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革新的テクノロジーを用いた新ビジネス創出を加速する~規制改革に向けた「規制のサンドボックス制度」の活用~(FIN/SUM 2024パネルディスカッション)

2024年3月7日(木)17時10分-18時10分
於:FIN/SUM 2024

左からEY Japan 小川 恵子 様、内閣官房 岡田 陽 企画官、リンクス 夏山 昌和 様


 2024年3月7日に開催された「FIN/SUM 2024」(日本経済新聞社・金融庁主催)において、内閣官房の岡田陽企画官が、規制のサンドボックス制度をテーマとしたパネルディスカッションに登壇し、同制度を活用して生成AI等の革新的テクノロジーを用いた新ビジネス創出を実現する方法について、EY Japanの小川恵子氏のモデレートにより、リンクスの夏山昌和取締役CTOと議論しました。本セッションの概要は以下のとおりです。


1.規制のサンドボックス制度というアジャイルな社会実装手段をいかに新ビジネス創出に繋げるか

規制のサンドボックス制度の概要

(内閣官房:岡田企画官)
 規制のサンドボックス制度は、新しいビジネスが既存の規制に抵触する潜在的な可能性について、実際の環境で実証してみることによって、リスクを検証することを可能とする制度です。この制度を使って、リスクの適切な管理を行いながら、試行錯誤のための社会実験を積み重ねていくことで、新しいビジネスや革新的イノベーションの創出を強力に後押ししています。
 生成AIのような革新的テクノロジーが次々と出現し、そのようなテクノロジーを活用して、新ビジネスに乗り出そうとされている方は多いと思います。そうした新しいビジネスを構想する際に、規制の問題が出てきます。既存の法制度が新しいテクノロジーを想定して作られておらず、新しいビジネスを実施しようとした時に、形式的な文言上は法規制に該当してしまい、新しいビジネスを実施できない場合があります。また、そもそも新しいビジネスが規制に抵触するかどうかが分からないというグレーゾーンにある場合、法体系と技術が不整合な状況に悩まされるケースもあります。規制所管省庁が既存の規制の見直しに対応しようとしても、最先端で新しい技術を開発したり、新しいビジネスを生み出したりしている企業の方々よりも、技術に関する知見が不十分な場合があり、技術進歩になかなか追いつけない場合もあります。そうした場合に、実証実験を「まずやってみる」、そして、そこで得られたデータを用いて、リスクの有無・程度を検証した上で、規制改革が必要であるかどうかを検討することを可能とする制度が、規制のサンドボックス制度です。
 この制度では、規制との関係を整理し、例えば、実証期間や参加者等の条件を限定し、既存の規制の適用を受けること無く迅速に実証を行い、規制面の問題が無ければ、そのまま事業化をしていただいて結構ですし、問題があれば、得られたデータを用いてどのような規制改革が必要か検討していくことで、社会実装を迅速に推進できます。いわば、規制を乗り越えるためのアジャイルな制度と言えます。
 政府もアジャイルに、2018年に3年間の期限付きで「規制のサンドボックス制度」を創設し、成功例も色々と出て上手く機能したため、2021年に恒久化しました。
 日本の制度は、他国のフィンテック等に限定された制度と違い、分野を問わずあらゆる業種で適用可能であり、これまでにブロックチェーン、インシュアテック、ヘルステック、モビリティなど幅広い分野で31の計画が認定され、実証が行われています。 この制度をフルに活用していただくため、事業者が規制に困った時に、規制改革に関する相談を広く受け付ける一元的なワンストップの相談窓口を内閣官房に設けています。規制改革に繋がる制度には、グレーゾーン解消制度、新事業特例制度、国家戦略特区、規制改革推進会議等、様々なものがあります。企業にとっては、自社にとって最適な制度の判別が難しい場合もあると思いますので、規制に関する相談を広くこの一元的な窓口で受け付け、規制のサンドボックス制度に限らず、関連制度全体から、最も迅速で課題解決に資する解決法をご提案しています。規制に困ったらまず、内閣官房の一元窓口に相談をしてください。

