国土強靱化シンポジウム in 和歌山
~もしもから、いつもを守る。~
近年災害が激甚化・頻発化し、また、南海トラフ地震などの大規模地震の発生も切迫する中、防災・減災、国土強靱化の取組の重要性はますます高まっており、国や自治体のみならず、民間企業、地域住民などオールジャパンで進める必要があります。
一人ひとりの備えと地域の協力が、命の、くらしの被害軽減につながります。本シンポジウムでは、国土強靱化「もしもから、いつもを守る。」をテーマに、南海トラフ地震での津波被害等が想定される和歌山県において、国土強靱化基本計画の改訂内容のほか、東日本大震災の経験と教訓、地域防災力の一層の強化の必要性などを紹介・議論しました。
概要
日時:2025年1月20日(月)
13時30分-16時30分
会場:ダイワロイネットホテル和歌山
定員:200名
主催:内閣官房国土強靱化推進室
共催:和歌山県、和歌山市、毎日新聞社
協力:紀伊民報
アーカイブ
https://www.youtube.com/watch?v=B5B2lcY0O9U
チラシ(クリックで拡大)

開催概要
ビデオレター
シンポジウム開催に先立ち、坂井学国土強靱化担当大臣より「国、地方、企業、国民一人一人の皆様が一体となり災害に強い国づくりに向けた取り組みを加速化・深化させていくためにシンポジウムを開催させていただく」とのビデオレターが寄せられました。
開催挨拶
鳩山 二郎氏 内閣府副大臣
シンポジウムの開催に当たり、令和6年1月に発生した能登半島地震に触れないわけにはいきません。私たちは災害が時と場所を選ばないことを改めて思い知らされました。災害から何を学ぶかが重要であり、自治体の皆様に政策の選択肢を増やしていただけるように努めます。災害をなくすことはできませんが、被害をゼロにしようとする努力が国土強靱化です。ただし、国の力だけでは限界があり、地元の皆様の故郷の安全を切望する強い思いが必要です。本シンポジウムをきっかけにこの歩みを一緒に進めていきましょう。
岸本 周平氏 和歌山県知事
和歌山県では能登半島地震に際して約7,600人の職員を派遣しました。応援要員の受け入れ体制や避難所生活の困難さなどについて、多くの気づきが得られました。県ではこれらの気づきに対して、市町村の皆様と一緒になって取り組んでいるところです。今日のシンポジウムが皆さんの意識を高めるきっかけになることを祈念申し上げます。
尾花 正啓氏 和歌山市長
和歌山市は平成26年に国土強靱化のモデル市町村に選ばれました。平成28年には「和歌山市国土強靱化地域計画」を策定し、南海トラフ巨大地震、中央構造線による地震、紀の川の洪水などのリスクに、官民をあげてソフト・ハードの両面から対策を進めてきました。引き続き、市民の方々や、国・県・市が協力して災害への強靱化を強化してまいりたいと考えています。
講演1 国土強靱化の取組の推進について
事前の防災対策が復旧・復興を早める
丹羽 克彦氏 内閣官房国土強靱化
推進室 次長
国土強靱化とは、国土政策・産業政策も含めた事前の防災対策を講じることによって、強さとしなやかさをもった安全・安心な国土・地域・経済社会を構築することです。
大規模自然災害が起きた際、脆弱な社会では活動レベルが下がり、なかなか戻りません。しかし、強靱化された社会では速やかに回復していきます。これが国土強靱化が目指す社会です。
国では、平成25年に国土強靭化基本法が制定されてから、これまでに3か年緊急対策、5か年加速化対策を進むめてきました。実際に流域治水対策や道路ネットワークの構築など、全国各地で防災・減災の効果が表れてきています。令和7年度は国土強靱化基本計画に基づく5カ年加速化対策の最終年度ですが、今後は、「実施中期計画」を本年6月を目途に策定し、防災・減災、国土強靱化の取り組みを着実に進めてまいります。
講演2 和歌山県における国土強靱化の取組
明らかになった半島地域の脆弱性
河野 眞也氏 和歌山県
危機管理部長
石川県の能登半島と和歌山県には多くの共通点があります。三方を海に囲まれているという地理的特徴、高齢化が進んだ地域社会の特性、脆弱な交通基盤が、それにあたります。和歌山県では能登半島地震で明らかになった課題を踏まえ、県の防災・減災対策の検証を進めています。
能登半島地震では道路の寸断により、孤立集落への物資輸送が困難となりました。本県では県民に備蓄を呼びかける一方、発災初期における輸送体制を確保します。具体的には道路啓開計画の策定や、緊急輸送道路のダブルネットワーク化などに取り組んでいく考えです。
