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国土強靱化:私のひとこと vol.7

ポジティブに話し合う場・関係性づくりをしている地域が、
いざという時に力を発揮する

Cord for Japan代表理事 関 治之氏

 市民が主体となり、地域課題解決に取り組むコミュニティ作り支援や、テクノロジーを活用したアクションを創発する活動を支援しているCord for Japan。活動の原点である東日本大震災でのsinsai.infoなどについて、代表理事の関治之氏に話を伺いました。

 まずは、私の現在の活動の原点からお話します。

 東京生まれ東京育ちで地域の課題というものに強い問題意識を持っていなかった私が、東京集中の脆さみたいなものをとても感じた東日本大震災。ふと気がつくと、東北の被害に対して何ら価値を提供できていない。何かできないかと思っていた時、参加していたオープンストリートマップというコミュニティのメンバーの一人が、災害時のマッピング活動であるクライシスマッピングのサーバーを立ち上げてあったので、それを使って始めたのがsinsai.infoでした。


sinsai.infoより

 sinsai.infoの活動をする中で、普段から接していればもっと素早く動けたと思うことがいっぱいありました。例えば、避難所の場所は、震災前から決まっていたはずですが、被災してから調べようとしても電話をかけることすらはばかられる状況です。事前に備えていれば、どういった状況か、何が必要かということをもっとタイムリーに伝えられたはずです。また、情報さえあれば被災地外にいる私たちも手助けしやすくなります。事前にある程度連絡ラインが決まっていて、伝え方や配分のルールが決まっていれば、情報発信がうまくできているところに救援物資が集中するようなことになりませんでした。

 このように、被災直後は情報の連携さえうまくできれば様々なことができたなあという程度でしたが、復旧・復興段階に移り、経済をどう立て直すかという声が被災地で多く聞かれるようになってきます。震災から3年近く経つ頃、避難先での生活が定着したりする中で、ただ震災前に戻しても意味がなく、むしろプラスにしないといけない。そのために、ITを活用して地域の物産を地域外に販売するなど、ITを上手に使えばできることもあります。こういうことが必要だねと話している時に、これは被災地だけに当てはまることではなく、普遍的なことだということに気づきました。そして、この課題に取り組むためには、行政と一緒にかつ主体的に考えられるようなコミュニティづくりが必要ではないかと考えるようになりました。

 ちょうどその頃に、Cord for Americaが、行政に優秀なエンジニアを派遣したり、民間側で地域が主体に考えられるコミュニティづくりのためにみんながフラットに話し合える場を作ったりしていることを知りました。これは日本でも通用することではないかと考え、被災地や防災に限らず、地域住民が行政と一緒にITを活用して地域課題を解決するようなコミュニティづくりを応援する団体として、2年前にCord for Japanを始めました。

一番重要なことは対立軸を作らないこと

 Cord for Japanの活動は、自分たちで地域の課題を見つけて解決する住民自治と、IT活用を組み合わせた「シビックテック」と呼ばれるものです。我々は、住民自治に欠かせない主体性を大事にするとともに、無理なく活動できる仕組みづくりを工夫するようにしています。

 具体的な活動例は、地元の複数の企業や市民が行政と一緒に月に一回集まって何か作ったり改善したりするとか、IT企業のエンジニアが週末などにボランティア活動的に地域のために手を動かすとか。また、ITに詳しくない地域のNPOなどが、普段の活動の視点を変えたり、接点の無い人たちと活動したりしたいということで、シビックテック的な活動やイベントをするところや、事業として成立するサービスを作って、行政のワークショップ(WS)事業の予算を獲得しながら活動するところもあります。我々は、アイデアソンやハッカソンなどのWSを基本的な活動形態としているため、多くの地域で行政と一緒に考えるWSや勉強会をメインに活動しています。

 WSを実施する際に一番重要なことは、対立軸を作らないことです。行政批判や一方的に要望をするのではなく、楽しく活動できることを重視しています。人は正しいからというだけでは動きません。続けていくためにも、いかに楽しい場を作るか。アイデアソンやハッカソンはまさにそういうポジティブな場を作る手法の一つであり、その設計が重要だと考えています。そのため、Cord for Japanでは、各地で活動している人と一緒にWSの設計についての勉強会も開催しています。

