報の国際間共有を図る。
 
 査証広域ネットワーク(査証WAN)の整備強化
 
 外務本省と在外公館及び関係省庁を情報通信ネットワーク(査証広域ネットワーク(査証WAN)で結び、査証の審査及び発給に関する情報等の即時共有化を推進する。
 
(4)諸外国の捜査機関等との連携強化及び情報交換の推進
 
 外国関係機関との連携強化
 
 ICPOルートや外交ルート、国際機関との協議や個別協議の場等を通じて、外国関係機関との間における国際的な人身取引事犯に係る情報交換や国際間捜査協力を積極的に推進する。特に、在外公館を通じ、人身取引被害者の送出国・経由国において人身取引対策タスクフォースを設立するなどし、先方政府関係機関と情報の共有を図る。
 
 情報交換の推進
 
 警察庁においては、在京大使館、関係NGO等との間で、人身取引問題に関するコンタクトポイントを設置しており、今後、これらのコンタクトポイントとの会議を開催するなどして情報交換を推進する。
 
 国際捜査共助の充実化と条約締結の検討
 
 アジア諸国等と刑事共助に関する条約の締結の可能性について検討を進める。また、かかる条約の実施に当たり、捜査・司法当局を中央当局として指定し、その中央当局間による共助の実施を検討する。
 
 
4.人身取引被害者の保護
(1)被害者の認知
 
 各種相談窓口における対応
 
 警察、入国管理局、婦人相談所等の各種被害者相談窓口において、被害者やその関係者から相談があった場合には積極的に対応し、被害者の認知・把握に努める。また、相談窓口を設けているNGOの連絡先やコンタクトポイントの周知を図るなど、NGOとの連携・情報交換を推進する。
 
 取締りにおける被害者の認知
 
 警察、入国管理局等関係機関は、出入国管理及び難民認定法、売春防止法、労働関係法違反等の取締りにおいて、人身取引被害者が潜在する可能性があることについて十分配慮して、NGOとも緊密に連携しつつ、人身取引被害者の認知・把握に努める。
 
 警察における被害者の取扱い
 
 警察において、人身取引被害者が犯した犯罪が人身取引被害の一環として同取引に付随して行われたものである場合には、以後の捜査の状況を勘案しつつ、被害者としての立場を十分配慮した措置に努める。
 
(2)シェルターの提供
 
 婦人相談所等の活用
 
 各都道府県に設置されている婦人相談所において、国籍、年齢を問わず、各般の問題を抱えた女性に対し、相談・医師の診療を行うとともに、必要がある場合には、付設する一時保護所において、被害者の状況に応じ適切に保護を行う。被害者が児童である場合は、必要に応じて児童相談所と連携して適切な支援の措置を講ずる。今後とも人身取引被害者保護のために婦人相談所等の活用を図る。
 
 被害者の希望に沿った対応と民間シェルターとの連携
 
 退去強制事由に該当する人身取引被害者で速やかな帰国を希望する者については、民間シェルターに入居したまま強制退去手続を執って出国を可能とするような方法を検討するほか、国費送還についても弾力的な運用を図る。また、在留の継続が必要な場合は、生命身体への危険が認められないときには民間シェルターへの入居を依頼するなど、事案に応じた臨機応変な連携体制を確保する。
 
 民間シェルター等への一時保護委託
 
 DV被害者に対して実施する民間シェルター等への一時保護委託について、従来の実績、所在地の秘匿性等から、より適切な保護が見込まれる場合等に、その対象を人身取引被害者に拡大する。(平成17年度予算要求中)
 
(3)カウンセリング・相談活動等の実施
 
 カウンセリング・相談活動等の実施
 
 人身取引被害者、特に女性及び児童等の取扱いに当たっては、その心情面に十分配慮するとともに、置かれている状況に応じて、恐怖感、不安感等を取り除く措置を検討する。特に、性的搾取を受けていた被害女性等については、女性による対応を心がけるとともに、医師の診察、心理カウンセラーの派遣等を検討する。
 