(EY:小川様)
 「日本の規制のサンドボックス制度は、フィンテックだけが対象ではない」と伺っていますが、その辺りを教えてください。

(内閣官房:岡田企画官)
 フィンテックだけが対象ではないというのは、ご指摘のとおりです。他国の規制のサンドボックス制度と称する制度と比較した場合の日本の制度の特徴は、その適用範囲の広さと一元的な相談窓口に代表されるサポート体制の充実ぶりにあります。昨年(2023年)11月にシンガポールで開催されたフィンテック・フェスティバルでも、シンガポール政府をはじめ、色々な国の政府関係者と議論しましたが、やはりそれら2点が顕著な特徴でした。
 1点目の適用範囲については、多くの国に規制のサンドボックス制度と称する制度がありますが、対象範囲や機能が様々な点で異なっています。例えば、英国やシンガポールも含めて、殆どの国ではフィンテック等の限定された分野に関して適用対象とされており、それ以外の分野には適用されません。また、英国やシンガポールでは、実証の根拠は、関係する法律の中にあらかじめ除外条項として規定されており、その除外条項の許容する範囲内でのみ実証を行うことができるという建付けになっています。他方、日本のように幅広い分野に適用可能な制度となっている国もわずかに存在しており、例えば、ドイツの制度は、様々な分野で適用可能とされていますが、各分野や業種を規律する法律に実験を許容する条項が規定されている場合に、この実験条項に則って実証を実施することが可能であるものの、実験条項がない分野に関する実証は困難となっています。これに対して、日本の制度では、フィンテックに限らず、他の分野も含めてあらゆる分野において、各法律に除外条項や実験条項があらかじめ規定されていなくても様々な実証実験を試行することができます。こうした点が、日本の制度の特徴であり、他国にも「どうやって運用しているのか」と驚かれることがあります。運用には、法律に関しての幅広い知見が必要であり、我々の事務局は、様々な法律を勉強しつつ、専門家の話も聞き、しっかりと事業者の支援を行えるように努力しています。
 2点目のサポート面については、内閣官房に一元的な相談窓口を設置し、規制のサンドボックス制度以外にも様々な関連制度を紹介し、活用するための事前相談や伴走支援を提供しています。例えば、事業開始前に実証によりデータを集めて検証したいという場合は、規制のサンドボックス制度が利用できます。事業開始前に法令が適用されるかどうかについての解釈や法令適合性を判断したい場合は、グレーゾーン解消制度が利用できます。また、事業と規制との関係が明らかになっており、事業実施に移行したい場合は、新事業特例制度を使って規制の特例措置の整備を求めることができます。また、地域単位で特例を作って事業を実施したいという場合は、国家戦略特区などの特区制度も使えますし、他にも規制改革ホットラインを通じて、全国一律の規制改革を要望することもできます。このように、様々な規制改革関連制度があります。どの制度が各々のビジネスに利用できるのか分からない場合も多いと思いますので、あまり新しい事業の計画が煮詰まっていない段階でも、関係する法律が分からない場合でも、ぜひお気軽にご相談いただければ、規制上の課題を議論・精査し、関係省庁との調整を行い、御社の課題解決への最適のルートを提案しています。このように、伴走支援も含めて総合的なサポートを提供するワンストップの相談窓口は、世界に例を見ない大きな特徴であり、強みであると考えています。

(EY:小川様)
 EYのウェブサイトで「規制のサンドボックス」と検索すると、規制のサンドボックス制度を活用した各社の面白い動画があります。「電動キックボード」「製薬」「医療データ」「保険」など、びっくりするような事例が紹介されているので、ぜひご参考にご覧ください。


