世界津波の日フォーラム

国土強靱化の推進にあたっては、施策の担い手となる関係府省や地方公共団体、さらには事業者や国民が総力をあげて、津波をはじめとした大規模災害等の対策に取り組むことが重要です。そのため、「津波防災の日」であり、かつ昨年新たに制定された「世界津波の日」である11月5日に、国土強靱化に取り組む実務家を招いて、国土強靱化に関する情報共有・意見交換を行うフォーラムを開催いたしました。会場には全国自治体の防災担当者ら約200名が参加し、「世界津波の日」制定の由来となった物語「稲むらの火」の朗読や専門家による基調講演、鼎談に熱心に耳を傾けました。「世界津波の日フォーラム」の基調講演、鼎談の模様をご紹介いたします。
■ 開催日時 2016年11月5日(土) 14:30~17:00
■ 開催会場 イイノホール&カンファレンスセンターRoom A
■ 主催 内閣官房 国土強靱化推進室
■ 協力 内閣府(防災担当)・国土交通省・JICA・世界銀行東京事務所
全国地方新聞社連合会・共同通信社
■ プログラム 開会
オープニングアトラクション 稲むらの火語り
平野 啓子氏[語り部・かたりすと]

主催者挨拶松本  純[国土強靱化担当大臣]
来賓挨拶二階 俊博氏[衆議院議員]
仁坂 吉伸氏[和歌山県知事]
三浦  惺氏[レジリエンスジャパン推進協議会 会長]
  基調講演① 「世界銀行と防災 ~強靱な開発を目指して~」
塚越 保祐氏[世界銀行駐日特別代表]
基調講演② 「チリと日本の防災協力の重要性」
ビクトル・オレジャーナ氏[チリ共和国内務省国家緊急対策室(ONEMI)次官]
基調講演③ 「巨大津波と国土強靱化」
藤井  聡氏[内閣官房参与・京都大学大学院教授]
  休憩
  鼎談塚越 保祐氏[世界銀行駐日特別代表]
ビクトル・オレジャーナ氏[チリ共和国内務省国家緊急対策室(ONEMI)次官]
藤井  聡氏[内閣官房参与・京都大学大学院教授]
  閉会

「稲むらの火」を朗読する語り部の平野啓子さん

■ 基調講演①
講演資料はこちら
塚越 保祐氏
塚越 保祐氏
「世界銀行と防災 ~強靱な開発を目指して~」
塚越 保祐氏
[世界銀行駐日特別代表]
【プロフィール】
財務省及び金融庁において国際金融、開発問題を17年にわたり担当。この間、米州開発銀行理事、アフリカ開発銀行理事、国際金融情報センター・ワシントン事務所長等を歴任。国際通貨基金(IMF)、経済協力開発機構(OECD)、世界貿易機関(WTO)などの国際会議にも数多く出席した。2013年8月より現職。
司会
それではこれより、国土強靭化に取り組む実務家お三方による基調講演です。まず最初に、塚越保祐 世界銀行駐日特別代表より「世界銀行と防災 強靭な開発を目指して」と題してご講演いただきます。世界銀行は発展途上国の貧困削減と持続的成長の実現に向けて、融資、技術協力、政策助言を提供する国際開発金融機関です。本部はアメリカ・ワシントンDCにあり、インフラ、保健・教育、気候変動・防災等の幅広い分野の支援を手掛けています。2014年には、東京事務所内に東京防災ハブが設立され、世界銀行のプロジェクトにおける防災の主流化を支援しています。それでは塚越代表、どうぞよろしくお願いいたします。

