くらしを豊かにする防災デザイン ~フェーズフリーの実践~
令和8年1月19日に大阪府大阪市で開催した第2回ワークショップでは、「備えない防災『フェーズフリー』」をテーマに、「日常時」と「非常時」を切り分けずに考えるフェーズフリーの考え方について話題提供をしていただきました。その後参加者がグループワークを通じて、災害時に困ることに対して日常の中でどのような工夫ができるかを議論しました。
話題提供:備えない防災『フェーズフリー』
日本大学危機管理学部 教授/一般社団法人フェーズフリー協会 理事の秦康範氏は、自身が阪神・淡路大震災を経験し、被害を目の当たりにしたことが、防災を研究するきっかけになったといいます。防災の重要性が広く認識されるようになった一方で、「意識が高まっても具体的な備えにはつながりにくい」という現実があると語りました。防災対策は、災害時という限られた場面のための“コスト”として受け止められやすく、生活の質を高めるような”価値”を感じにくい。そのため普及しにくいという課題があると指摘しました。
その上で秦氏が紹介したのが、「日常時」と「非常時」を切り分けずに考えるフェーズフリーの考え方です。フェーズフリーは、2014年に佐藤唯行氏(現、一般社団法人フェーズフリー協会代表)によって提唱されたものです。これは、防災のためだけの特別な備えを用意するのではなく、普段の暮らしを便利に、快適にするものや仕組みが、災害時にも役立つようにしておくという発想です。秦氏は「意識を高めなくても、自然に備えられている社会をつくることが重要だ」と述べました。
講演では、身近な事例も紹介されました。例えば、ハイブリッド車やプラグインハイブリッド車は、普段は燃費のよい移動手段でありながら、災害時には電源としても活用できます。液体ミルクは、外出時の授乳の負担を助ける日常的な利便性を持ちながら、非常時にもそのまま役立ちます。歩きやすいビジネスシューズ、防災機能を備えつつ普段から人が集う公園、地域に開かれたごみ焼却施設なども、日常時と非常時の両方に価値を持つ例として示されました。
また秦氏は、フェーズフリーは防災分野にとどまらず、まちづくりや行政計画、教育、企業活動とも親和性が高い概念だと説明しました。防災部局だけでなく、福祉、教育、産業、都市計画など多様な分野が関わることで、地域全体の生活の質を高めながら、結果として国土強靱化につながると強調しました。
さらに、家庭で実践できる具体例として、ローリングストックの考え方も紹介されました。普段から食べているものを少し多めに買い置きし、食べた分だけ買い足していくことで、無理なく備蓄を維持する方法です。秦氏は、長期保存食だけに頼るのではなく、「普段食べ慣れたものを備えることが、災害時の安心につながる」と述べました。加えて、家具固定の工夫や、倒れても被害が出にくい家具配置、備え付け家具の活用など、住まいそのものを見直す視点にも触れました。防災のための対策を“特別なこと”として積み上げるのではなく、暮らしや住環境そのものを見直すことが、無理なく続く備えになると締めくくりました。
参加者によるグループワーク
講演後、参加者全員で、災害時に困ることを具体化し、それに対して日常の中でどのような工夫ができるかを中心に議論しました。
- 電気や電波、スマートフォン、パソコンが使えなくなると、情報収集や安否確認、仕事上の連絡ができなくなり、日常生活への影響が大きいと感じた。
- 特に、正しい情報をどう得るかが重要であり、災害時には情報の真偽を見極める力も必要。
- 一方で、デジタル機器や通信インフラは個人の工夫だけでは限界があるため、ラジオや紙の連絡先、地図など、アナログな手段も持っておくことが大事。
- 食料や水、味噌汁や羊羹など、普段口にしているものや、ペットの餌を少し多めに備えるローリングストックが有効。
- 長期保存食だけではなく、日頃から食べ慣れたものを備えておくことが、災害時の安心感や継続性につながる。
- 現金や小銭、眼鏡、充電器なども、普段の生活の延長で持ち歩いたり備えたりすることが大切。
- 電車や道路が使えなくなると移動が難しくなるため、普段から歩く習慣をつけることや、地図を頭に入れておくことが役立つ。
- 歩きやすい靴や中敷きを普段から使っておくことで、非常時にも無理なく行動できる。
- 家具の固定や配置の見直し、ガラス飛散防止フィルム、断捨離など、住まいの安全性を高める工夫が大事。
- カセットコンロ、石油ストーブ、キャンプ用品、車など、日常でも使える道具が災害時にも役立つ。特に、普段から使い慣れていることが重要。
- 車は移動手段であるだけでなく、電源や避難空間としても活用でき、ペット同行避難を考える上でも役立つ。
- 災害時には、近所の人、趣味の仲間、行きつけの店など、日頃からつながりのある相手が支えになる。
- 従来型の地域コミュニティに距離を感じる人もいるため、誰もが無理なく関われる小さなつながりやサードプレイスがあるといいのではないか。
- 普段から相談できる人、気にかけてくれる人がいることが、いざという時の安心や助け合いにつながる。
講評
参加者によるグループワークの発表を受け、秦氏から総括としての講評がありました。
秦氏は、参加者の発言を通じて、日常生活の中で既にさまざまな備えが実践されている点を評価しました。その上で、「意識を高めて備えましょう、という呼びかけも大切だが、それだけでは広がりにくい。無理なく実践できる形で社会の中に備えが組み込まれていくことが重要だ」と述べ、防災を特別なものとして構えるのではなく、無理なく日常生活の中で実践していくフェーズフリーの考え方の意義を改めて強調しました。
また、「意識を高めて備えましょう」という従来の呼びかけだけではなく、意識しなくても自然と備えができている社会をつくることが重要だと指摘しました。その実現に向けて、日常時と非常時を分けずに考えるフェーズフリーの考え方を一人ひとりが取り入れ、実践していくことが国土強靱化につながると述べました。
最後に秦氏は、今回のワークショップを通じてフェーズフリーへの理解が深まったことに触れ、「今日得た気づきを周囲にも発信し、日常の暮らしの中で実践していってほしい」と参加者へ呼びかけました。
今回のワークショップでは、秦氏の講演を通じて、日常の便利さや快適さを高める工夫が、そのまま災害時の備えにもなるというフェーズフリーの考え方が共有されました。特別な防災対策だけに頼るのではなく、日頃使っているもの、慣れている行動、身近なつながりを見直すことが、無理なく続く国土強靱化の実践につながることが示されました。国土強靱化は特別な取組として構えるのではなく、日々の暮らしの中にある工夫や選択を少しずつ積み重ねていくことから始まる、という方向性が改めて確認されました。
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