 法的手続の十分な説明
 
 人身取引被害者で、退去強制手続中の者について、メンタルヘルスの一環として、各種手続に精通した職員等が十分な説明を行う。
 
 人身取引被害者の支援に関する態勢の整備
 
 人身取引被害者が法的な救済手段を利用するための情報を取得することを容易にするための態勢の充実を図る。
 
 就労可能な在留資格を有する人身取引被害者に対する職業相談等
 
 我が国において就労可能な在留資格を有しており、支援が必要であると認められる人身取引被害者も含め、職業相談等を実施する。
 
 婦人相談所への心理療法担当職員の配置等
 
 人身取引被害者が心理的被害を受けている場合には、婦人相談所一時保護所に配置されている心理療法担当職員を活用し、カウンセリング等による援助を行う。カウンセリング、相談等を行うに当たっては、必要に応じて通訳を確保する。また、婦人相談所に置かれた医師の診療に加え、状況に応じて、無料低額診療事業を行う医療機関を始めとする周辺の病院、利用可能な諸制度等について情報提供等の支援を行う。
 
(4)交番等に駆け込んだ被害者の取扱い
 
 保護要請があった場合の措置
 
 交番、警察署等では、外国人女性等から保護してもらいたい旨の申し出があり、その者が人身取引被害者である可能性が認められる場合には、警察署又は警察本部の相談室等において事情聴取を行う。
 なお、事情聴取に当たっては、外国人女性等は、ブローカー、雇用主からの威迫等により精神的に不安定になり、また、警察に不信感を抱いていることも多いので、 事情聴取にはできる限り当該外国人女性等の母国語を解する警察職員や女性警察職員を充てることなどに配慮する。
 
 婦人相談所における保護
 
 外国人女性等が人身取引被害者であると認められる場合には、警察からの要請を受け、婦人相談所において、できる限り人身取引被害者を受け入れ、また民間シェルターと連携を図り、被害者の適切な保護に努める。また、当該外国人女性等の国籍国の大使館又は領事館に状況を連絡する。
 
 関係被害者の速やかな保護
 
 人身取引被害者が交番等に駆け込む事案は、緊急に保護が必要な人身取引被害者が他に存在することが考えられるので、保護した被害者からの情報を基に、他の被害者がいる場合は、関係機関が協力し速やかに対応する。
 
(5)被害者の在留資格の取扱い
 
 入国管理関係手続の弾力的な運用
 
 人身取引被害者に対しては、必要に応じて、在留資格の変更許可、在留期間の更新許可及び仮放免許可などを弾力的に運用し、被害者の保護に努める。
 
 在留特別許可の弾力的な運用による被害者の救済
 
 人身取引被害者には、在留資格のない者が多く含まれていると考えられるので、被害者であることが確認された者については、事案に応じて弾力的な在留特別許可の運用を行うことにより、被害者の法的地位の安定に努める。
 これに伴い、次期通常国会を目途に出入国管理及び難民認定法の一部を改正する法律案(仮称)を提出する方針である。
 
(6)被害者の安全の確保
 
 被害者の安全確保
 
 人身取引事案では、人身取引被害者がブローカーや雇用主より危害を加えられるおそれが強いことから、その保護について、関係機関が連携して適切に対応する。また、 被害者の立場や心情に十分配慮し、事情聴取その他の刑事手続における被害者等の保護、二次的被害の防止・軽減等を図るため、被害者等通知制度による情報の提供、被害者支援員等による法廷への付添い、被害者からの相談への対応及び事情聴取場所の配慮等を行うとともに、公判手続におけるビデオリンク方式による証人尋問等、人身取引被害者の立場や心情に配慮した手続が実現されることとなるように努める。
 
 婦人相談所における夜間警備の実施
 
 婦人相談所に警備員の配置等を行い、夜間の警備体制を整備するとともに、警察署等関係機関との連携により、被害女性の安全を確保する。
 
(7)被害者の帰国支援
 
 関係機関との連携による緊密な帰国支援
 
 人身取引被害者の円滑な帰国に向けて、婦人相談所、警察、入国管理局等の関係機関は、相互に、また国際機関、民間シェルターやNGOと緊密に連携・協力し、人身取引被害者の出身国大使館と緊密な連絡・調整を図る。 また、関係機関との連携及び協力を実現するため、IOM(国際移住機関)等国際機関と定期的に会合を開催するなど被害者の円滑な帰国のための環境整備に努める。
 