塚越氏
ただいまご紹介にあずかりました、世界銀行の塚越でございます。本日はどうぞよろしくお願いいたします。
 今も司会の方から非常に簡潔明瞭な、私どもの組織のご紹介をいただいたわけでございますが、世界銀行は何かと一言で言えということになりますと、世界各国、特に途上国が、貧困の撲滅と繁栄の共有というものを目指して、国家の開発を進める時に、それを資金的に支援する機関でございます。ただ単に、資金的に支援するだけではなくて、こちらにご覧いただけますように、世界中の地域に対して、かつおおよそだいたい皆さんがご想像される、開発で必要な分野全てをカバーしながら、政策的アドバイスと、そしてまた必要とあれば技術的協力も行っていくという組織であります。で、この二つの目標、貧困の撲滅とそして世界で繁栄の共有を図るというために、私どもの政策は、大まかにいって、3つの柱が立っております。
 1つはインフラ、そして、民間資金の開発。世界中にはまだまだインフラの足りない国がたくさんございます。社会基盤の基礎であるインフラを充実させること。そして、世界の仕事のおよそ90パーセントは、民間セクターが供与しているわけでございますので、民間セクターを力強く成長させるということは開発の基本になります。
 もう1つの柱は、人への投資。これは具体的には、医療、保健ですとか、あるいは教育でございます。医療、保健、教育、これはそれ自体、価値のあるものでございますが、それはまた、人間が資本として、人間が開発の基礎となるという成長のための礎でもございます。
 そして、3番目に挙げなくてはならないのが、まさにリスクに対応するレジリエンスの強化ということでございます。
 開発途上国だけでなく、日本も同様でございますが、その国が発展していくには、様々なリスクというものが伴います。あるものは、傾向として続くものでございますし、あるものは、循環的なリスクといえます。例えば、都市化というものは、今、世界中で進んでおります。都市化というのは、一面、人々が都市に集まって、生産性を向上させるという経済発展にとって大切な原動力であると同時に、また、無秩序に人々が集まることによって、災害を受けやすい状況になるという面もあります。また、ご存知のように、世界経済は変動いたしますし、金融危機にしばしば襲われるわけでございます。こういったような危機にも対応していかなければいけない。さらには、今、紛争国で移民が大量に発生して、これはその地域だけではなく、グローバルなリスクをもたらしております。そして、本日、お話させていただきます、自然災害のリスクがございます。
 自然災害自体、ここにお示ししましたのは、経済的損失でございますが、ずっと増大傾向にございます。1980年から30年間の間で、自然災害による死者は、約16億人であったと推計されております。他方で、経済損害ということで申しますと、年々、このように拡大しております。もちろん、ある年は大きな被害が出たり、ある年はそれが少なかったりいたします。過去最大の被害が生じましたのは、2011年、東日本大震災のあった年でございます。この年、世界全体での損害額は3800億ドルだったと推計されております。これが今後、2030年に向けては、さらに経済損失が拡大いたしまして、ある推計では、年平均4150億ドル。すなわち東日本大震災があって、これまで最大であった3800億ドルを毎年超えるような規模の損害額が発生しうるんではないかと推計されております。その要因はなぜかと申しますと、一つには自然災害自体の頻度が多くなっております。他方で、一回一回の自然災害の損害額も大変大きなものになっております。ここでお示ししましたのは、ただそうした自然災害が起きたら、必ずしも大被害が生じるわけではない、ということです。むしろ、その自然の災害が起きた時に、大きな被害をもたらすのは人為的な側面である。一つには、ここにございますように、無計画な都市化の下に、大量の人口が無秩序に、都市の中でもリスクの高いところに集まってしまうといったようなこと。それからやはり、人口自体が途上国では急増しておりますので、それ自体もやはり災害に対するリスクに晒されている度合いを拡大しているという側面があります。
 他方で、そういったように、人々が都市に入った時に、住んだところが、日本のようにしっかりとした建築基準もございませんから、地震等があればたちまち倒壊し、犠牲者が出るといったことになります。また、多くの貧しい人たちが、流入してまいりますが、そういった人々に対する社会保障といった、ソーシャルネットワークが不十分でございます。災害が一旦発生すると、困窮している人々がさらに困窮するという状態になります。そこで、これをどうしたら自然災害が発生しても、大きな災害にならないようにするか、それが自然災害の危険リスク管理、すなわち防災であると考えております。特に重要なのが、こういったような危険にさらされている人たちから、その脆弱な度合いを下げてあげること。これが事前の防災、事前の危険リスク管理であるというふうに考えているところでございます。
 それでは、そういったような事前の防災に対して、我々、世界各国が十分に資金を回してきたでしょうか。ここにお示ししましたのは、いわゆる政府開発援助、ODAの状況に限ったものでございますが、これまで30年間の統計ですが、世界の災害の支援に使われたのは全体のODAの2パーセント程度。さらにその内訳でございますが、そのほとんどが災害が起こってから、大きな被害が出てしまってから、それを緊急対応に回す。あるいは、復興、復旧に回すということでございます。
 災害復旧のために、途上国には大きな支援がまいります。民間からも、あるいは個々の方々、さらに政府間のODAという形で、貧しい国が大きな被害にあった時は、早速、国際社会は支援に駆けつけますが、たとえ、そういったような支援があっても、おそらくは、具体的な推計はございませんが、こういったことで回復できる損害というのは、実際の損害の5パーセント、10パーセント。残りの90パーセントの資金というのは、何らかの形で、他の開発のために使えた資金を、そういった国では災害復旧に回さなくてはいけない。教育や医療に使えた資金を、災害の後の復旧に回さなければいけないという状態でございます。
 災害が起こる前に対応すること。それによって、いかに被害が抑えられるかということは、先程来のお話でも、しばしば出てきております。一つここで、大変印象的な例を挙げさせていただきます。
 バングラデシュ。バングラデシュは、1970年以来、40年間、似たような規模の、大規模のサイクロンが同じ地域を襲いました。1970年、30万人の方が亡くなりました。91年、引き続き14万人の方が亡くなっています。それが2003年には、わずか434名という形に抑えられました。もう一つの例です。インドのオリッサ州でございます。同じようにサイクロンが1990年に襲った時は、9843人の方が亡くなりましたが、これがつい先だっての2013年の時は、47人まで抑えることができました。この間に何をやったか。これはコミュニティーのレベルで、国も一緒になってですが、まず気象予報能力の向上に努めました。で、それをどうやって早期警戒システムという形で住民の皆さんに伝えるかということを検討しました。合わせて、避難路を作りました。そして、全国レベルでシェルターを準備したんです。これだけではないんです。それを実際に活用できるように、実際に緊急事態に人々が避難できるように、整えたわけでございます。こうした事前の準備が功を奏しまして、バングラデシュ、インドのオリッサ州では大変印象的な事例ができたわけでございます。このように大変効果的な事前の対応ということを、もっと開発の世界で進めていかなければいけない。開発の各段階で、各国が主体的に事前の取り組みに進んでいくということが重要だと考えています。
 ここで示しましたのは、私ども開発金融機関として、各国の経済発展を支援する際に、その各段階でどういったような災害リスク管理の基本的枠組みが有効かということを示したものでございます。まず、リスク評価。これもうよくご理解いただけると思うんですが、先ほど三角形で示しました3辺それぞれが、どんな現状にあるか。すなわち、自然災害の頻度が、あるいは、規模がどうなるかの予測。そして、一番重要なことは、その情報をコミュニティーが個人のレベルで徹底的に共有するということでございます。したがって、リスクの評価ということと、それをコミュニケートして、一人一人が知るということ。そして、それを基に、コミュニティーの人々が主体的な意思で災害の対応を決めていくということが求められています。
