子育て世代の防災-日常生活の延長としての防災-
令和8年2月21日に東京都内で開催した第4回ワークショップでは、「子育て世代の防災を考える」をテーマに、子どもがいる家庭における防災の備えや、日常生活の中で無理なく取り組める防災の工夫について話題提供をしていただきました。その後参加者がグループワークを通じて、災害時に困ることに対して日常の中でどのような工夫ができるかを議論しました。
話題提供:子育て世代の防災を考える
NPO法人M-plug理事・アクティブ防災®事業副代表の宮丸みゆき氏は、子どものいる家庭では、防災の必要性を感じていても、「怖い」「時間がない」「お金がかかりそう」「面倒」といった理由から、実際の備えに結びつきにくいと指摘しました。その上で、防災を特別なものとして構えるのではなく、日常生活の延長線上に位置付け、無理なく続けられる形にすることが重要だと述べ、「誰もが生きる力を高めていく防災」として“アクティブ防災”の考え方を紹介しました。
宮丸氏は、防災は備蓄品などの「もの」だけでは不十分であり、家族の行動ルールや判断基準といった「こと」も同じように大切だと説明しました。過去の災害では、子どもの食事が確保できない、アレルギー対応が難しい、暗闇を怖がる、おむつが不足する、避難リュックが重くて子どもを抱えながら運べないといった物資や備えに関する困りごとが多く聞かれたそうです。こうした課題は、備蓄や装備といった「もの」の準備によってある程度対応することができるといいます。
その一方で、災害時には「もの」だけでは解決できない課題も生じます。例えば、けがをしても救急車がつながらない、病院でもすぐに診てもらえないといった状況では、家庭内でどう対応するかをあらかじめ考えておく必要があります。また、避難所での人間関係の悪化や、子どもの声や行動をめぐるトラブル、家族と連絡が取れず安否が分からない不安なども大きな問題になります。宮丸氏は、こうした場面に備えるには、家族内の連絡方法や避難時の行動、ふだんからの人間関係づくりなど、「こと」の備えが重要になると話しました。
備えについては、避難時に持ち出す「避難リュック」、在宅避難を支える「自宅ストック」、外出先で役立つ「防災ポーチ」の3つに分けて考えると整理しやすいと説明しました。特に避難リュックは「1人1つ」が基本であり、歩ける年齢の子どもにも小さなリュックを持たせること、持病や特徴を書いたパーソナルカードや家族写真を入れておくことの重要性を紹介しました。また、自宅備蓄はローリングストックを基本としつつ、非常用トイレ、明かり、モバイルバッテリーなど、災害時に不可欠なものは意識して備える必要があると強調しました。
さらに、乳幼児のいる家庭では、普段使っているマザーズバッグやパパバッグがそのまま外出時の備えになるとし、抱っこ紐や子どもの靴を必ず持ち歩くことを呼びかけました。加えて、防災では「命」を守るだけでなく、その後の「健康」と「生活」も守らなければならないと指摘し、不眠、便秘、胃腸炎、心の不調などへの備えの必要性にも触れました。その上で、「防災はオーダーメードである」と述べ、年齢、住まい、家族構成、持病やアレルギーなどによって必要な備えは異なるため、自分や家族の日常を見直し、その中に防災の視点を取り入れることが第一歩になるとまとめました。
最後に宮丸氏は、避難食を持ってピクニックに出かける、家の電気を消してランタンで夕食をとる、寝袋でリビングに寝てみるといった家庭でできる“防災ごっこ”を提案しました。防災を「面倒なもの」ではなく、家族で楽しみながら少しずつ積み重ねることが、無理なく続く備えと生きる力につながると呼びかけました。
参加者によるグループワーク
講演後、参加者全員で、日常生活を振り返り、子どもや自分自身の状況を整理した上で、それぞれに必要な備えについて意見を出し合うグループワークを行いました。最後に、各自が気づいたことを発表しました。
- 被災時の子どもの心理的負担を和らげるため、読み聞かせや体操、年上の子どもが下の子を支える関係づくりが大切。家族で通学路や帰宅経路を実際に歩き、避難所や危険箇所を確認しておくことの重要性を改めて感じた。
- 会社の防災担当になったことをきっかけに参加し、避難所は行政だけでなく住民が主体的に運営することを初めて知った。防災倉庫へのアクセス方法や、自治体・自治会とのつながりを日頃から持っておく必要があると感じた。
- 子育て世代として、防災の必要性は理解しているものの、住宅が狭く備蓄スペースが限られるため、備えが難しい。
- ペットがいる家庭では避難所生活が現実的でない場合もあり、自宅避難を前提に住まいの備えを考える必要があると気づいた。
- 阪神・淡路大震災や東日本大震災などの経験から、自助の重要性や近所付き合いの大切さを実感した。
- 災害時に安全に避難するためには、普段から足腰を鍛え、体力を維持しておくことが大切である。
- 避難所運営ゲームやテント設営などの実践的な体験を通じて理解が深まり、学びを地域に広げていくことが重要であると感じた。
講評
参加者によるグループワークの発表を受け、話題提供者と有識者から総括としての講評がありました。
宮丸氏は、ワークショップで参加者同士が意見を交わしながら多くの気づきが生まれたことを評価しました。その上で、防災を継続するためには「日常に溶け込ませること」が重要だと改めて強調しました。普段使っているものや生活習慣の多くは災害時にも役立つため、日常の中に防災の視点を取り入ることが家庭の防災力を高めることにつながると述べました。
また、人とのつながりを大切にしながら無理のない形で備えを取り入れることが、生きる力を育てることにつながるとしました。防災は一度にすべてを整える必要はなく、身近なところから少しずつ取組を重ねていくことで、自然と防災力が高まっていくとまとめました。
池上氏は、参加者の率直な感想の中にこそ、防災を広げるための大事なヒントがあると述べました。特に、「面倒くさい」「お金がかかると続かない」という感覚は多くの人に共通するものであり、だからこそ人のつながりの中で支え合いながら防災に取り組むことが重要だと指摘しました。また、災害時の連絡方法として三角連絡法の有効性や、日常備蓄としての冷蔵庫の活用、普段持ち歩くポーチに最小限の備えを分散して入れておくことの大切さを紹介しました。さらに、足腰を鍛えること、日常生活を整えること、身だしなみを含めて自分らしさを保つことも災害に向き合う力につながると述べました。
宇野沢氏は、「強靱化」とは単に強固にすることではなく、「強くしなやか」であること、すなわちレジリエンスであると説明しました。どれほど強い堤防や防潮堤でも、想定を超える災害が起こり得る以上、人のつながりや復元力が大事であると述べました。また、災害時に大切なのは、子どもを守るためにもまず自らが生き残ることだとした上で、そのためには普段から信頼できる情報源や信頼できる人とのつながりを持っておく必要があると強調しました。SNSやネットの情報があふれる今だからこそ、前提条件を理解しながら情報を読み解き、信頼できる情報網を持つことが命を守ることにつながると締めくくりました。
今回のワークショップでは、子育て世帯の防災を切り口に、国土強靱化を日常生活の中でどう実践していくかが議論されました。宮丸氏の話題提供を通じて、備えは「もの」だけではなく「こと」と一体で考える必要があること、さらに「命」だけでなく「健康」「生活」も守る視点が不可欠であることが共有されました。
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