第6回障害者に対する偏見や差別のない共生社会の実現に向けた対策推進本部幹事会 議事次第 令和6年11月20日 13時から14時まで 合同庁舎第8号館8階 818会議室 1.開会 2.議事 (1)障害当事者からのヒアリング ・一般社団法人日本ALS協会 ・一般社団法人日本メンタルヘルスピアサポート専門員研修機構 (2)質疑応答 3.閉会 資料1 「障害者に対する偏見や差別のない共生社会の実現のための方法としてどのようなものが考えられるか」 一般社団法人日本ALS協会会長 JPA(一般社団法人日本難病・疾病団体協議会)理事 恩田聖敬 p1 最初に簡単に自己紹介致します。1978年岐阜県生まれの46歳です。最終学歴は京都大学大学院工学研究科航空宇宙工学専攻の修士です。そこからサービス業系のベンチャー企業に就職して経営経験を積んで、2014年にサッカーJリーグFC岐阜の社長に就任しました。その直後にALSと診断されたのでALS歴約11年です。ALS進行により2016年にFC岐阜の経営から離れました。2018年に気管切開して人工呼吸器ユーザーとなりました。2022年から日本ALS協会会長、2023年からJPA理事を務めております。私生活はFC岐阜退任後クラウドファンディングで会社を立ち上げ今も社長です。妻と娘と息子と現在も岐阜県で暮らしています。本日はオンラインで大変失礼します。よろしくお願い致します。 さて、私は35歳でALS(筋萎縮性側索硬化症)を発症するまでいわゆる障害者とほぼ接点なく生きて来ました。これは障害者と健常者の世界が分離していることが原因だと思います。実際にALSになって障害者の世界に入ると、想像だにしない困難が待ち受けていました。偏見や差別以前に障害者がどんな日常生活を送っているかも健常者側からは全く想像もつかないのが現状だと思います。よって障害者と健常者の分離を取り除く必要性を強く感じます。 一つは就労、すなわち企業を通した社会交流が必須だと思います。企業は社会の写し鏡であり、職場に障害者がいて対話することで必要な配慮などにも気づくことが出来ます。就労は最も基本的な社会活動の一つです。障害者にとっても社会に貢献している、人の役に立っている感覚は生きがいにつながる重要な要素になり得ます。例えばLGBTQ+の方が就労していたからこそ、履歴書から性別が消えるという具体的なアクションが社会に発生しました。同じように障害者が就労の場に当たり前に存在することで、偏見や差別に対する具体的アクションが自然に生まれると思います。 しかし障害者の就労には大きな壁があります。色々ありますが本日はALSの就労の壁について述べさせていただきます。人工呼吸器をつけたALS患者は24時間介護体制が必要となり、ほとんどの人が障害者総合支援法の重度訪問介護を利用します。重度訪問介護は介護保険のヘルパーさんの制度と違い、使途・目的も制限されておらず長時間の支援が可能です。まさにALS患者が自分らしく生きるのを可能にする日本が世界に誇れる制度です。しかし一つだけ欠点があります。就労・就学での利用が認められていないのです。想像するに重度訪問介護は公費つまり税金です。税金を使って個人がお金を稼ぐのはまかりならんという主旨かと推察します。けれどもよくよく考えると矛盾しています。全く生産性がなく経済活動していない人には公費を出すが、生産性があり経済活動している人には公費を出さない制度なのです。 これは明らかに国益に反する制度です。もちろん福祉的観点から生産性のない方も救う必要があります。一方で日本は少子高齢化により慢性的な人不足に陥っています。障害者でも誰でも就労の意思と能力があれば戦力にしなければ今後の国難は乗り切れません。国連の障害者権利条約にも就労の権利は明記されています。日本も条約を批准しているので、就労に制限をかけるのは条約違反ではないでしょうか? p2 もう一つ重度訪問介護制定時には想定していなかっただろうことを挙げます。それはテクノロジーの爆発的な進歩です。私事で恐縮ですが私はこの原稿をiPadを使って咀嚼筋で書いています。文章入力はもちろん、SNSやメールやネットバンキングなど全てiPadで自分で操作しています。