 次にリスクの軽減でございます。よくご存知のように、強靭なインフラストラクチャー、道路ですとか、鉄道ですとかを作っていくことはもちろん重要でございます。もう一つ重要なのが、非構造的な対応。例えば、都市計画、建築基準。それから先ほどいったような、退避路の建設やシェルターの建設。そういったものを含めまして、リスクの軽減策というのが大変重要になってまいります。そして、事前準備。これは、バングラデシュやインドの例でご紹介いたしましたように、早期警戒システムを災害が起こる前に事前準備して、大きな台風ですとか、サイクロンが来た時に、それに適切に対応できるように訓練をする。その訓練をする過程で重要になるのが、コミュニティーの一人一人の対応ということになるわけでございます。そして、4つ目にあげておりますのが、財政保護。財政保護と申しますのは、単に国家予算だけを申しておりません。もちろん、国家予算も重要でございますが、ここで申しておりますのは、災害が起こった後、その復旧のために資金を使うことによって、国家財政が破綻するといったようなことが起こるのを避けなければいけない。あるいは企業が個人が、破綻するという事態を避けなければいけない。そのためには、災害が起こることを予想して、事前の資金的な施策を準備しておくことが必要だということでございます。例えば、コロンビアの例。今日、お見えのチリのオレジャーナさまの同地域のコロンビアの例をよく出させていただくのですが、コロンビアの場合は、世界銀行と一緒に、事前に災害による損害の予測をシミュレーションいたしまして、緊急時の予算がどのぐらいかかるかということを弾き出しました。その上で、まず国の中に災害対策の基金というものが設立されております。その上で、さらに足りない部分は、世界銀行の間でクレジットラインというのを結びまして、その契約をしております。おそらく、後ほど、チリにおいても様々な施策をお話いただけるんじゃないかと思いますが、こういったような国のレベルの対応。それから災害保険というものが非常に重要になってまいります。今、世界で見ますと、北米地域は災害が約60パーセント、保険でカバーされております。欧州では20パーセント。アジア地域では9パーセント。しかしながら、アフリカでは1パーセント以下ということでございます。個人のレベルでも、あるいは企業のレベルでも、そして最近では非常に先端的な政府レベルの災害保険というものが開発されております。今後、そうした民間市場を活用しながら、民間保険分野の開発というのは非常に重要な課題になっていくと私どもは考えております。
 最後でございますが、災害が一旦起こったその復旧の時、復興の時、これはまさにより良いインフラを作る時、より良い防災体制を作る好機でございます。ビルド・バック・ベター、これは日本がいろいろなところで主張されて、世界的に概念として定着しておりますが、災害の時、人々が防災に対する意識を高めた時に、事前防災の最大のチャンスとして、それを推進していくということが5つ目の柱になります。以上5つの柱を私どもの開発のあらゆる段階に取り込んでいくということを考えております。
 こちらにございますのは、私ども世界銀行がそれぞれの国と一緒に開発プロジェクトを進めていく際のサイクルでございます。まず最初に国別の戦略というのを立てます。開発戦略というのをだいたい5年ごとに国ごとに立ててまいります。この戦略を基に、個々のプロジェクトが発掘され、準備され、審査されて、世界銀行の理事会で承認を受けて実行に移ります。さらにプロジェクトが進む中で、その進捗状況がモニターされまして、予想されない事態が起こっていないか。さらには期待通りの手当がなされているかどうかもモニターいたしまして、そのプロジェクトが完成したあかつきには、最終的に、その成果と今後の課題について洗い直し、次のサイクル、次の戦略を立てる際の基礎とするというサイクルでございます。今、我々が進めていることは、その際に、あらゆる開発のセクターで、インフラだけでなく、例えば教育の場、あるいは医療の場でも、災害にどう対応していくか、事前の策をその戦略の中に組み込んでいくと。そして、国だけでなく、地方政府のレベル、さらにはコミュニティー、住民、個々人のレベルにそれを浸透させるにはどうしたらいいかということを、国の開発戦略を策定する段階で検討していこうということでございます。
 本日のタイトルにさせていただきました、防災の主流化というのは、プロジェクト・サイクルの初期の段階から、そして完成段階まで、防災の考えを徹底的に浸透させることでございます。
 それでは、最後に、日本と世界銀行との協力関係ということを簡単に触れさせていただきます。実は私ども、2012年に、IMF世銀総会というのを東京で開かせていただきました。日本が加盟して60周年だったわけでございます。冒頭で申し上げませんでしたが、世界銀行というのは、実は日本が1952年に参加して、53年以降、31のプロジェクトを日本の戦後復興、さらには成長のために支援しております。例えば、東海道新幹線。あるいは東名名神の高速道路、それから黒四ダムといったような、国の基幹なるプロジェクトを支援し、その後日本は急速に経済成長し、今や世界銀行におけるアメリカに次ぐ第2のドナーとなっていただいているわけです。その日本が非常に力を入れられているのが、この防災の主流化を世界銀行で定着させるということでございます。日本の強い支援により、おかげさまで2013年には1億ドルを上限とする、日本世界防災共同プログラムというのが立ち上がりまして、2014年、先ほど司会の方にもご紹介いただきましたが、世界銀行の東京事務所の中に、東京防災ハブができております。東京防災ハブは世界銀行の各分野と直接連携しながら、日本の官庁、大学、民間、CSO、様々なステークホルダーの皆様と交流して、その知見を例えば、チリの知見と一緒になって、途上国に対して伝達するという仕事をしております。
 具体的には2つのプログラムがございまして、1つは1億ドルの基金を元にいたしまして、各国に対して、途上国が防災の主流化をする上で、特に事前の防災策に力を入れて、技術支援を行うことでございます。もう一つは、日本にあります様々な経験や知識を、先ほど申しましたように、他の国々のグローバルな知見と合わせながら、世界の防災に役立てるということでございます。すでに2年間の活動でございますが、25のプロジェクト、国の数にしたら42カ国に技術支援を承認しております。額でおよそ5600億ドルほどになっております。さらに日本の知見を世界と共有するという、知見共有プログラムでは、ここにございますようなインフラ分野、強靭な都市、科学技術、さらには社会的なレベルでどんな人も取り残さないという考え方で、こういったような知見を今、取りまとめ、あるものは完成し、あるものは現在進んでいるところでございます。
 最近の事例を2つほど、挙げさせていただきます。9月に、中央アジア3か国、アルメニア、タジギスタン、キリギスタンのちょうどオレジャーナさんのカウンターパートに当たる事務方の責任者たちがお見えになりました。たまたま、9月1日、さいたま市で9都県市の大きな防災訓練があって、それを視察したところでございますが、来た各国の皆さんが、中央アジアの皆さんが、それに深く感動いたしまして、早速、帰ってですね、この3カ国では国を挙げての防災訓練を実施するための政令が準備されているというふうに伝わっております。もう一つは、学校の耐震化の例です。日本が積極的に進め、耐震化率は、今ほぼ100パーセントになったとお聞きしてますが、どのように短期間で日本の学校の耐震化を進めたかということについてまとめました。合わせて、ペルーでは実際に学校の耐震化を進めたところでございます。
 最後でございますが、このように世界津波の日というのができて、今後、私どもは国のレベル、地方のレベル、コミュニティーのレベル、そして個人のレベルでも、事前にどういったことを対応していったらいいのか、あるいは事前にどういう準備をするのか、考えていく良き機会になると思います。これが世界の記念日となったことで、世界中でこういった形で知識を共有することということは、今後の防災の主流化にとって、大きな機会になると考えておるところでございます。本日はこのような機会にお呼びいただき、私どもの活動を紹介させていただくことがでまして、改めて感謝申し上げる次第でございます。どうもありがとうございました。