規制のサンドボックス制度を利用した新ビジネス創出

(リンクス:夏山様)
 リンクスは、SMAPSというソフトウェアを開発したのですが、SMAPSは郵便における紙をペーパーレス化することでコストダウンや人材の有効利用を目的にしています。会社としては「郵便のDX化」を進める上で、このSMAPSをお客様にご紹介をしています。従来のSMS(ショートメッセージサービス)は70文字で一言送る程度の使われ方しかできていなかった。だがこのSMAPSは、決済連携や督促状として、例えばコンビニ決済で支払うことや、カード決済で料金を払う等が可能。さらに最近多いのは、同意をとるアンケートを使い、書類データを PDFで送り、「内容に同意いただけますか?」と送り、そこに同意をいただいて証拠として残します。郵便と違い「送った。」「いつ着いた。」「いつ決済した。」「いつ本人確認した。」というような日時データがきちんと取れます。この情報のトレーサビリティという、企業側がそういった情報を残しておくことによって、自己防衛手段にもなります。そのため、ある意味「郵便より優秀。」と私は開発者の立場から思います。ただ企業の皆様は「郵便は郵便。SMSはSMS。」というような区切り方で、「SMSでは限界があるのではないか?」という話をするお客様が多かった。そういう意味では、「郵便のDX化で、郵便と同じ土俵に乗りたい。」という思いがあり、そのためには「郵便をどのようにして、どういう風に乗っかるか?」が一番大きな悩みでした。「郵便は、長年続いた安心な仕組みである。」と皆さん思っており、郵便の土俵に乗ることは非常に困難だということは分かっていた。色々相談して回っていて、経済産業省に行きましたところ「規制のサンドボックス制度がある。」という話をいただき、その中で、「郵便と比べてどれほど優秀なのか、実証実験で確認しないか?」というお話をいただきました。「目から鱗」の思いで、進めていきました。実証後、「産業競争力強化法」の特例の認定を受けまして、お客様からは信頼・信用を得ました。現状は、郵便をSMS(SMAPS)に載せ替えていくお話を数多くいただいています。

(EY:小川様)
 時代を先駆けられたのだと感じました。当時、「オープンデータ」「データの所有者」「本人確認」といった言葉が盛り上がっており、「本当にハガキで本人確認するのか?」といった戸惑いの声が聞かれるような時代でした。「トレーサビリティ」「アカウンタビリティ」をテクノロジーでどうやって担保していくかについて、他に先駆けて取り組まれていたのだと思います。私の専門が「コンプライアンス」「データガバナンス」なので、非常に参考になりました。ありがとうございます。
 御社は2020年にSMSを利用した債権譲渡通知に関する実証をされたとお聞きしています。実際、新しいビジネス創出という意味では如何だったのでしょうか?

(リンクス:夏山様)
 特例認定をいただいて約1年半になりますが、お客様はゆっくり横を見ながらの印象。ただ最近、郵便料金の値上げが発表されたり、「土日の郵便配達をしません。」等、郵便サービスが変化しています。これは時代の流れであり、料金も上がっていくでしょうし、地域差も凄く出てくると思います。そういったことがお客様にも見えだしたようで、去年ぐらいからニーズやお声を聞いています。まだ使っているお客様は数社だが、「どうしたら、もっと使いやすくなるか?」というお声をお伺いすることも可能なので、少しずつリビジョンアップしながら進めていきたい。

(EY:小川様)
 私も金融の世界にいるので、KYC一つとっても継続的モニタリングは大きな課題で、各金融機関様は今まで往復ハガキにかなりの切手代をご負担されてきました。御社のサービスには色々な可能性があると思います。
 内閣官房の戦略的な取り組みの下既に31件の実証実験が行われています。規制のサンドボックス制度の役割について、新ビジネス創出に対する国家戦略のなすべき機能についてのお考えも含めて教えていただけますか?