かつては手も足も動かなくなったらどうしようもなかったと思いますが、今は視線入力を含めてわずかでも動く部位があればコンピュータにアクセス可能です。また近年ではブレイン・コンピュータ・インターフェースと呼ばれる脳波から意思を出力する装置も発展を遂げています。究極的にはどこも動かせなくても意思疎通が可能となります。加えてコロナ禍でリモートワーク環境が劇的に整備されたことも障害者の就労には追い風です。私も週に数回は必ずリモート会議にチャットで参加しています。障害者が働ける可能性はこれ以上なく高まっています。 ALSになってわかったことですが、障害者は日常生活を送るだけでもさまざまなマネジメントが発生しています。体調管理はもちろんのこと介護者や支援者との人間関係構築も必須です。何をするにも健常者より時間がかかるのでタイムマネジメントも必要不可欠です。また障害者は社会的弱者の気持ちを当事者として理解しています。そんな人だからこそ健常者には思いつかないイノベーションに辿り着く可能性が極めて高いとわは確信しています。 他にも障害者手帳のない難病患者が障害者雇用の枠にカウントされないという問題もあります。障害者の就労の壁を可能な限り排除して、働ける人には働いてもらうことこそ国益に直結すると私は思いますがいかがでしょうか? ちなみに参議院議員であるALS患者の船後やすひこさんとてんばた大輔さんは私の知人ですが、重度訪問介護を使って議員活動をしています。詳細についてはわかりかねますが、特例として重度訪問介護の費用は参議院が負担していると耳にしました。国会議員という特権階級だけが重度訪問介護で就労が認められていると誤解を招く事態となっています。あまねく職業に障害者を迎え入れることで、偏見や差別は自然と浮き出されて自浄作用が社会に生じると私は思います。 続いて教育環境の改善です。障害当事者が何かしらの理由で就学が制限されることはあってはならないことです。日本国憲法は保護者に教育を受けさせる義務を課してます。それなのに重度訪問介護が就学に利用出来ないのはおかしいと思います。ALSは高齢発症が大半なので就学に該当するケースは少ないかもしれません。しかし別の病気では該当する人は少なからずいるはずです。また若くなくても学び直しの権利を侵害します。ビジネスと同様にアカデミアの分野でも障害者がイノベーションを起こす可能性は十分にあります。私も夢中になった「宇宙論」で有名な世界的な物理学者のスティーブン・ホーキング博士はALS罹患後も研究を続けました。教育を受ける機会を奪われない限り誰でも結果を残すチャンスはあります。 もう一つは健常児側の障害者・障害児に触れる機会の拡大です。子どもの頃から障害者・障害児に触れるカリキュラムを作ることで、私のように35歳になっても障害に無知という問題を防ぐことが出来ます。就労に対する企業努力は社会の後天的な配慮と考えると、教育は先天的配慮につながると思います。子どもだからこそ素直に受け入れることが出来ます。現在がんに対する教育はカリキュラムに入ったと伺っています。しかしがんは国民の2人に1人がかかる病気ですが、早期発見早期治療を徹底することで治る病気になりつつあります。もちろんがん教育を否定はしません。けれども小児慢性疾患や難病のように原因不明、治療法なしという病気もこの世にはあること、それでも患者は生きている同じ人間であることを知ればかなり障害者の見方は変わると思います。理不尽に立ち向かう勇気も醸成されます。 p3 日本は国連からインクルーシブ教育の遅れを指摘されています。現実的にインクルーシブ教育を実施しているのはほんのひと握りと聞いています。障害児の保護者がためらうことも少なくないようです。しかしそのためらいは障害者と健常者の世界をきっちりと分けてきた我々大人の発想に過ぎません。ごちゃ混ぜにしたら案外子どもは自然に触れ合うかもしれません。もしかしたら不登校やいじめなどの既存の問題に対して障害児が貢献するかもしれません。 最後に指摘するのは家族介護の問題です。家族介護と言えば老々介護やヤングケアラーなどが社会問題化しています。では問題の本質はどこでしょう?私は介護は家族がするものというずっと日本に蔓延る固定観念・悪しき風習と、偏見や差別に合うと考えて家族だけで囲い込むという負のスパイラルだと思います。 