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■ 基調講演②
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ビクトル・オレジャーナ氏
ビクトル・オレジャーナ氏
「チリと日本の防災協力の重要性」
ビクトル・オレジャーナ氏
[チリ共和国内務省国家緊急対策室(ONEMI)次官]
【プロフィール】
チリ公共事業省の地方事務所長、本省の公共事業近代化・強化プログラム及び、2010年2月末チリ・マウレ地震・津波を機に、復興プログラムを担う。2011年3月に阪神淡路大震災の経験を学ぶためにJICAの研修に参加。マウレ地震・津波後の日本からの復興支援ではJICAの現地コンサルタントとして日本で得た知見を活かし、2012年から地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム「津波に強い地域づくり技術の向上に関する研究」の現地技術コーディネーターとして貢献。2014年4月より現職。
司会
それでは、続きまして、ビクトル・オレジャーナ チリ共和国内務省国家緊急対策室次官より、「チリと日本の防災協力の重要性」と題してご講演いただきます。国際協力機構、JICAは発展途上国を対象に技術協力や資金援助などを行っている日本の政府開発援助実施機関です。現在チリにおいては、チリを中南米域内の防災専門家を育成する拠点とするべく協力を行っておりまして、その一環で、オレジャーナ次官を含め19名の中南米の防災専門家を招聘し、日本・チリ合同津波避難訓練の視察や日本の防災経験を伝達することを予定しています。それでは、ビクトル・オレジャーナ次官、どうぞよろしくお願いいたします。

オレジャーナ氏
皆さまこんにちは。私は今、ご紹介にあずかりましたように、チリの国家緊急対策室次官のビクトル・オレジャーナでございます。まず初めに、チリの国といたしまして、また国民といたしまして、私に対しまして津波に対する対策の進展につき、賞をいただいたことを感謝申し上げます。
 これだけ達成するには、もちろん多大な努力も払いましたし、またコストも非常に高いものでありました。これまでに人命も多く失われております。しかしながら私はこれまで、いろいろと努力してきたことでありますけれども、今後もまた、より強靭な社会を作るために努力を続けていきたいと思っております。
 チリという国でありますけれども、歴史的に見ても非常に多くの自然災害にさらされている国であります。もう今日では、世界が参考にする対象国ともなっておりますし、また日本のようにやはり自然災害に多く見舞われる国との共同研究を行えるような国になっております。
 今ご覧になっている写真ですけれども、これまでチリが被ってまいりました自然災害のいくつかを表したものですけれども、1906年のバルパライソ地震、あるいは1960年の地震、そしてまた2010年の地震のあり様であります。しかしながら、ここ2、3年、私どもが被っている自然災害は人為的なものによるものが増えております。で、例えば2014年ですけれども、こうした火災によりまして、2000軒以上の住宅が失われました。それから、2015年にはチリの南の方で2つの火山が爆発いたしました。それから2014年と2015年には、8度を超える大地震が起こりました。
 今日、私は次官を務めています、ONEMIといたしましては、市民のコミュニティー、脆弱なコミュニティーを強靭なコミュニティーに変えるべく、いろいろと努力を払っております。特に教育ですね。防災に関する教育に力を入れております。これは私どもチリ国内全域にわたって、例えば教育上のキャンペーンを行ったり、研修を行ったり、あるいは市民一人一人のレベルにこうした情報を流して知らせるということをやっております。そして、近年、私どもの緊急対策室といたしましては、技術面、それから運用力を高めております。私ども、例えば早期警報であるとか、あるいはテレコミュニケーション、あるいはロジ面において、より大きなより多くの、そしてより進んだツールを入手しております。
 それから、我が国は、様々な災害に直面しているわけでありますけれども、そうしたいろいろな分野を担当しております省庁との調整役も務めております。その個々の機関もいろいろ進歩を遂げておりますし、今こうした省庁が一丸となりまして、チリの国民を守護する、守るシステムを構築しております。
 そうした中で、世界のいろいろな機関と絆を高め、そして協力していくということの重要性が増しております。それは主に経験とか知見を共有するということが重要であります。
 この自然災害という分野におきましては、チリと日本はいろいろと共通点があります。例えば、両国とも地震やそれから津波が頻繁に起こる国であります。これは左が2010年ですけれども、チリで地震が起き、その影響で津波が日本まで到達したことを表している図であります。それから2011年ですけれども、日本の東日本大震災が原因となりまして、チリに津波がきました。そういうことで、二つの大きな最近起きた大きな地震を通じて、逆に日本とチリが結びついているということが明らかになっております。
 で、日本、特にJICAのご協力は、私どもの国の防災力を上げる意味で非常に大きな貢献をしてくださっておられます。JICAのご協力を得て、例えば早期警報システムであるとか、市民に対する教育であるとか、あるいは地震や津波の報知、そうしたものに関しまして、非常に大きな進展を得ることができました。
 中で、私が特に強調したいのが、チリに対して実施されたSATREPSプロジェクト(地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム)であります。これは津波に関わる技術を向上させるというものでありまして、2012年、そして2016年から実施されております。こうしたことで、市民の認知度が高まりました。そのおかげで、2014年のイキケの大地震の時には、非常に市民の行動にうまく繋がったのであります。
 もう一つ、触れたいのが、KIZUNAプロジェクトであります。これは日本とラテンアメリカおよびカリブ海諸国が知見と経験を共有するためのものであります。このKIZUNAプロジェクトに基づきまして、チリにおいて今後5年間で2000人の人材育成を施すことになっております。
 それから、緊急事態の気持ちを健全に保つためのモデルにおいても、協力は非常に重要な役割を果たしております。今の現在、日本と協力いたしまして、日本の心のケアを、チリのモデルにうまく変換するべく作業をしているところであります。
 また、私どもの国は2015年から2030年までの災害リスクを減らすための仙台の枠組みの中でも活動をしております。この枠組みの中で行う作業というのは、実際にリスクを知ること、そしてまたそのリスクを回避するために投資をすることであります。
 その意味で、日本政府は常に私ども、ONEMIに対しましてご協力をくださり、またコミットメントしてくださっているので感謝しております。
 日本のご協力のおかげで、私どもは市民に対しまして、過去の自然災害についての知識を分かち合い、そして、それを広く進めております。過去の教訓から学ぶことによりまして、それを市民が知り、そしてより安全で、よりしっかりした知識の行き渡ったチリにする、そういうことで国全体を向上させていく努力をしているところであります。
 それから、最後になりますけれども、私どもの将来のプロジェクトについて触れさせていただきます。チリ国内に、防災知見を収集・発信するためのセンターを作ります。特に若い世代を中心にいたしまして、その自然災害のリスクを認識してもらう活動をしていきます。私どもは、日本のご支援を持って、このセンターのプロジェクトが実現することを期待しておりますし、また、これが実現いたしましたら、チリだけでなく、ラテンアメリカの青年や子どもたちに知識を伝えていきたいと思っております。
 チリと日本は、津波という過去の経験を共有しております。そして、私どもはこの経験を「世界津波の日」を機しまして、一層強く共有しております。その意味で、細島港、それからバルパライソ市、共同で訓練をすることになりました。これは11月3日にバルパライソの方で行われた避難訓練であります。で、この訓練においては、10万人以上の人々が津波の危険が一番大きいところから避難することを学びました。武田良太衆議院議員にもおいでいただきまして、市長とそれから私どもの防災のトップも参加いたしました。翌日、細島におきまして、小学校の子どもたちを中心に避難訓練を行いました。これは、私、この訓練の時に、実際に現場にいさせていただきまして、救助の様子であるとか、あるいは建物が崩壊した後の、処置の様子などを拝見いたしました。それから、人道的支援をより一層しやすくするためのロジについても、訓練が行われました。私ども、この日本での訓練を実際に見させていただけたこと、大変感謝しております。
 で、最後にメッセージを皆さまにお伝えしたいと思います。歴史的なこれまでのいろいろな経験を知り、そして、分かち合っているコミュニティーというのはよりよく能力を開発することによって、将来の自然災害により自信を持って備えることができるということを申し上げます。これは将来の自然災害を逃れることができるであろう人たちの写真であります。どうもありがとうございました。