和歌山県ではこれまでも南海トラフ地震や台風などによる風水害への備えを進めてきました。今後は能登半島地震で明らかになった「半島地域の脆弱性」にも目を向けつつ、自助・共助・公助を底上げすることで災害対応力を強化していきます。
講演3 津波に対する避難と防災訓練
「津波犠牲者ゼロ」への挑戦
﨑山 光一氏 稲むらの火の館
館長
和歌山県広川町にある「稲むらの火の館」は、1854年に起きた安政南海地震による津波の被害から村人を救った濱口梧陵の功績を紹介する施設です。今日は津波に対する町の取り組みについてお話をさせていただきます。
町では明治36年から、安政の津波が起きた11月5日に「津浪祭」を開催しています。子どもたちに防災精神を受け継いでもらうことが狙いです。この日は国連の「世界津波の日」に制定されており、鉄道会社による避難訓練も実施されています。このほかこども園では月に1回、小中学校では年4、5回、津波に対する避難訓練を実施しています。
安政の津波では家屋被害は100%だったものの、当時の人口約1320人のうち97%の人が助かったと言われています。町では「稲むらの火」の精神を基本に、今後も津波の犠牲者ゼロへの挑戦を続けていきます。
パネルディスカッション
<モデレーター>
中林 一樹氏 東京都立大学
名誉教授
富田 宏氏 株式会社漁村計画
代表取締役
真砂 充敏氏 和歌山県
田辺市長
神元幸津江氏 特定非営利活動 法人全国災害 ボランティア支援
団体ネットワーク
事業部リーダー
園田 崇史氏 株式会社ウフル
代表取締役社長
CEO
田中 理恵氏 元体操日本代表
茶谷 義隆氏 石川県七尾市長
(リモート参加)
丹羽 克彦氏 内閣官房国土強靭化
推進室 次長
能登半島地震の経験等を踏まえた南海トラフ地震等大規模地震への備えについて
中林 |
まずは能登半島地震から何が学べるかを話し合えればと思います。
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茶谷 |
能登半島地震では、半島特有の地理状況によって復旧復興が困難を極めました。土砂崩れなどにより、道路が寸断され、多くの集落が孤立しました。珠洲市などでは地震による隆起で使えなくなった港も多かったのですが、七尾港は使用することができました。また能登には空港もあります。これらのインフラを活用できていれば、さまざまな支援が可能だったのではないかと感じています。これは和歌山県にも通じる課題ではないでしょうか。
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富田 |
和歌山県の沿岸部には三方を山に囲まれた地形に港とともに数多くの漁村集落が形成されています。また、役場などの社会資本も集中しています。南海トラフ巨大地震が発生した場合、20メートルを超える津波が押し寄せるとされていますが、沿岸部には壊滅的な被害が及ぶことが想定されます。過疎と高齢化が進む状況を考えれば、支援や復興は容易ではありません。東日本大震災や能登半島地震の教訓を踏まえれば、被災後の混乱期にスタートする復興ではなく、発災から復興事業の各段階のスケジュール感を持った「事前復興」計画を準備しておくことが重要ではないかと考えています。
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中林 |
事前復興というのは、平時から被災後の復興まちづくりを考えておくことです。平成7年の阪神淡路大震災をきっかけにクローズアップされてきた考え方であり、国土強靱化を考える上での重要なキーワードです。和歌山県田辺市でも事前復興の取り組みがなされていますね。
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真砂 |
田辺市では東日本大震災をきっかけに事前復興計画を策定しました。災害に見舞われた際、市を三つの地域に分けて復興する、という計画です。多くの歴史文化資源を有する中部地域では、現地再建を目指します。西部、東部地域では高台への移転をベースに新市街地を整備していきます。被災後の混乱の中で復興計画を作ることは困難です。あらかじめ住民の理解を得ながら計画を作っておけば、復興のスピードは格段に速まると考えられます。
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富田 |
