Digi田甲子園の事例を中心に、
デジタルを活用した地域の
課題解決や魅力向上の優れた
取組をご紹介します。
うすき石仏ねっと
大分県臼杵市医療・介護
デジタルを活用した取組の全体概要
- 「うすき石仏ねっと(以下「石仏ねっと」という)」とは、「うすき石仏ねっと運営協議会」がケーブルネットワークを活用し整備した行政イントラネットで各施設と閉域で接続し、病院、診療所、歯科診療所、訪問看護ステーション、調剤薬局、介護施設、居宅介護支援事業所、消防署などの参加施設の間で対象者の病気、薬、検査結果などの情報を共有するシステムである。また、子育て支援アプリともつながっているため、保護者は当該アプリを介し石仏ねっとが保有する予防接種情報と乳幼児健診結果も確認できる仕様となっている。
- 石仏ねっと加入者に交付する石仏カードは、FeliCa方式を採用しており、参加施設の読み取り機にかざすと、瞬時に本人の検査結果、服薬履歴などが時系列で表示される仕組みとなっている。石仏カードには保有者個別のIDが、参加施設(読み取り側)には施設個別のIDが割り振られており、それらが関連付けられることで、情報の確認や更新・蓄積が可能となっている。
実施に至る経緯・動機
高齢化が進み医療・介護を支える人材が不足しつつあることを危惧した臼杵市医師会が中心となり、無駄の少ない、安心・安全な医療・介護サービスにつなげることを目的に構築した。
解決する課題の具体的内容
救急隊の迅速、適切な初期対応
- 救急救命士の処置範囲が拡大されたことに伴い、迅速かつ適切な初期対応が課題であった。石仏ねっとの救急専用の画面では低血糖、出血傾向などの緊急性が高い情報は強調され、既往歴、かかりつけ医療機関などを短時間で確認できる構成となっている。このため、救急隊員は現場に到着する前に処置の準備ができ、搬送先の選定などにも役立っている。
- 血糖測定の処置をした患者に対する平均現場滞在時間については、石仏ねっと加入者(562秒)と未加入者(654秒)との間には92秒の差があった。
糖尿病の重症化予防
本市の糖尿病有病率が高いことから早期に専門医につなげ、その後の介入を行っていくことで透析等の重症化を防ぐことが必要であったが、市内に糖尿病の専門医が1人しかおらず、効率的、効果的な介入方法が課題であった。石仏ねっとの糖尿病連携手帳(複数の医療機関で受ける血液検査等の検査結果を時系列でみることができる機能)の活用で継続的な観察ができ、介入の効果を適切に確認できるようになり、また、かかりつけ医との連携体制も整い、重症化予防を図ることができた。
デジタルを活用した取組による成果
実施後5年を経て重症化を防ぐことができている傾向が顕著に現れ始めている。この取組みにより、透析患者を減らすことができれば、1人当たり年間500万円の医療費軽減効果となる。
本取組の特徴的な点やデジタルの活用において工夫した点
参加機関の協力
令和4年4月1日時点で市内の医療や介護関係の施設参加率は約97%となり、加入促進に係る参加機関の協力により、市民の約半数以上が加入している(発行枚数:23,897枚)。施設の参加率、市民の加入率の高さは他に類をみないまでに持続的に発展している。
汎用性の高さ
専門医、かかりつけ医、救急現場だけでなく、歯科医師、調剤薬局、保健指導、介護現場などにおいても活用され、地域包括ケアシステムのツールとして活用している。
働き方改革
薬剤師においては、検査結果などが患者とのコミュニケーションのきっかけとなり、患者からはよく診てもらっていると評価されている。
令和3年度に整備したWeb会議システムによってサービス担当者会議の移動に係る負担の軽減や、専門職による介助方法の指導が遠隔地からも可能となった。
安心・安全なシステム
石仏カードには保有者ID以外の情報は登録されていないため、万一紛失してもそれだけで医療情報が漏えいすることはない。
利用者の利便性
本人の検査結果、服薬履歴などが時系列で表示される仕組みであるため、正確な情報を医師等が確認でき、適切な処置・処方へつながっている。
運営費(令和4年度予算)
31,453千円(主な収入の内訳 本市の負担金:9,500千円、臼杵市医師会の負担金:9,500千円、会費収入:3,300千円
成果をあげるためのポイント
(1)石仏ねっとの危機
平成20年に画像データの閲覧ができるようになり、参加施設は20まで増えたが、その後しばらくの間は財源もないため進展がなく、停滞していた。
(2)石仏ねっとの転機
「人のために良いものをつくり、広げていきたい」という強い思いから臼杵市医師会立コスモス病院副院長と情報管理センター長が事態を打開すべく自ら関係各所を回る中で、さまざまな人たちが2人の思いに共感し、輪が広がっていった。
平成24年度に共同の勉強会が開催されるなど、臼杵市医師会と当市の連携が始まった。また、同年度に厚生労働省の「在宅医療連携拠点事業」の受託が決まり、市内の医療・介護関係者が集う機会が増え、訪問看護や調剤薬局、介護施設が石仏ねっとに参加するようになった。そして、平成27年4月には「うすき石仏ねっと運営協議会」(以下「協議会」という。)が発足し、臼杵市医師会と臼杵市が正式に合同で石仏ねっとを運営していくことになった。これ以降、歯科医院や消防署、居宅介護事業所(ケアマネジャー)の石仏ねっとへの加入が決まり、健康診断データの共有が始まるなど、石仏ねっとはその規模を順調に拡大させることができた。
<転機のポイント>
- 情熱を持ったキーパーソンがいたこと。
- 医療・介護関係者が顔を合わせる機会が増えたこと。
- 医師会と行政が連携していること。
今後DX化に取り組む自治体等へのアドバイス
石仏ねっとは、5つの医療機関内で検査結果を閲覧する実証実験から始まったが、市民の加入率や施設の参加率は他に類をみないまでに発展し、その役割は安心・安全なまちづくりまでに拡がった。
拡がったポイントは、
- 情熱を持ったキーパーソンがいたこと。
- 医療・介護関係者が顔を合わせる機会が増えたこと。
- 医師会と行政が連携していること。
- 参加施設の協力があったこと。
- 健康づくりに対する市民の意識(理解)があったこと。
- 地域包括ケアシステムのツールとしても活用していること。 などである。
- 連携団体
- うすき石仏ねっと運営協議会(臼杵市、臼杵市医師会等)
- 問い合わせ
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- 部署
- 臼杵市保険健康課医療福祉政策グループ
- 電話
- 0972-63-1111
- メールアドレス
- t-itai@city.usuki.lg.jp