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■ 基調講演③
講演資料はこちら
藤井  聡氏
藤井  聡氏
「巨大津波と国土強靱化」
藤井  聡氏
[内閣官房参与・京都大学大学院教授]
【プロフィール】
京都大学卒業後、同大学助教授等を経て現職。京都大学大学院・工学研究科・都市社会工学専攻教授、同大学レジリエンス実践ユニット長、現安倍内閣内閣官房参与(防災減災ニューディール担当)。専門は公共政策論。著書は「列島強靱化論」「巨大地震Xデー」・「大衆社会の処方箋」等多数。
司会
それでは、最後に、藤井聡内閣官房参与・京都大学大学院教授より「巨大津波と国土強靭化」と題してご講演いただきます。それでは藤井参与どうぞよろしくお願いいたします。

藤井氏
改めてまして、ご紹介どうもありがとうございます。内閣官房参与で、仕事の方が防災減災ニューディール担当のお仕事をさせていただいております。普段は京都大学の方で教鞭をとりながら、週のうち2〜3日、内閣官房の、官邸の方にまいりまして、主にこの津波防災も含めまして、政府のお仕事をお手伝いさせていただいているものでございます。内閣官房の国土強靭化推進室の皆さまとはいつも、この国土強靭化行政につきまして、自民党の二階先生からいろいろとご指導いただきながら、お仕事を進めているところでございますけれども、本日は多数お集まりくださいまして、誠にありがとうございます。内閣官房でお仕事をしている立場を含めまして、改めて御礼を申し上げたいと思います。
 本日、「巨大津波と国土強靭化」という簡単なA4の1枚の資料をご用意してございます。今日は「津波の日」ということで、二階先生のご尽力、思いで、和歌山の、一つの小さな物語が、国連で認められ、今、世界で津波の日として、世界中の人々が津波を思い出す重要な物語となっているところでございますけれども、今日はすでに平野さんから素晴らしい語り部のお話をお伺いし、それから二階先生からもお話をいただき、そして仁坂さんからもその後の後日談も、濱口梧陵の後日談も含めてお話いただいているところでございますけれども、改めまして、今日は津波の日ということでございますので、濱口梧陵の物語がどういうことだったのかということを、簡単にまとめさせていただいてございます。
 前半は、平野さんからお話があった、「稲むらの火」の物語でございます。「村人たちが、何もしなければ、おそらくほぼ全員命を落としていたであろう」、それにいち早く気づいた、中国の言い方をすると聖人君子とでもいうんでしょうか、本当に徳高き一人の人物が、人徳者が、これは救わねばならぬということで、自らの私財を全てなげうって、もったいないと思いながら、でも命に変えるものはないんだという思いで、全部燃やすことで村人全員を救ったというお話。それが、前半のお話でございます。
 後半の方がこれは、仁坂知事の方からもお話がございましたけれども、実は稲むらの火の物語は、村人を救ったというところで決してジ・エンドのお話ではないんですね。想像してみてください。あの3・11の直後の映像も、我々はみな覚えているところかと思いますけれども、仮に全員生き残ったとしても、今まで自分たちが住んでいた家も、それから生業にしていた田んぼとか畑とか、それからいろんな職場とか工場とかも、そういった自分たちが暮らすための産業の道具もみんな、流されてしまって何もない、したがって、そこで命からがら生き残ったとしても、そこから生きていくためのご飯を稼ぐものが何もない状況になる、と。で、その事実にこの濱口梧陵は当然ながら瞬時に思いが至ります。で、その時に濱口梧陵は何を考えたかというと、まず自分のことはさておき、これは日本語では「滅私奉公」と言いますけれども、私を捨てて、公に尽くす、公に奉るこれが「滅私奉公」ですけれども、今の日本人はどこまでこの滅私奉公のスピリッツを残しているのか、自分自身の我が身を振り返りながら、はなはだ疑問のように思うんですけれども、当時の立派な江戸時代の方々というのは、立派な方は、ほぼ全員といってもいいと思いますが、ほぼ、全員が滅私奉公の思いを持って、したがって、自分のことはさておいて、この村をなんとかしなければならない、で、その時に、このままこの惨状を、津波でボロボロになった村を見ながら、このままやったら、この村は本当にさびれてしまうと。実際、この1日たち、2日たちすると、絶望に苛まれた村人たちが、一人また二人と、ここから絶望に苛まれて村を離れようとしている。このままではいかん。濱口梧陵はお金持ちであるだけでなくて、財を成すほど、非常に高い知性を持った方ですから、世の中の構造のことも瞬時に見てとることができる。
 そこで、この村を救うためにどうしたらいいのか。一番大事なのは、その日のおにぎりではありますけれども、実はもっと大事なのは、毎日毎日働く仕事であります。この仕事がなければ人間は生きていけない。一人一人が生きていく上で仕事が必要である。これが一つ。もう一つは、この村が死んでしまうということを避けるために何が必要か。この村自身に活力を取り戻して、仕事でここで持続的に、産業が復活する。これがなければどれだけ命が助かって、例えばおにぎりを1年限定で配られても、1年1日目からおにぎりがなかったら、その村は滅びるしかない。したがって、きちんとおにぎりを配るだけじゃなくて、仕事があるという状況をずっと続けていかなあかん。その時に、濱口梧陵はこの小さな力しかない私ごときに何ができるのかということを考えたんだと思います。その時に、彼が考えたのはまずは、仕事を作ること、まずは、この村の人々に仕事を作ることだと考えた。そして、この村において、一番大事な仕事は何かというと、みんながこの村というものが、もう二度と津波が来ても滅びることがないという希望を持つことだと考えたんだと思います。そして、この希望をもたらすのはなんなのかと、そこで考えたのが堤防を作ることだと。みんなの心の中に、今の言葉でいうとトラウマというのがあって、もうどうせ復活しても、津波が来たらこの村はどうせあかんようになるんちゃうかと。そう思うと、この村におってもしょうがないという、心が折れそうになっているところがあった。その時に、希望を与えるためには堤防を作る、これを考え、そして堤防を作る時に私財をなげうって、今でいうとニューディール政策、大きな公共の事業、実はこれは公共の事業ではなくて私的事業でありますけれども、私的な事業でお金大枚を全部はたいて、みんなのための、政府の事業ではないけれども、公共の事業というものをやった。そうすると、その時、村人たちを全部雇った。そうすると、お百姓さんもそれから床屋さんもうどん屋さんも、商人さんも、酒屋さんもみんなおったんでしょう、でも、みんなの力を合わせて、まずは堤防を作るという、みんなの事業をやった。そうするとどうなるかというと、濱口梧陵が持っていた私財、これが堤防を作る事業をやることによって、みんなのポケットの中に、この濱口梧陵の金が単に慈善事業で配るんじゃなくて、労働をする対価として、生業としてきちんとみんなのポケットにお金が入った。そうすると、このお金で、床屋さんは床屋の仕事を始めることができる。漁師さんやったら、漁師の船を買うことができる。そうやって、産業の基礎的なものを買うことができた。すなわち今でいうところの、ニューディール政策というものを、プライベートな一私人がやることを通して、みんなに所得を提供することを通して、みんなに所得が回ると、そうしたらあとは濱口梧陵が何もしなくても、ぐるぐると回っていくことになる。そして、この村で永遠に生きていくことができるという希望はその堤防を見ることで、毎日毎日見ることができる。
 ほんまに濱口梧陵っちゅう人は、頭がいい人ですね。頭がええだけやなくて、心も本当に綺麗で、そして、人の気持ちのようわかる人。これは本当に昔の日本人ちゅうのは偉いなと、ほんまにこういう人間に僕もならんと。もう48でこんなんいうとったらダメですけど。こういう人間にならなあかんなと、この物語を聞くたびに思います。だからこそ、僕のような思いを思った日本人が昔もいたからこそ、教科書の中でずっと、これは昭和12年に子どもたちに教えた。そして、この物語に心が震えたのはラフカディオ・ハーン、ヨーロッパの人間、ドイツ系ですかね、ヨーロッパの人間が心に震えて、そしてこの物語をヨーロッパに伝えようとした。これが「津波の日」の一番最初の出発の物語ということができると思います。
 さて、これは何を教訓としているのかということでありますけれども、一つは今申し上げた、一番大事なのはリーダーの心構えとしては、一体どういうものが必要なのかと。私財をなげうつ、そして徹底的に頭がよくなければいけない。そして、民をとにかく慮らなければならない。今いる目の前で苦労している人だけじゃなくて、10年後、50年後、100年後のその村の人々のこともずっと考えると、ものすごい精神力に基づく、ものすごいイマジネーション。そして、そのイマジネーションと知性と財力と全て持った上での公徳心。これこそが政治家、あるいはリーダーと呼ばれる人間が持たねばならぬものなのだ。ということを、この物語は全体を通して伝えていると、これが1つ目でございます。
 二つ目は、とにかく物を燃やしていった。稲むらを燃やしていった。そして、自分の私財を全部なげうった。これは何を言ってるかというと、人間っていうのは、当たり前ですけれども、金より尊いんだと。お金なんちゅうのは、天下の回りもんで、私財があろうがなくなろうが、どうせ死んだら墓場まで持ってけない。とにかく、人間が生きることが大事なんだという、この当たり前の思いというのが2つ目にある。
 そして、3つ目は、まず濱口梧陵が何を考えたのか、さっと高台から見た時に、あ、この村人、このままやったらみんな死ぬという、最悪の事態を瞬時に心の中にその思いが伝わった。そして、救った後でも、このままやったら、この村ボロボロになって、我が郷里というものは、数十年後だったら、ぺんぺん草も生えないようなどうしようもないような状況になる。ということで、濱口梧陵は心の中に、まずとにかく確率論とかリスク論とか、リスク計算とか置いておいて、最悪はなんなのかということを、徹底的に物語的に理解するイマジネーション。これが一番大事だと。これが3番目の教訓。
 そして、4番目。これは当然、逃げることが大事なんだと。先ほど、チリの方もご説明されたように、逃げるというのがどれだけ大事かと。
 5つ目は堤防というハードから、そして逃すというソフトまで、全部が津波というものに対して打ち勝つためには、全存在をかけて、全ての能力を使って戦わなければならないんだという意味で、ハードもソフトも大事なんだということが5つ目。
 で、6つ目は先ほど申し上げたように、単に堤防を作ったり逃がしたりしたらいいというものちがう。そこで、ボロボロになった村を復活させるためには、経済政策が必要だという点。これはアベノミクスの原型そのものだと思います。僕はアベノミクスというものは、いろんな人がいろんな起源を言いますが、僕はあの3・11こそがアベノミクスの原点だと思います。これだけボロボロになった日本というものを立て直すためには、巨大なニューディールをやらなければいけない。これこそが、この濱口梧陵の精神こそがアベノミクスの本質的な中心にあるものだと僕は思いますし、むしろそうあらねばならぬと思ってますし、自民党の中でも二階先生を中心にしていつも、その議論をされていると思います。それが、6つ目の教訓。
 7つ目は先ほど申し上げましたように、ソフトも大事なんだけど、やっぱりハード。逃げることができたとしても、堤防がなかったら全部壊れているんです。そしたら、何もしなかったら、人は何にも生きていくことができない。でも、堤防は人を救うだけじゃなくて、自分たちの家、工場、船、港、産業施設そのものを全部救うんです。したがって、3・11の堤防を超えた津波がたくさんあったから、堤防を作ってもしょうがないじゃないか、逃げたらええやないかという論調が一部の新聞なんかで報道されましたけれども、やっぱり濱口梧陵の高き公徳心の精神の中には、逃すだけやなくて、やっぱりハードというものも大事なんだということがある。こういう点すら、この「稲むらの火」の物語の中には暗示されているんだというふうに思います。
 この1枚でだいたい、時間全部使い切ってしもうた気がしますけれども、一応、次に、何があったのかというと、これが実は今、政府がやっている、国土強靭化の原型になっているということをお話ししたいと思います。
 今、7つのポイントがあると、教訓があると申し上げましたけれども、今、政府が進めている国土強靭化という取り組みそのものは、1番目の教訓に基づいています。つまり、稲むらの日は政府というものが取り組まないといけないものの原型を全て示していますが、これを全部やらなあかんという意味で、国土強靭化基本計画ができ、基本法ができ、基本計画ができ、今、進めているということが1つ目。
 2つ目は、人の命は金よりも尊いということは、実は、今、国土強靭化基本計画というものが作られているんですけど、この基本計画は国土計画とか防災計画とか、エネルギー計画とか農業計画とかの、全ての計画の上位計画に位置付けられる計画であります。これはどういうことかと言いますと、エネルギーがあっても、食料があっても、産業が活性化してても、死んだら意味ないやないかということですから、生き残るための計画というのが何よりも上位にあるんだということです。そして、その上位の計画に基づき、全ての計画が改定されるという仕組みになっていて、日々、強靭化推進室の皆さま方がこの辺りで、ご苦労いただいているところでございます。これが2つ目。
 で、3つ目は、最悪の事態のイメージというところで、まず国土強靭基本計画というものは、とにかく、今、最悪の事態として何が起こるのかということを、決して恐れずに、過不足なく、正しく恐れましょうと。そして、最悪の事態を想定するという上で、そしてこれが起こらないためにどうしたらいいのかということで作りましょうというふうに、二階先生を中心に作っていただいた国土強靭化基本法の中にそういうふうにやりなさいということが書かれております。したがって、最悪の事態を想定し、それに対応する対応をしようというのが3番目でございます。
 4、5、7のところは、ソフト、それからハード全部をやりましょうということが、この「稲むらの火」で言われているわけでありますけど、その具体的な政策というものは、ハードとソフトの融合で進められています。
 ちなみに、皆さまの本日、配られた「防災まちづくり、国づくりを考える」という一つ、パンフレットがございますけれども、こちらのパンフレットは小学校、中学校を中心として、日本中の学生さん、生徒さんたち、これ300万部近くですかね、それぐらいの要望を頂いた。これリクエストがあったところに配るということで、作ったものなんですが、最初は10万部でも配れたら大ヒット作やなと思ってたんですけど、これもうなんと300万部近くものリクエストがあって、全児童たちにリクエストがあったところに配ったところでありますけれども、これも一つの国土強靭化であります。堤防を作るというところから、こういったものも、これは教育学の先生なんかと作ったものでありますけれども、こういったものを配るというものもやっております。
 そして、4番目、1番最後のところがニューディールであります。徹底的な防災、減災、ニューディールによる東北復興、日本復興というものが大事なのだと。先ほど、世銀の方からもプレゼンテーションいただいたところですけれども、一旦、受けてしまった後には、しっかりと財政予算をつけて、もう一度、その街を蘇らせる、国を蘇らせるという対策が必要なんだということで、今、国土強靭化を進めているところでございます。
 以上、少々時間が伸びてしまって恐縮でございますけれども、「稲むらの火」の物語に基づいて、まさに国土強靭化を政府、与党の皆さま、国会の皆さまと議論をしながら進めているところのご紹介でございました。どうもありがとうございます。