(内閣官房:岡田企画官)
 リンクスの実証以外にも、規制の見直しや新しいビジネスにつながった様々な事例があります。例えば、代表的な事例として、電動キックボードのシェアリング事業に関する実証があります。当時の法律では、電動キックボードは、原動機付自転車に該当していて、自転車レーンは走行できず、ヘルメットを着用しなければならず、運転免許証も携帯しなければならないといった様々な制約があります。電動キックボードを活用したシェアリングサービスを提供したい企業にとって、こうした制約を顧客に対して求めることは難しい状況でした。そこで、規制のサンドボックス制度を使って、まずは大学の構内で実証を実施しました。大学内の道路は公道ではなく私道なので、運転免許証無しでも電動キックボードを走行させることができました。大きい大学には、複数の車線があり、信号も交差点もあり、公道と変わらない複雑な道路形態があったため、そこで実地の走行データを取ることができました。その上で、得られたデータを用いて、次に新事業特例制度という規制の特例措置を創設することができる制度を使い、ヘルメット着用を努力義務として公道での事業を実施可能とするなど、段階的に規制を緩和していいました。最終的には、2022年4月に道路交通法が改正され、電動キックボードは、特定小型原動機付自転車という新しい車両区分に位置付けられ、自転車レーンも走行でき、ヘルメット着用は努力義務、運転免許証は不要、ただし16歳以上が運転可能といった形で整理されました。このように、規制のサンドボックス制度を契機として、規制の見直しにつながり、電動キックボードのシェアリングサービスという新たな市場が生み出されました。
 また、規制の解釈を明確化して新たな事業につながった事例として、ブロックチェーンを用いて臨床データをモニタリングするシステムを作り、そのシステムが機能するかどうかを実証した事例があります。治験で臨床データを集める際、データのモニタリングを行いますが、モニターが、治験を実施している医療機関に直接訪問し、元データと報告用のデータを照合しなければならないことが法令で定められていて、多大なコストがかかっているという問題があります。日本は諸外国と比べて治験のコストが高くなっていて、通常、治験はCRO(Contract Research Organization:開発業務受託機関)という代行企業に委託して実施しますが、その委託費用の半分以上がモニタリングコストです。この点、ブロックチェーン技術を使うことによって、データの改ざんが困難なブロックチェーンサーバーにデータを直接転記することで、データの信頼性を確保できるのではないかと考えられたことから、その点に関する実証を行いました。その結果、元データと報告用データを同期させて、改ざん検知等を備えたシステムを設計し、適切に運用すれば、実地でデータを確認する作業は不要という解釈が明確になりました。これは治験の話でしたが、治療に関しても同じ手法でできることをグレーゾーン解消制度によって確認し、事業化につながっています。
 このように、事業者から新しい事業に関する提案を受けて、実証によって集めたデータを用いて新たな特例措置や法改正につなげたり、法令の解釈を明確化したりすることにより新しい事業が実施できる規制環境を形成し、イノベーション創出を促進していくことが規制のサンドボックス制度の役割です。

(EY:小川様)
 ありがとうございます。規制に対する社会コストは膨大だと思います。私はデジタル庁のテクノロジーベースの規制改革推進委員会の委員も務めていましたが、テクノロジーがどうやって貢献していくかは、ある意味ビジネスチャンスでもあるので、これからの数年で色々な動きがあると期待しています。


2.規制のサンドボックス制度の活用に当たってどのような支援が受けられるか

規制のサンドボックス制度のプロセス・支援措置

(EY:小川様)
 規制のサンドボックス制度を活用することで、どのような支援を受けることができるのでしょうか。

(内閣官房:岡田企画官)
 内閣官房に一元的な相談窓口があるので、まずはそこにお問い合わせください。オンラインで申込可能で、「規制のサンドボックス」と検索エンジンに打ち込んでいただくと、検索結果に内閣官房の規制のサンドボックス制度のホームページが出てきます。そのホームページのWebフォームから簡単に申し込むことができます。申込後、内閣官房側からご連絡し、面談日時を設定させていただきます。Web会議システムを使うことも可能で、わざわざ内閣官房まで来ていただかなくても相談可能な体制になっています。内閣官房のホームページには、色々な情報を掲載しているので、ぜひアクセスしてください。
 事前相談では、内閣官房が、事業者のビジネスモデルを聞きつつ、規制の整理や実証の計画を一緒に検討し、関係省庁との調整を行い、申請書の作成をサポートします。事前相談から正式申請まで、一貫してハンズオンの形で支援しています。
 やり取りを重ねて実証計画が具体化した段階で、規制所管官庁(法令等を所管している官庁)と事業所管官庁に正式申請を行います。各省庁で申請内容を審査し、1ヶ月以内にその実証を認めるか認めないかに関する見解を出します。その見解を新技術等効果評価委員会に提出し、当該委員会で審議を行います。この委員会は、学識経験者や弁護士、起業家等、色々な専門家の方で構成される独立した委員会であり、申請内容や見解を評価して、委員会の意見を述べることができます。各省庁は、委員会の意見を踏まえて、最終的な決定を行います。
 実証計画が認定されれば、実証を実施することが可能となり、実証後にその結果を色々なデータも含めて各省庁に報告します。そして、規制に関する課題があった場合には、規制所管省庁が実証結果を踏まえて規制改革に取り組みます。規制所管省庁の対応が遅い場合は、内閣官房から規制改革に向けた検討の加速と後押しする仕組みもあります。このように、実証後のフォローアップまで含めて、新しいビジネス実現のための規制改革に向けてサポートを実施しています。