 IOM(国際移住機関)を通じた人身取引被害者の帰国支援事業
 
 IOMは既に人身取引被害者や不正規移民の自主的帰国支援を東南アジアや欧米諸国など世界各地で実施しており、我が国においても、人道的観点から人身取引被害者を救済するため、IOMが関係省庁や出身国大使館と連携して行う渡航手続や現地受け入れ等の帰国活動に対し支援を行う。(平成17年度予算要求中)
 
 国費送還による帰国支援
 
 出入国管理及び難民認定法違反の人身取引被害者であって何らかの事情により在留特別許可を与えることができない者に対しては、帰国に際して、帰国費用を支弁できない場合などにおいて、柔軟に国費送還による帰国について配慮する。また、 出入国管理及び難民認定法違反の人身取引被害者は、帰国用旅券等を所持していない場合が多いことから、関係在京大使館と折衝して速やかな帰国用旅券の発給など帰国要件の整備について積極的に関与する。
 
 帰国用渡航文書の速やかな発給のための関係各国との情報交換
 
 人身取引被害者に対する速やかな保護のため、帰国を希望する人身取引被害者に対して当該国大使館等からの帰国用の渡航文書が速やかに発給されるよう関係各国との情報交換を推進する。
 
 人身取引被害者の帰国後の受入先の安全に対する配慮
 
 人身取引被害者が帰国後、再度人身取引の被害に遭うのを防ぐために、先方政府機関、NGO等と協力して、受入先の安全に配慮する。
 また、人身取引被害者が不法滞在者等出入国管理及び難民認定法違反者である場合には、入国管理局において、本国の状況にも配慮しつつ、在留特別許可を与えるか否かを判断する。
 
 
5.人身取引対策推進に際しての留意事項
(1)内外の関係機関等との連携
 
 国内の関係機関との連携確保
 
 警察、入国管理局、労働基準監督署及び海上保安庁の関係機関は、人身取引事犯に関する情報の共有化をすすめ、緊密に連携し、取締りの徹底を図る。
 また、人身取引事案発生時に、被害者の救出、保護に迅速かつ的確に対応するため、警察、入国管理局、婦人相談所、在京大使館、関係NGO等の関係機関において協調・連絡体制を確保する。
 さらに、関係機関の連携を実効性あるものとするため、窓口を一本化して、システム的に動けるような関係機関による総合的な体制整備を図る。このほか、関係省庁、在京大使館及びNGO等との連絡会議を定期的かつ継続的に開催するとともに、地方自治体との連携を図る。
 なお、警察庁は、在京大使館、関係NGO等との間で、人身取引問題に関するコンタクトポイントを設置して人身取引に関する情報交換を行っている。具体的な人身取引情報があった場合には、関係都道府県警察が速やかに対応し、被害者の救出、被疑者の検挙に努める。
 
 外国の関係機関との情報共有・捜査協力の推進
 
 人身取引事案を防止するため、人身取引事案に係る情報の共有等送出国との連携を強化することによって、人身取引事案の未然防止を図る。 また、外交ルートやICPOルート、国際機関との協議や個別協議の場等を通じて、外国関係機関との間における国際的な人身取引事犯に係る情報交換や国際間捜査協力を積極的に推進する。さらに、国連アジア極東犯罪防止研修所における研修等を通じて、各国の捜査官等との交流を進める。
 
 国際的な支援
 
 二国間ODA援助や、我が国の主導により国連に創設された「人間の安全保障基金」等可能な手段を用いることにより、人身取引の背景の一つとしてある貧困の削減に取り組むとともに、各国における人身取引の防止と被害者への支援(被害者に対するリハビリ、職業訓練等の社会復帰に対する支援を含む。)に資する協力を実現する。
 