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■ 鼎談 塚越 保祐氏[世界銀行駐日特別代表]
ビクトル・オレジャーナ氏[チリ共和国内務省国家緊急対策室(ONEMI)次官]
藤井  聡氏[内閣官房参与・京都大学大学院教授]

藤井氏
 みなさん、どうも、改めてましてこんにちは。司会を仰せつかってございます、藤井聡でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
 本当に今日は、お忙しい中、お集まりくださいまして、ありがとうございます。
「世界津波の日」。これはまさに日本だけでなく、世界の津波の日のフォーラムを本日、日本で開催できることは本当にありがたいことだと思います。本日、世界銀行の塚越さん、それからチリのオレジャーナさんにもお越しくださって、日本とチリとの、津波を通した切っても切れない関係というものを踏まえた、これからコラボレーション、協調の仕方についてお話をいただきました。さらに、世界津波の日にふさわしく、世界中の防災力を高めるために、塚越さんからですね、世界銀行のお取り組み、これは今、最初は我々日本も、世界銀行にお世話になって、いろいろなインフラを作っていたんですけれども、今は、アメリカに次ぐ、第二の支援国家だというご紹介もいただきましたけれども、そういった中で世界銀行を支援しながら、そして世界中の防災を進めようとしている中で、ご尽力いただいている塚越さんにお越しいただきまして、いろんなお話をお伺いし、津波についての理解をさらに深めることができたんじゃないかなというふうに思います。
 で、ここからはですね、私からお二人に質問を投げかける形で、さらに理解の方を深めていければというふうに思ってございます。すでに参加者の皆さま方からは、この塚越さんならびにオレジャーナさんに、ぜひこういうところを聞きたいというところを、私の方で僭越ながら賜ってまいりますので、私からご質問をする格好で、お答えいただければと思っております。どうぞ、よろしくお願いいたします。

 それでは、まず、オレジャーナ次官にお伺いしたいなと思うんですけれども、これはすでに、参加者の方からご質問をいただいたんですけれども、もうすでに、いろいろと今、チリでの取り組み、それから日本との協同についてのお話をいただきましたけれども、やはり一般の方からは住民としてどうしたらいいのかというご関心ということで、次のような質問をいただいています。「チリの津波防災において、住民にはどのようなことを求めているのでしょうか。住民への要望や心がけてもらいたいこと、担ってほしい役割などありましたら、ぜひお聞かせください」。こういう質問でございます。じゃあ、ぜひ、オレジャーナさん。よろしいでしょうか。

オレジャーナ氏
 ご質問ありがとうございます。先ほども申し上げましたけれども、私どもの国として、また私どもONEMIといたしまして、一番大事にしているのは、市民の強靭さを高めることであります。具体的には、例えば何か災害があった時に、最初のショックに耐える力を持つということであります。そして、続いて、その自分を自分で律することができるようにするということ。そして、最後に教訓を得て、将来の災害に備えることができる能力を身につけることであります。で、人々がそうした能力を持つことによって、それがベースになって、その後のいろいろな災害対応のシステムを活用することができます。ということで、一般市民には、自分の役割をよく知って、それから自分の国がより強靭性を持つために、自分が何をなすべきかということを認識してもらうことが大事だと思っております。何か災害が起きた時に、一般市民というのは、単なる被害者・被災者だけではなくて、プレイヤーとなって、その災害直後のいろいろな対応をしていかなければならないのです。私たちはそういう意味で住民と合意に達しております。つまり私たちは一般市民にいろいろなツールを与えております。そのツールを使って、彼らは災害が起きた場合に、正しく反応し、そして自分自身を助けるだけでなく、自助だけでなく、他の人も助けることができます。そういうことが功を奏して、私ども最近、大きな災害に遭いましたけれども、被害を最小限にとどめることができました。ありがとうございます。

藤井氏
 どうもありがとうございます。皆さん、ご理解いただけましたでしょうか。やはり一人一人がやるべきところを。自助というのはもう当たり前だと。自分で、自分の命を守る。これは当たり前なんだけど、市民として、社会を構成する、一人一人の人間が社会を構成しているわけですから、市民として、防災のために何をすべきなのか、ということも考える、そういう主体性が必要だというお話だったと思います。いわば、一人一人が濱口梧陵のようなレベルに達することができないかもしれないけれども、一人一人、濱口梧陵のようなそういう心持ちを多かれ少なかれ、持つことが大事だというようなお話だったんじゃないかなというふうに感じました。本当に、オレジャーナさん、ありがとうございました。

 では、続きまして、塚越さんにお伺いしたいんですけれども、やっぱり、これからですね、強靭な国を津波に対して強靭な国を作っていく。それぞれの国でやっていくということを考える時に、今、オレジャーナさんがお話になった、市民としてどうすべきかという、そういう論点も大切ですけれども、地方政府というものがどういう役割を担うのかというのは非常に大きなポイントになろうかと思います。とりわけ、先ほどのお話の中でもありました、防災の主流化、そういうものを実現していくにあたって、市民と中央政府だけでは達成できないと思いますけれども、地方政府の分担、あるいは期待。地方政府に何をしてもらうべきかということについても、ぜひ、いろいろとお話を聞かせていただけるとありがたいなと。特に今日、地方政府からお越しの方もおられると思いますし、そのあたりをぜひ、いろいろと教えていただけるとありがたいなと思いますが、いかがでしょうか。