 WSでは、行政の人にも来てもらうと、地域の課題に対して、行政では何に取り組んでいて、上手く行っていることやそうでないこと、将来的な見通しなどについて、参加者が知ることができます。そうすると、そのことを踏まえてアイデアを考え、こういう解決策があるかもしれないという提案につながります。行政側にとっては「なるほど、そういう視点があったのか」、参加者にとっては「アイデアが良くても行政が責任を持って実施することは難しいのか」と気づきます。そういう相互理解が進んでいくことがおもしろいなあと思います。


Cord for Japan Facebookより

平時から顔の見える関係性を築くことが重要

 オープンデータについて、分かりやすくするため市民と行政に分けて話をすると、今その間をオープンデータによってつなげるものは、情報だけです。ポータルサイトを作って行政は情報を出し、市民のみんなが見に来て使ってくれる。実はそうではなくて、情報はあくまで「言葉」みたいなものであり、言葉を語り合う関係や対話が必要です。「こういうデータがあるけど、どのように使いますか?」「私たちはこのように使いたいです。」「それであれば、この方が使いやすいですね。」というやり取りがないと、データ自体が良くなりません。データの提供形態もさることながら、データを使ってもらうための努力が重要であり、そのためのやり取りや対話をなるべく頻繁に行うことが必要です。そうすることでお互いに顔の見える関係を築くことにもつながります。

 東日本大震災で我々が取り組んだ時、想定外のことが多く起きたため、この人に聞けば分かるだろうと様々な人に電話したように、人のつながりで解決したことがたくさんありました。やはり最終的には人だと思います。また、平時からある程度話していれば、災害時に必要と思われるものが見えてくるため、そういうデータはオープンデータにする方がいいと思います。災害時は、圧倒的にリソース不足になるため、平時から本来やるべきことには集中しつつ、無理のない感じのコミュニケーションができる関係性を築いておけば、様々なことが進むような気がします。

 その中で、ある程度集中して取り組まなければいけないことが出てきた時は、そのことを仕事にするのがいいと思います。それに対して、行政側でも新たな予算を作って対応するのではなく、これまでしてきたことを上手くできる民間に渡すというオープンガバメントの考え方で、地域のやる気のある人にお願いする方向にすれば、無理なく民間の仕事になっていきます。

弱くなってきた地域コミュニティ。ITならそれを超えられる可能性がある。

 地域における旧来のコミュニティが弱くなってきており、例えば自治会では昼間に時間がある人たちだけが関わるコミュニティになっている場合があります。こういったことに行政だけで対応することは難しいため、ITに関する高い専門性を持つコミュニティなどと一緒に取り組んでみてはどうでしょうか。紙媒体を前提としたハザードマップも、ITを使える人たちが手伝えば、オンラインで見られるようにできます。様々な避難所検索のアプリなどもあります。電話が使えない時にSNSを使って連絡を取る訓練なども考えられます。これであれば昼間働いている人も参加できる可能性があります。ご家族が働きに出ていて独りで家にいるお年寄りのために「災害の時にはこれ押して!」というようなボタンを作れば、SNSを使えなくても安否確認ができます。また、普段からSNSなどが得意な人がコミュニティの中に居れば、災害時に「私がこの情報をブログやFacebookで伝えます。」や「ボランティアや救援物資をSNSで集めてみます。」などの情報を発信することができます。このように、情報をより多くの人に伝える情報発信や緊急時の連絡体制づくりは、ITが得意とするところです。

 「強靱化」という言葉は、どちらかと言うと「強くする」というイメージを与えますが、あわせ持つ意味である「しなやかさ」のイメージも与えるためには、「できないことはできない」と言った上で「助けてください」と言えると違うのではないでしょうか。むしろ「レジリエンス」と言った方がイメージしやすいかもしれません。

 住民は、住んでいる地域のことが大切なはずです。行政は、その人たちに「安心してください」と言うのではなく、「頑張っていますが、この地域にあるリスクに対して、予算上ここまでしか対応できません。我々と一緒に考えましょう。」という姿勢を持つことができる地域が、いざという時に本当に力を発揮するのではないかと思います。いかにそこに住んでいる人たちとポジティブに話し合う場を作るか、そういう関係性づくりに取り組みたいところと是非お話したいと思っています。

関治之氏 プロフィール
  一般社団法人Cord for Japan代表理事
ITエンジニアを経て、2009年にGeorepublic Japan社設立。
2013年 Cord for Japan設立
IT総合戦略本部地方創生IT利活用推進会議委員等
HP http://code4japan.org/
Twitter  https://twitter.com/codeforjp
Facebook  https://www.facebook.com/codeforjapan

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