 シンポジウムの実施
 
 警察庁では、平成14年以来毎年、NGOとの協力を含めた東南アジアにおける国外犯の捜査協力を拡充・強化するため、東南アジアの警察官、検察・司法関係者及びNGO等を招へいし、「東南アジアにおける児童の商業的・性的搾取に関するシンポジウム」を開催し意見交換・情報交換を実施しており、今後ともこのような連携に努める。
 
 東南アジア諸国入国管理当局とのセミナーの実施
 
 入国管理局では、昭和62年以来毎年、東南アジア諸国入国管理当局者を招いて「東南アジア諸国出入国管理セミナー」を開催している。平成16年は18の国・地域、5つの国際機関の関係者を招き、「各国における人身取引の現状と対策について」と題して、人身取引の現状とその対策、人身取引の被害者の救済・保護の現状と対策、人身取引の防止と被害者の救済・保護の国際協力の在り方などについて情報交換を行っており、今後も同セミナーを通じて積極的に連携していく。
 
(2)社会啓発・広報の実施
 
 総合的な啓発・広報活動
 
 人身取引について社会的な啓発を図り、人身取引撲滅を推進するためにも、関係機関が協調して、人身取引が決して許されない悪質な犯罪であることや、人身取引に対する政府の取組み(罰則の整備を含む。)などについて、被害者の送出国や受入国、人身取引事案の多発地域、関係者などに対して期間を限定したキャンペーンを行うなど総合的な啓発・広報活動を行う。
 
 警察における社会啓発・広報
 
 警察庁等では、平成15年、我が国に係る人身取引の深刻な被害実態を広報啓発するため、ビデオ「トラフィッキング〜闇の人身取引ビジネス」(日本語版、英語版、スペイン語版)を製作し、都道府県警察や関係機関・団体等に配布しており、今後とも、パンフレットなどを作成して広報啓発に努める予定である。
 また、毎年6月に「来日外国人犯罪対策及び不法滞在・不法就労防止のための活動強化月間」に合わせ、人身取引事犯等の不法就労を助長する犯罪の取締り及び不法就労防止のための広報啓発等の強化を行い、毎年11月に人身取引事犯を含む風俗関係事犯の取締り、人身取引事犯防止のための広報啓発活動の強化を行っている。
 その他、現在、児童買春・児童ポルノ事犯を始めとする少年の福祉を害する犯罪の実態について広報啓発を実施しているが、今後もあらゆる広報媒体を活用して、社会啓発・広報活動を積極的に推進する。
 
 入国管理局における広報
 
 入国管理局では、毎年6月に設定される外国人労働者問題啓発月間に合わせて「不法就労外国人対策キャンペーン」を実施しているが、平成16年は、同キャンペーンに合わせて人身取引撲滅のための広報リーフレット6万枚を作成し、広く一般にも配布したほか、入国管理局のホームページにも掲載して広報している。
 また、全国の地方入国管理局・支局においても、申請窓口などに日本語、英語、スペイン語、タイ語、タガログ語で作成したリーフレットを置いているほか、成田空港及び関西空港では、上陸審査場に設置している総合案内所にも当該リーフレットを置いており、両空港から我が国に入国・帰国する全ての人が手に取ることが可能となっている。さらに、全国47都道府県全ての婦人相談所にもこれらのリーフレットの配布を依頼している。 今後も、これらリーフレット等が人身取引の被害者の手許にまで届くよう、リーフレット等の体裁や配布場所を工夫することなどを検討し、積極的な広報活動を実施していく。
 