塚越氏
 本日、大変貴重な機会を私どもにいただきまして、誠にありがとうございます。今、ご質問いただきました、地方政府との関係なんですが、実は世界銀行っていうのは、第一義的には、まず中央政府とパートナーを組んで、国家の開発戦略を作っていくということになりますので、私どもが地方政府に直接何かを要求するというよりは、その中央政府が防災戦略を作っていく時に、地方をうまく取り込んでいるかどうか。それを私どもはパートナーとなる国と一緒に見ていくということになると思います。
 そこで、一つうまくいった例を挙げますと、インドネシアでございます。2004年の、アチェの津波。それから翌年にはニアスで大きな地震があって、それ以後、インドネシアの開発戦略、これ、私どもは国ごとのパートナーシップ戦略と呼んでいますが、これに防災を中心に据えて、その防災を実施する際には、アチェでの経験からもですね、あそこは州、それから県、市、それから地方地区、さらにはですね、行政区画ではないんですけれどもコミュニティーが非常に活躍して復興を果たしたと。それをその復興をさらに進めて、防災の中でも取り入れていくということを、国の開発戦略の中に見事に、盛り込んでおります。5年ごとの戦略が、実は新しいものが16年から20年までのが、つい昨年の末にできたんですが、その前の5年間では、例えば特にリスクの高い中規模の都市を6つ選んで、それからですね、やはりリスクの高い4つの州を選んでですね、都市開発というものを計画自体から、それからインフラの整備、さらにコミュニティー主導の開発ということで、戦略を立てております。特にやはり、先ほど、我々のプロジェクトの展開の中で、強調したんですが、リスクを評価する。リスクを見つける。どういったところに自然災害が起こるのか。どういったところが脆弱で、どういったところがリスクに晒されているのか。その段階の部分からですね、コミュニティーの方、地元政府の方を巻き込んで、一緒に判断をしていく。それによって、その情報を共有して、戦略を立てていくと。やはり、最初から一緒に、共同して、情報の共有をするということは非常に重要になっています。
 逆にうまくいっていない例、これは一般論として述べさせていただきますが、そうしてできた国家戦略が、中央政府が地方政府に権限をいろいろと移譲すると。その中で、財源負担を十分考えていない場合があるんですね。途上国の最大の問題は何かといったら、中央政府もそうなんですが、地方政府が、税制ですとか、財源対策がうまくいっていないと。これは何も災害だけの問題だけじゃなくて、災害以外のところでも開発上の問題になっているということは、災害があった時は、最大限にその弱点が出てくると。したがって、我々が国家戦略を一緒に作る時は、財源をどうするんだと。きちっと災害対策を作っても、それをできるだけの財源を地方政府、あるいはコミュニティーに移譲しているかどうかというのはチェックのポイントとなると思います。
 加えてですね、財源だけじゃなくて、それを担うだけの人材がいるか。濱口梧陵のお話は大変印象的で、私も感銘を受けたんですが、やはり非常にインテリで、全体像が見渡せて、これは先生のお言葉ですが、それでしかも心が高潔で、こういう方があちこちいるのは、なかなか、期待するのは難しいわけで、むしろそれを制度化しなければいけないと。そのためには、能力を一般の人も高めていかなければいけないわけですが、そこの部分というのが、これも一般論ですが、医療の分野でも、教育の分野でも、あるいは一般の行政の分野でも、非常に途上国では難しくなっています。そこで、世界銀行の場合は、先ほど、あらゆる分野で主流化すると言ったんですが、地方政府の行政能力も含めて、行政能力の向上ですとか、あるいは法制度の整備とか、そういったものに、実は資金全体の20パーセント以上を費やして、組み立てていくということをやっております。以上、とりあえず。

藤井氏
 はい。どうもありがとうございました。ご質問、いただいた方、ご理解いただけましたでしょうか。非常に、私も、政府の強靭化の行政のお手伝いをする上で、貴重なご意見を伺ったなというふうに思います。やはり、地方政府、あるいはコミュニティーと、こう表現いただけましたですけれども、ステイトとしての地方政府もあれば、それからソーシャルコミュニティーとしての、共同体としてのコミュニティーと、どちらの意味も含まれると思いますけれども、そういった方をしっかりとインボルブしながら、強靭化を取り組むのが必須であるという、これが第一のポイントであったかなと思います。その上で、やはりそれぞれの国の中で、最強の存在はやはりなんだかんだいっても、ステイト、ガバメント、中央政府でありますから、中央政府がしっかり、その国の家長として、責任を持って、財源とそれから権限、人材、そういったものをしっかりと保証していってあげるということが、地域の強靭化においては何よりも必要なんだと。やはり、世界銀行のファイナンシングのお立場で、防災を見て来られた視点からの貴重なご意見というふうに賜りました。どうもありがとうございました。
 じゃあ、オレジャーナさんに、また、お伺いしたいと思うんですけれども、先ほど、プレゼンテーションの中で、細島港に行かれて、これ、昨日ですかね、あの、訓練をご覧いただいたと思います。それの前後で、やはり日本の津波対策というものもいろいろと見られたと思いますけれども、ぜひ、今、私たちはチリではこんなことをやっているんだけれど、日本でもぜひやったらどうだろうという、そういうサジェッション、チリ独自の取り組みで、日本でも取り組んだらいいのにと思うところが、津波対策であれば、ぜひアドバイスいただけるとありがたいなと思いますが、いかがでしょうか。

オレジャーナ氏
 我が国では、津波の避難訓練、プログラムを4〜5年間もやっております。で、この訓練にこれまでで沿岸地帯に住む住民、約800万人が参加しております。この訓練ですけれども、参加した市民の数より、もっと大事なのは、彼らの能力が高まってきたということで、実際に災害が起きた時に、従来よりも犠牲者あるいは被害者を少なくすることができました。ですから、私たちが市民の方に与えたツールというのは、非常に困難な時期にも使うツールということでありまして、つまり、政府からの警告を待たずして、自分たちで危ないと判断したら、自主的に避難するようにするということであります。というのは、政府もうまく、警報を出せないかもしれない。テクノロジーもうまくいかないかもしれない。サイレンが鳴らないかもしれない。そうした中で、市民は自分で判断して、避難すべき時はサッと避難できるようにするということであります。ですから、このプログラムを長期に渡って、実施することによって、市民は自分たちの命を自分たちで守ること。そして、また、何か緊急事態が起きた時に、正しく行動することができるようにするということが非常に重要です。それから、最後に申し上げたいのは、災害というのは常に、自然だけが原因ではないということであります。やはり、危険な地域に住んでいるということは、そうした災害の時に、より被害が大きくなる可能性が秘められているということを十分認識して、そうした条件の元に行動することを学ぶべきです。ということで、私たちは、人々がよりうまく反応できるように、いろいろと訓練をしておりますので、その脆弱な人々が減少していくことにつながっております。チリで、一番脆弱なものは何かといいますと、貧困層であります。というのは、非常に危険な地域に住んでいるのに、耐震性が十分ある建物を建てられないとか、あるいは危ないと知りながら、他に移り住むことができないということであります。ですから、自分と大切な家族を守ることができるように、彼らを教育し、そしてまた、知識を与えて、広めているというのが私たちの対策であります。私たちは、自然をコントロールができないので、日本の皆さんにもぜひ、そうした脆弱な面がどういうことかということをよく認識し、そして被害をなるべく削減するようになさっていただきたいと思います。

藤井氏
 どうもありがとうございました。やはり先ほどのオレジャーナさんからの、最初のご回答とも共通するところがあると思いますけれども、やはり強靭化において、何よりも大切なのは自主性。自分の頭で判断し、自分の命は自分で守る。そして、自分の社会は自分で守る。そういった国民をどうやって作っていくのか。これに、これが一番基本なんだなということを改めて認識をいたしました。
 日本の防災はどうしても、津波が来た時の警報システム大丈夫なのかとか、壊れた時の第2次システムはどうなっているのかとか、ついつい、モノに頼ったり、お上に頼ったりしてしまうようなところがありますけれども、やはり日本でも3・11の時に、有名になった釜石の奇跡で、私の友人の片田先生がずっと子どもたちに教えていたのは、政府が公表しているハザードマップなんて、信じるな、ということ。とにかく、逃げろと。それを徹底的に教えたからこそ、あの奇跡が起こったんだというのはもう、彼とはもう20代の頃からずっと一緒に研究している仲間でありますけれども、そういう精神が、やっぱり日本の中でも大事なんだなということを改めて感じたところです。本当にオレジャーナさん、ありがとうございました。
 じゃあ、次、ぜひ塚越さんにも、今、個人のお話をお伺いしたんですけれども、やはり世界銀行で、いろんな国のことをご覧になっていて、例えば、バングラデシュでしょうか。昔はあの、レベルが最高レベルじゃないのに、何十万も亡くなるようなことがあったけれども、今となってはきちんとした対策を打てば、それがもう数千人、数百人。それでも、亡くなっておられる方がおるのは、大変残念なことではあるんですけれども、何十分の一にも被害を縮小することができるというのを、いろんなところでご覧になっていたかと思いますけれども、ぜひですね、我々日本は、南海トラフ地震という、世界的にも想像を絶するような地震に直面して、リスクに直面してますし、首都直下型地震に至っては、これは地震の大きさは普通かもしれないですけど、ターゲットになっている都市が、未曾有の大都市。ここの直下で起こるということも、これまた人類が経験したことのないようなリスクに、我々は直面しているんですけれども、ひょっとすると我々、これがきっかけでとんでもないことに日本が、数十年、場合によっては100年、200年、とんでもない傷を負うんじゃないかということも、懸念されるとこなんですけれども、これまで見られてきた過去の中で、災害がきっかけで、その国の発展が止まってしまったという事例だとか、あるいは後退してしまった。あるいはそれなりに成長していたのに、そこから成長力がダメになって凋落していったという、そんな事例もご存知じゃないかなと思うんですけれども、ぜひ、我々日本の防災の強靭化の教訓にするためにもそんな事例がもしあれば、お聞かせいただけるとありがたいなと思うんですが、いかがでしょうか。