(EY:小川様)
 リンクス様は、実際にどのようなプロセスで進められましたか?

(リンクス:夏山様)
 まずは問題点として、「郵便のDX化」には、郵便と同じ土俵に乗る必要があることが分かってきた。郵便は特に法律で縛られているわけではなかった。郵便の中には「信書法」等もあるのですが、「郵便と同等になるためには、どうすれば良いか?」という点もアドバイスいただいたところ、民法467条「債権の譲渡の対抗要件」があり、その中には、第三者対抗要件として確定日付が必要であるということだった。SMAPSで送ったSMSは元々「いつ送って、いつ相手に届いて、いつ相手が開いたか。」が明確に記録に残る仕組みを持っています。そこに目をつけまして「SMSの仕組みで確定日付に持ち込めないか?」というところから始まった。郵便局の場合は、債権譲渡人から郵便局までは電子化で送ることができ、そこで確定日付を取れますが、「確定日付を取った文書は紙で郵送している。」という現状が分かった。そこで我々としては、紙と同じ流れの実験をSMAPSで実施し、「SMAPS(SMS)で送ったものと紙とを比較してどうなのか?」という実証実験をすることになりました。
 実証実験を通じて確認した4つのポイントがあります。「SMSで債権譲渡の通知送信・受信について、伝送途中における情報の消失・改ざんが発生しないこと。」「データベースに保存された債権譲渡通知(PDF)について常に真正性が保たれているか。」「送信内容が既存の確定日付のある証書と内容面で差異がないか。」「債権譲渡の通知の送信が内容証明郵便と比較して安価・簡便・迅速に行われているか。」。こういった4つのポイントに注目して比較をさせていただいた。お客様にSMSと郵便の両方を送り、それがいつ届いたか、いつ中身を確認したか、といった点を確認。もちろん内容に相違がないかという確認もあります。後ほどSMAPSのアンケート機能を使ってSMSでアンケートを送り、郵便とSMSを比較してどうだったかというような感想も入手しました。
 実は「規制のサンドボックス制度」を活用した実証において、ちょうど新型コロナのタイミングに当たってしまい、ご協力いただくサービサーの皆様等との面会が難しく、説明にも非常に時間を要してしまい、ご協力いただける企業の皆様を集めることにも時間がかかった。たまたま新型コロナに当たってしまったという不運さはあったが、このようなフローを使って内容を確認しました。約半年間かかったのだが、それを経た後に「債権譲渡の通知等に関する特例」という、「産業競争力強化法 第十一条の二」として改正いただいた。「債権譲渡の通知については、新事業活動計画における認定を受けたところは電子的なものが可能。」ということが書かれているのだが、このように法律改正をしていただいた。法律改正をしていただいた上で、通常は債権譲渡通知をPDFデータとして弊社に預けていただいて、PDFデータをSMAPS(SMS)に添付して債務者側に送るという方法。預かったPDFファイルは法律に則って、真正性を保った上で5年間保管をする。相手に届いた日時(送信OKという日時)でもって確定日付とするという内容になっています。
 今お話しした流れを簡単に表にまとめました。まず申請のための手続きの相談、そこから実証実験の参加企業を募集し、実証実験を開始し、実証実験が終わったのが12月ぐらいだった。募集から最後までは半年ぐらいかかった。そこで併せて特例措置の整備にかかる要望書を弊社から出し、国会の中で内容について議論していただいた上で、産業競争力強化法の一部改正がされた。ここまでが年明けの8ヶ月ぐらいかかっていますが、弊社としては当初予想より非常に早かった印象で、非常にスピーディに進めていただけたと感じている。その後、「新事業活動計画」の認定を受けるために申請書を出し、認定を受け、その後サービスインをしました。サービスインをしたとは言え、色々なサービサーの皆様等からヒアリングしながら、使いやすいサービスにするために後追いで時間をかけました。ここまで非常に長い時間ではあったが、経済産業省の皆様や法務省の皆様から、きめ細かいアドバイスをいただいた。「セキュリティ仕様は、こうしなければいけない。」「時間データはこうしなければいけない。」「ダウンロードはこうしなければいけない。」等、色々細かいところについてご指摘いただいた上で、開発を進めていったっという経緯がありますので、今では本当に感謝しています。皆さまも是非「規制のサンドボックス制度」「新事業活動計画」をご利用いただけると良いと思います。是非おススメさせていただきたいと思っています。