日本ALS協会も行政官から「家族が見ればいいでしょ。」的な発言を受けたと全国より相談を受けています。行政がそんな発言をする以上、ヤングケアラー問題に気づくことも解決も到底出来ないと思います。 ALSは将来的に24時間介護が必要となります。これを家族だけでまかなうのは不可能です。よって日本には重度訪問介護があるにも関わらず、人工呼吸器装着率は約3割にとどまります。つまり7割の多数派が人工呼吸器という生きられる治療法があるにも関わらずそれを選択しないのです。この現実を是非とも重く受け止めていただきたいのです。これは医療従事者の説明不足もあると思います。ただALSに対する誤解もあると思います。 ALSは進行により動けない、喋れない、食べられない、呼吸が出来ない、という四重苦に見舞われます。五体満足の身からは絶望感しかありません。変わり果てた姿を近所や知り合いに晒す苦しみにも共感できる点もあります。でもそれは一面的な考えだと捉えることも出来ます。四重苦だけど五感は正常なので、目は見えるし耳も聞こえます。つまりコミュニケーションの受信は出来ます。しかも記憶や思考にも基本的には影響はありません。よって私が私であることに変わりはありません。ALSの前の私を知る友人はなんの気兼ねなく私と会話してくれます。このようにALSという病気を断片的でも周りが理解してくれれば生きたいという感情も沸き得ると思います。 だからこそALSの周りのみなさんの理解が大切です。そして家族介護を回避するためにヘルパーさんの存在が不可欠です。しかも我々のヘルパーは特殊なコミュニケーション方法を取得して、胃ろうや吸引などの医療行為の資格も必要です。私を含めて全国のALS患者でヘルパーの確保及び育成に悩んだことがない人は間違いなく1人もいません。国が本気でヘルパーの育成や報酬も含めた社会的地位向上に取り組まない限り、家族介護はもとより要介護者が増えていく日本の福祉制度は破綻に追い込まれるでしょう。特に国は病院から在宅の政策を押し進めています。それなら尚更訪問ヘルパーの存在が貴重となります。 以上で私の主張を終わります。続いて私の原稿を代読している、日本ALS協会常務理事の岸川さんが意見を述べます。岸川さんは奥様がALSで私より長く闘病されています。当事者の家族の立場で申し上げたいことがあると思います。 資料2 障害者に対する偏見や差別のない共生社会の実現のために 2024年11月20日 一般社団法人日本ALS協会 事務局長・常務理事 岸川忠彦(家族会員) 恩田さんの文書でほぼ網羅されていますが、ALS患者(障害者)の家族の立場で以下を述べさせていただきます。 当協会本部・(神奈川県)支部の活動や私自身の普段のふるまいを通じて感じていることです。障害者の家族は障害者に対する偏見や差別のない共生社会の実現に向けた活動の最前線にいるはずですが、残念ながら、時として、これを阻害する側になることもあると感じています。 このように相反した構図は一朝一夕には解消されないと思いますが、解消に向けて難病患者・障害者の家族を対象としたピア相談や啓発活動をいっそう充実して気付きの機会を増やす必要があると思います。 同じように、行政も共生社会の実現の最前線に立たれているはずですが、残念ながら、阻害する側になることもありえると感じていますので、行政権の主体である内閣に「障害者に対する偏見や差別のない共生社会の実現に向けた対策推進本部」が設置されたことに大きな期待を寄せているところです。今後、自治体の行政の窓口担当者も含めて隅々までこの対策推進本部の設置の趣旨を理解いただいたうえで、推進・活動を継続していただくのが大事だと存じます。 以上 p1 資料3 第6回障害者に対する差別や偏見のない共生社会の実現に向けた対策推進本部幹事会 『障害当事者からのヒアリング』 日時:2024年11月20日(水曜日) 13時から14時まで 場所:中央合同庁舎第8号館 818会議室 内布智之 日本メンタルヘルスピアサポート専門員研修機構 副代表理事 p2 講師:内布 智之(うちぬの ともゆき) ・20歳代中期にメンタルヘルスの不調が始まる ・20歳代後期に幻覚妄想に苦しむ。