 婦人相談所における対応についての広報
 
 婦人相談所は、国籍を問わず、各般の問題を抱えた女性の相談・保護に応ずる機関であることについて広報・周知を図る。
 
 女性に対する暴力の視点からの広報
 
 内閣府では、毎年11月に、男女共同参画推進本部が主唱する「女性に対する暴力をなくす運動」期間中に様々な広報活動を行っているところであり、平成16年は人身取引を含む女性に対する暴力を根絶するためのポスターを約2万枚、リーフレットを約9万枚作成し、地方公共団体を始め広く関係団体に配布した。今後も様々な広報活動を通じて、女性に対する暴力をなくしていく観点から、広く国民一般に対して、人身取引根絶に向けた広報活動を行う。なお、広報活動にあたっては、必要な情報や広報資料の提供等を通じ地方公共団体の男女共同参画局主管部局と緊密な連携を図り、地域の実情を踏まえた的確な広報活動の推進に努める。
 
 在外公館を通じた広報
 
 人身取引の被害が多く発生している関係諸国の在外公館を通じて、相手国政府をはじめ、宗教団体、NGO等、幅広い層に対して、人身取引に関する広報活動を行う。
 
 バリ・プロセス・ウェブサイトを通じた広報・啓発活動
 
 バリ・プロセス(密入国・人身取引及び関連する国境を越える犯罪に関する地域閣僚会議フォローアップ・プロセス)・ウェブサイト(www.baliprocess.net、IOM:国際移住機関が運営)の維持費を負担するとともに、同ウェブサイトの機能強化及び内容の充実を図り、人身取引問題に対する国際社会の取組みを紹介し、また被害者保護に関する情報を提供することにより、同問題に関する国民の意識を高める。
 
(3)人身取引対策に関係する職員に対する研修・訓練
 
 警察職員に対する研修・訓練
 
 警察職員に対しては、人身取引の実態等を示す資料を配布し、研修を行うなど、警察官の人身取引の捜査能力の向上を図っており、今後も、人身取引事犯捜査担当者を対象とした全国規模や都道府県単位の研修を実施するなど、人身取引の捜査能力の向上を図る。
 また、全国規模の研修において、児童買春・児童ポルノ事犯を始めとする少年の福祉を害する犯罪の被害に遭った児童の保護に関し、被害少年対策の必要性、被害少年に接する際の留意事項、少年の人権及び特性に配慮した活動について教育・訓練を実施するほか、各都道府県警察の研修においても同様の教育・訓練を行うよう指導する。
 
 検察職員に対する研修
 
 検察職員に対しては、その経験年数等に応じた各種研修において、被害者の保護・支援、女性に対する配慮等に関する講義を実施しており、今後さらに研修内容の充実を図る。
 
 入国管理局職員に対する研修
 
 入国管理局職員に対しては、人身取引対策に係る講義も逐次行っており、今後、人身取引事案に対する職員の意識を向上させるとともに、知識を習得させるため、講義数を増やす。また、精神的・身体的に痛手を受けた人身取引の被害者に対して適切に事情聴取を行うよう、現場の職員に対して、WHO作成の事情聴取のガイドラインを利用することなどを指導しており、今後、職員用マニュアルの作成を検討する。
 
 海上保安庁職員に対する研修
 
 海上保安庁職員に対しては、人身取引等組織犯罪の実態等に関する資料の配布、研修の実施を検討し、同事案に対する職員の意識の向上を図る。また、人身取引被害者に対する配慮等について指導する。
 
 査証官に対する訓練
 
 査証官に対しては、被害者になる可能性を有する査証申請者に対する査証発給を防ぐため、査証官が人身取引対策に関する正しい知識を備えるための体制整備を推進する。
 
 婦人相談所等職員に対する研修
 
 婦人相談所の職員に対しては、専門研修において、人身取引等外国人被害者に対する相談・保護等に係る問題点等を課題として取り上げるなどの対応を行う。
 
(4)行動計画の検証・見直し
 
 行動計画の検証・見直し
 
 政府が一体となって行動計画の施策を効果的に推進するため、随時、人身取引関係省庁連絡会議を開催し、行動計画の施策の進捗状況についての検証、関係省庁における情報共有及び必要な政策調整、時々の情勢に応じた行動計画の見直し等を行う。
 その際、人身取引被害者の保護に関しては、先般成立した犯罪被害者等基本法に基づく施策との整合性を確保するため、同法に基づき設置される犯罪被害者等施策推進会議等の関係機関と必要な連携協力を図る。