(EY:小川様)
 ありがとうございます。プロセスを進める中でのやり取りが御社のナレッジになっていったのではないかと思います。ファクトを明確にされて一つずつ課題を解決されたということかと思いますが、スタートアップの中には、そこまで法律に詳しくなかったり、そもそもどこがファクトなのかというところから始めなければならなかったりすることも、実態としてはあるかと思いますが、内閣官房では、どういったサポートを行っていますか?

(内閣官房:岡田企画官)
 規制のサンドボックス制度を活用したユーザーの約6割が創業10年未満のスタートアップであり、スタートアップがメインユーザーになっています。スタートアップ企業にとっては、政府に相談することはハードルが高かったり、規制対応にリソースが割けなかったり、専門家に法律解釈を相談する資金的余裕も無かったりするケースがあると聞きます。このような心理的なハードルやリソース面の制約については、内閣官房に一元的な相談窓口を設けて、規制に関わる問題をお気軽にご相談くださいという形で、政府に対するアクセスを容易にしています。ハンズオン支援も充実させて、色々な方に使っていただけるような形で運用しています。法律解釈についても、法律の専門家によって構成されているスタートアップ新事業創出タスクフォースという仕組みを用意しています。このタスクフォースは、規制改革に知見を有する弁護士による助言を無料で提供しており、法的な相談に対するリソース制約を乗り越える枠組みとなっています。このFIN/SUM2024でも内閣官房による出張相談窓口を設けているので、事前予約していただいても結構ですし、予約無しで来ていただいても大丈夫ですので、ぜひお気軽にご利用ください。
 また、ホームページのコンテンツを充実させ、こうしたイベントなど様々な機会を通じて制度を説明して、制度の認知度を高め、案件の発掘に努めています。それ以外にも、外国企業による利用を促進するため、シンガポールのフィンテック・フェスティバル等様々なイベントで周知広報に取り組んでいますし、内閣官房の規制のサンドボックス制度ホームページの英語版を作り、Webフォームから相談を申込むことを可能とするなど、サポートを提供し、言語の壁を乗り越えて相談できる体制を整えています。

(EY:小川様)
 私どもも数社のスタートアップを内閣官房の相談窓口に紹介したことがあります。我々はコンサルティングファームなのですが、内閣官房のコンサルテーションが素晴らしく、しかも無料ということで、弊社には勝ち目が無いと思っています。丁寧な対応をされていて、私は本当に驚きました。真摯に対応されていることについて、リンクス様だけではなく他社様からも同じような声を聞いているので、日本としての力だと感じました。
 規制のサンドボックス制度を活用された経験の中で、感じたことはありますか?