塚越氏
 ありがとうございます。先ほど、ちょっとプレゼンテーションで述べたんですけれども、国も、それから個人も、経済生活を続ける、あるいは日々の生活を続ける上で様々なリスクに直面しています。個人のレベルでは例えば、失業ですとか、病気ですとか。我々、日本に住んでいますと、失業保険があり、それから医療保険があると。ところが、多くの途上国ではですね、そういったような個人レベルの保護というのはございません。ということは、かなり軽微のショックがあっても、その方の生活はそれで破壊されてしまう。コミュニティーレベルでも、地方レベルでも、国レベルでも、十分な備えがない途上国の場合はですね、我々にとっては乗り切れるショックが決定的な打撃になるということは事実でございます。
 一番、端的な例はですね、ハイチ。最近ですと、ハイチの地震が2010年にございました。ハイチという国はですね、それ以前からほとんどガバナンスのない国でございました。そこで襲った地震というのはですね、GDPの規模でも120パーセント。これもうほぼ壊滅的な影響が出たわけでございます。それ以外でも、十分に行政機能を持っていてもですね、島国、島嶼国、あるいはカリブ海ですとかあるいは太平洋の島嶼国は非常に経済規模も小さいものでございますから、そこに大きなハリケーンなりサイクロンが襲えばですね、これもまた壊滅的な影響が出るということになります。しかも、先ほど申しましたように、災害は単に災害の直後だけの問題ではなくて、その後の過程のですね。医療機関が十分に育っていない中でさらに整備が遅れる。それから学校がなくなるということは、長期的にいえば、子どもの教育が続けられないわけですから、将来の成長に対して、大変な打撃になっている。したがって、自然災害の損害というのは、その後の、経済生活、そして人間としての生活を維持できるように、どういうふうに対応していくかと、そういう観点でいえばですね、我々が把握しきれていないような様々な、被害がこの30年間にあったんじゃないかと。それが先ほどちょっと申しました、今後さらに大規模になっていくと。それは一つには、現在の貧困国も経済的な発展をして、社会資本や経済資本を蓄積するようになりましたし、人たちが都市に集まることによって、災害で大きな損害が出るような、リスクが高まっているわけで、そういうことを考えると、今後、どういったような災害が起こるか、事前に予測し、対応をしていくかということは非常に大切なことであるというふうに考えております。

藤井氏
 はい。どうもありがとうございます。まさにおっしゃる通りですね。国の話も個人の話も一緒で、個人の話もちょっとしたアクシデントで人生がめちゃくちゃになるといいますか、とんでもなく予想だにしないような人生の軌跡に移ってしまうということがあるように、国そのものもそうなってしまうことがある。これはしっかり理解しておく必要がありますね。例えばよく、私あの、京大の時にいつも河田先生という方がいつも講義を教えてもらっていたんですが、河田先生がよくおっしゃっていたのは、ポルトガル。これは大国だったわけですけれども、が、凋落していった重要なきっかけが、首都直下地震、首都の地震の、リスボン大地震。あれで首都が、灰燼に帰してしまって、それ以降、ポルトガルの地中海での艦隊の制海権というもののが翌日から、外国にとられ、そこから、ポルトガルの歴史的凋落が始まってしまって、今や、GDPは世界で30数番目とかそれぐらいの国になってしまったきっかけが大震災だった。まさに今、日本はGDP世界第3位ですけれども、明日は我が身の可能性もあるなという、リスクを理解する必要があると思います。
 さて、そろそろお時間の方も終わりに近づいてまいりました。最後にですね、日本での国土強靭化を少し私の方でも紹介させていただきましたが、進めておりますけれども、最後に日本の国自体のレジリエンスを高める、国土強靭化の取り組みについて、一言ずつ、1分、2分、お言葉をちょうだいできるとありがたいなと思うわけですが、まず、オレジャーナさんから、一言いただけると幸いです。

オレジャーナ氏
 やっぱりあの一つの国で政府があらゆる分野において強靭さを強靭性を高めていこうとするということは非常に重要だと思います。特に、これまで災害の歴史を積み重ねた国であればなおさらであります。そうした自分の国の特徴を知っていれば、それをそうしたリスクがあることを特定し、そしてそれを各分野において考慮していくことができると思います。ですから、私たちがその一般に強靭性ということをいうと、これは一般市民の強靭性だけでなく、もちろん、政府もそうですし、民間企業もそうですし、また科学会、学会、全部を含むと思います。で、その基礎となる一般市民が能力を持っていれば、それの上に政府が強靭性を推進していくことがやりやすくなると思います。私たちは日本のやり方を大変高く評価しておりますし、憧れておりますし、今後ともぜひ協力を続けていきたいと思っております。

藤井氏
 ありがとうございました。じゃあ、あの、塚越さんからもぜひ一言お願いいたします。

塚越氏
 本日は、藤井先生、それからオレジャーナさんからいろいろとご指摘があって、全く、私、賛同いたします。あえて最後にですね、これまでお話できなかったこと、2点だけ触れさせていただきます。一つ、津波や地震、これは多分、予防するということは不可能なんだと思います。ただ、気候変動関連の災害はやはり我々がCO2をはじめ、グリーンハウスガスを抑制をしてですね、地球の温暖化をなんとか制御する努力をすれば、災害の発生も頻度、そして規模に影響を与えることができると思います。超長期の課題ですが、今から始めなくてはならない。これが1点。それから2点目はジェンダーの話でございます。先ほど、インドのアチェでも、それからバングラデシュでも、サイクロンの被害がドラマティックに改善したというのは、予知制度や退避訓練ができたからということなんですが、その主役だったのが実は女性なんです。バングラデシュやインドっていうのは、皆さんご存知のように、なかなか女性の地位が上がらなかったんですが、こういった国ではコミュニティーのレベルで、女性がリスクの情報を共有して、結果的に回避経路の設定から、実際に退避行動をする時に、女性が主役になったんですね。これは日本でも言えることでありまして、特に女性の視点というのは災害時に子供や老人を守る、弱い人を守るにはどうしたらいいかという視点がございます。それから、災害後、どう復興するかということで、女性の非常に生活に根ざした感覚というのが重要になると思うんですね。したがいまして、ちょっと最後に、気候変動の問題と、ジェンダーの問題というのを指摘させていただきたいと思います。

藤井氏
 塚越さん、どうもありがとうございました。あっという間に最後の時間になってまいりました。時間の方も少しすぎてしまいましたが、僭越ながら一言だけ、最後取りまとめさせていただきたいと思います。
 本当にオレジャーナさん、塚越さん、本当に今日はありがとうございました。防災というものは、これは忘れた頃にやってくるというのが、よく言われるところでありますけれども、どうしても忘れてしまうんですね。そういう意味で、防災の日というのがあるんですけれども、今まで津波の日がなかった。世界中になかったんですが、この11月5日津波の日というのが、今回できたわけでありますけれども、少なくとも年に1回は、津波を思い出す。忘れた頃にやってくる。忘れてしまうんだけれども、繰り返し繰り返し、何度も思い出すために、せめて津波の日ぐらいは思い出そうじゃないかと。なぜかというと、広村が、あのままだったら、ぺんぺん草しか生えないようなことになっていたであろうように、そして、リスボンもそのままボロボロになってしまったように、ひょっとすると、津波によって僕たちの街、ひょっとすると国がとんでもなくなってしまう。それは洪水とか地震も恐ろしいけれど、津波は文字通り根こそぎ街を潰してしまいますから、防災の日に加えて、津波の日ぐらいはですね、年に1回ぐらい、濱口梧陵も含めて、津波のことを思い出して、ちゃんとこの国、自分たちの暮らし、この街を守らなあかんなということを思い出さなあかんなと、僕も思いましたし、両先生のオレジャーナさんと塚越さんの話も聞きながら思いましたし、ぜひ、皆さんもそんなことを感じていただけましたら、この最後のディスカッションも良かったかなと思います。で、これで私のお話は終わりたいと思います。本当にお二人、ありがとうございました。これで終わりたいと思います。

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