精神医療に繋がり同じ境遇の仲間たちと出会う ・30歳代初期に福祉のピアサポーターに雇用される ・40歳代初期に日本メンタルヘルスピアサポート専門員研修機構を仲間たちと設立する ・現在は一般企業に勤務しつつ障害者ピアサポート研修の普及に携わる (作業者注・以下図) 男性の顔の絵 (作業者注・図終わり) p3 本日お話しする内容 ●精神病院 閉鎖病棟 保護室の経験 ●精神障害者への偏見と差別 ●偏見と差別の解消に取組んで欲しいこと ●共生社会に向けて ●最後に p4 日本メンタルヘルスピアサポート専門員研修機構とは ・わが国において、1990年代から作業所や社会復帰施設で、ピアサポーターが活躍するようになりました。一方、アメリカやカナダでは1980年代から(認定)ピアスペシャリストとして、雇用ガイドラインや研修プログラムが開発されています。 ・平成23年度から平成26年度にかけて、日本の各種専門家・ピアスタッフがマジゾン(アメリカ)への視察やトレーニングマニュアルの和訳などと研修プログラムの開発・実施を行う中で、基盤となる組織・団体が必要となり、精神障がい者ピアサポート専門員研修企画委員会で議論の末、平成27年4月1日に、一般社団法人を設立する事と成りました。 ・一般社団法人日本メンタルヘルスピアサポート専門員研修機構は、各種専門職と協働して、「リカバリー」を支援できる精神障がい者ピアサポート専門員を育成する事を目的としています。 (日本メンタルヘルスピアサポート専門員研修機構HPより) p5 精神病院 閉鎖病棟 保護室の経験 私がメンタルヘルス活動を続けている理由 p6 精神障害者への偏見と差別 ●『偏見』:歪められた考え方・知識をもとにした見方 ・偏見の見え方を持つ人たちは「精神障害者は○○である」と言う →知らず知らずに見ている偏見の視線 ●『差別』:特定の人への不利益・不平等な扱い ・差別の意識を持つ人たちは「精神障害者には○○でいい」と言う →何も気にせず発する差別的な言葉 p7 偏見と差別の解消へ取組んで欲しいこと(国全体の範囲) ●「障害者の権利に関する条約」批准を国民一人ひとりが知る →障害者と健常者の間にある壁を取り除くために発信し続ける ●障害者に対する偏見と差別に関する修正情報を浸透させる →障害者に向けた偏見と差別を修正・解消に正しい知識を広げる →日本の社会で偏見と差別を受けている障害者の声なき声を聴きとる →障害種別を超えた全障害者に発言の機会を保障する ●障害者の能力開発の推進 →教育環境と職業能力訓練と職場環境保全で障害者も活躍ができる社会の構築 ●障害者が地域で暮らしやすい街づくり →障害者に合った住空間と移動手段の充実 →障害者が利用しやすい医療機関と福祉サービスの確保 →障害者スポーツと障害者芸術活動の推進 p8 偏見と差別の解消へ取組んで欲しいこと(精神保健福祉の範囲) ●地域社会でに開かれた精神科医療サービスの拡充 →精神科医療関係者で精神病患者・精神障害者を抱え込まない →脱施設化と地域社会全体で支援する考え方の一般化に向けた動き ●精神病患者の自由を奪わない医療体制の確立 →過剰な薬物投与と長時間の拘束具・保護室使用の廃止と患者の権利擁護制度 ●精神科医療関係者と障害福祉人材の育成と評価 →対人援助技術の向上につながる支援策と成果に見合った報酬のあり方 ●精神病患者・精神障害者が中心の医療・福祉サービス充実 →現状の精神科医療・障害者福祉サービスは当事者が求めているものとはまるで違う →当事者の求めているものを聴き取って実現する((作業者注・下線ここから)精神疾患対策基本法(作業者注・下線ここまで)) p9 共生社会の実現に向けて (作業者注・以下図) 老若男女が手をつないで輪になっている絵 (作業者注・図終わり) p10 最後に 私は今回のヒアリングで皆様へ伝えたかったことは現在の精神障害者に向けた偏見と差別の歴史を後世に繋げたくないと思ったからです。 私はこれから生まれてくる次世代を生きる子供たちも精神疾患を持った時に絶望することもあるでしょうが回復へ繋がるきっかけを得られれば再び希望が湧き再度自分らしい人生を送ることが出来きたときにこの邦に生まれてきて良かったと想うはずです。それが当然の社会になって欲しいと切に願います。