私は東日本大震災後の漁村復興まちづくりに携わってきましたが、復興達成状況についての満足度が高い地域は、住民参加の度合いが高いように思います。事前復興の計画を作る際にも、住民との対話のプロセスを積み重ねていくことがポイントですね。
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真砂 |
田辺市でも計画をまとめる上で、住民説明会を実施しました。事前の復興計画がほかの計画と違うのは、計画ができて終わりではないということです。まちづくりとともに変わっていくので、常に計画のブラッシュアップが必要です。
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茶谷 |
被害を最小限に抑え復興に迅速に取り組むためにも事前復興は大変有意義ですね。
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中林 |
能登半島地震は超高齢社会での災害でしたが、どんな課題が浮かび上がったでしょうか。
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茶谷 |
超高齢社会という側面が被害を大きくしたように感じています。行政としては住民の皆さんに耐震化を呼びかけていたのですが、「子どもや孫がここに住むことはない」と考える人が多くいました。このことが家屋被害を拡大させたように思います。また、避難所でも高齢者ばかりだと共助の力が発揮できないという課題もありました。
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神元 |
能登半島地震では、仮設住宅に移った高齢者の方が取り残されている状況が多く見受けられました。どこに買い物に行っていいか分からないし、その手段もない。支給された家電の使い方も分からず、2日間、真っ暗な部屋で過ごしていたお年寄りもいました。こうした方々には災害支援を行うNPOがきめ細やかに対応しました。
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中林 |
超高齢社会では、地域の共助の力が低下するということですね。DX(デジタルトランスフォーメーション)の技術を活用することはできないでしょうか。
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園田 |
私たちは全国40以上の自治体を支援し、防災を含むさまざまなDX推進に取り組んでいます。これまでに、避難所の人数把握や避難者のアレルギー情報管理の仕組み、津波シミュレーションデータを活用したデジタル避難訓練などの実証を行い、その可能性を模索してきました。データを活用して平時から備えておくことで、効率的な防災につなげられると考えています。
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丹羽 |
日本に住んでいる以上、いつでもどこでも災害に備えなければいけません。国や自治体、民間の皆さんの力を合わせて防災対策を進めていく必要があります。
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田中 |
皆さんのお話を聞きながら、大きな地震が来た時、自分がどう行動すればいいかを想像しました。一方で行政や民間団体、企業が連携している地域は心強いと感じています。
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中林 |
まとめに移ります。国土強靱化とは、防災・減災対策であり、復旧・復興を早めるための取り組みです。今日のパネルディスカッションでは、被災後の迅速な復興には、事前復興という考え方がポイントになるという指摘がありました。また、超高齢社会においては、どう共助を実現していくかという課題も浮かび上がりました。こうした課題に対しては、国という「官」、自治体という「公」、市民の「民」と民間事業者の「民」による「官・公・民・民の連携と連帯」が鍵になります。みんなでつながることで災害に強い日本を作り、南海トラフ巨大地震や首都直下型地震に立ち向かっていきましょう。
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【連絡先】
内閣官房国土強靱化推進室
〒100-8968 東京都千代田区永田町1-6-1
TEL.03-5253-2111(内線33734)