(リンクス:夏山様)
 様々あるのですが、例えば法律。今回で言うと特例の中で「このようにあらねばいけない。」というような文章があります。それを1個ずつ実際の仕様に落としていき「どこまで必要ですか?」「ここがこうだと、なかなか難しいのですが、こういう仕様でも良いですか?」というように、本当に細かく相談に乗っていただけた。仕様だけではなく、セキュリティ基準も含めて、本当に細かいところまで色々とアドバイスやご指導をいただいた。そういった細かいところまで気を配りながらモノが作れたということで、私のような開発する立場から言うと、非常にありがたい。「要件定義」「仕様確定」までアドバイスいただけたのは非常にありがたかった。


3.規制のサンドボックス制度による官民連携で、いかに新ビジネスを創出するか

(EY:小川様)
 次のビジネス展開についてのコメントをいただけますか?

(リンクス:夏山様)
 先程も申し上げましたが、ようやく郵便と同じ土俵には乗れたと思います。今だとSMS(SMAPS)を使って配達証明も可能ですし、譲渡通知で内容証明郵便を使っているのだが、内容証明にも踏み込んでいけると考えています。債権譲渡通知だけではなく、郵便全般、いわゆる「企業郵便のペーパーレス化」を、この先何年にも渡って進めていきたいと考えています。まずは債権譲渡通知をじっくりと攻めて、さらに次のターゲットに進めていければと考えています。

(EY:小川様)
 楽しみです。ありがとうございます。
 最後に岡田さん、「規制のサンドボックス制度」について色々考えていらっしゃる方に向けて、是非メッセージをお願いします。

(内閣官房:岡田企画官)
 今週火曜日に、FINSUM2024の生成AIと保険をテーマとした非公開ラウンドテーブルにも参加しました。非公開なので内容はお伝えできませんが、生成AIのような新しい技術の実用化が極めて速いペースで進み、新しい複雑な課題が出現している中で、非連続のイノベーション技術を如何に活用して競争力を確保していくかという難問を前に、迅速に新しいビジネスに取組まれている点が印象的でした。既存の規制が想定していない新しい技術に関して、政府側も一緒に走りながらルールの在り方を考えていく必要があると思います。それを可能にするのが、規制のサンドボックス制度です。従来のように、新しいルールを作るために、じっくり時間をかけて各国の制度等を調査し、審議会で議論を重ねてというようなスピード感では間に合いません。まず実証をやってみて、実地でデータを集めて、それを基に新しい技術がどのように機能し、リスクがどの程度かを判断した上で、ルールの在り方を検討していく必要があります。 また、現在、少子高齢化や環境問題、気候変動等、様々な社会課題と言われるものがあり、社会課題の解決に向けて国が主体となるだけでなく、民間企業の方々と一緒になって取り組んでいかなければなりません。社会課題の解決に取り組む際に、規制が課題となって前に進められないということもあり得ます。例えば、仮想的な例ですが、少子高齢化に伴う人手不足や地域の交通・配送に対応するため、自動運転技術や自動配送ロボット、ドローンを使って、解決しようとする際に、道路交通法・道路運送車両法・航空法等の規制上の課題に直面するというケースなどが想像できます。また、環境や資源確保という社会課題に対応するため、新しいリサイクル技術を用いてサーキュラーエコノミーを形成しようとする際に、廃掃法等の規制との関係で問題が生じるようなケースも想像できます。これらは仮想的なケースですが、こうした場合に規制のサンドボックス制度を使っていただければ、規制をアップグレードし、社会課題の解決につなげることができます。我々も全力で支援しますので、この制度を使って一緒に規制を乗り越えて、新しいビジネスを切り拓いていきましょう。

(EY:小川様)
 ありがとうございます。Generative AI(生成AI)の話も出ましたが、最新技術は物凄いスピードで進んでいくことでしょう。一方で国民としては「安全・安心は、どうなっていくのだろう?」という思いもあり、そういう中で、規制当局も一緒に入って確実にプロセスを踏みながら進んでいくということについて期待しております。今日はお二人から生の声をお聞きできて参考になりました。本当にありがとうございました。


左から、EY Japan 小川 恵子 様、内閣官房 岡田 陽 企画官、リンクス 夏山 昌和 様