Digi田甲子園の事例を中心に、
デジタルを活用した地域の
課題解決や魅力向上の優れた
取組をご紹介します。
AIを活用したオンデマンド型地域公共交通システム構築プロジェクト
長野県塩尻市交通・物流
実施年度
Digi田甲子園 2022夏
取り組み事例キーワード
配車予約、公共交通ネットワーク整備、住民利便性向上、スマホアプリ活用、アプリ相談窓口設置
実施に至る経緯・動機
- 本市では、1998年の民間路線バス撤退以降、市営コミュニティバスを委託運行しているが、人口減少の加速や利用ニーズ(便数、速達性等)との乖離により、利用者数が2008年度の約170,000人をピークに2021年度は約97,000人まで減少。さらに、30人弱の乗車定員に対して一便あたりの平均乗車人員が2人以下の「空気を運ぶ路線」もあり、移動需要と供給にミスマッチが生じていた。
- また、利用者の減少に拍車をかけるように、大型バスの運行に必要な大型第二種運転免許保有ドライバーの高齢化(平均61.8歳、最高齢73歳)が進み、長時間に及ぶ労働環境等から慢性的なドライバー不足も深刻な課題となっており、将来にわたり交通弱者等の「生活の足」を確保するため、抜本的な対策が急務となっていた。
解決する課題の具体的内容
- 利用者の「運行本数が少ない」、「自宅からバス停まで遠い」、「行きたい場所にバス停がない」といった多様化するニーズに対して、ルート及びダイヤが決まった定時定路線から、利用者の予約に応じてAIが効率的で最適なルートを生成するオンデマンドバスへの転換を目指すとともに、運行車両を従来の大型バスから普通第二種運転免許でも運転可能な車両にダウンサイジングすることにより、交通弱者の移動手段の確保とドライバーの担い手不足という課題を同時に解決するため、実証運行を2020年度から実施。
- 本市において、利用者数が極めて少ない「中心市街地循環線」がカバーする約10km²の対象エリア内において、設置根拠に基づく乗降拠点を111箇所(システム設定含む)設置し、非効率路線を抱える地方都市において新たなモビリティサービスの可能性を検証。
- オンデマンドバス導入による地域公共交通の利便性向上の結果、高齢者利用に加え、これまで地域公共交通を利用していなかった新たな利用者層を取り込み、持続可能性な地域公共交通体系の構築を目指す。
デジタルを活用した取組による成果
オンデマンドバス実証運行結果(2022年10月1日~2023年3月31日)
総乗客数 | 13,632人 |
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平均待ち時間 | 14.45分 |
平均乗車時間 | 8.25分 |
アプリ予約率 | 63.4% |
オンデマンドバス本格運行を望む割合 | 85.4% |
- これまで運行していた中心市街地エリアに新たに運行エリアを追加し、20㎢で実証運行を実施。
- 待ち時間:予約から配車まで平均14.45分と路線バス(1日4.5〜6便、2~3時間に1便)と比較しても利便性の高い移動サービスを提供。
- 乗車時間:AIによるルート生成により目的地までの所要時間を大幅に短縮。
- 予約率 :高齢者へのアプリ操作サポートにより高いアプリ予約率を実現。
- オンデマンドバス本格運行を望む割合:待ち時間の短さ等の利便性の向上により、定時定路線型のバスからオンデマンドバスへの転換を望むニーズが大多数。
本取組の特徴的な点やデジタルの活用において工夫した点
- 本プロジェクトでは、設置根拠が不明確であったバス停設置から脱却を図るため、次の3つの設置基準を設定し利用状況を確認。
- 生活に必要な医療、商業及び公共施設に設置する「施設型」
- 本市の特産となるワイナリー等に設置する「観光型」
- 人口密度データを活用し居住が集中するエリアに設置する「人口密度型」
- マーケティング施策の一環として、説明会を約1ヶ月半の間に24回開催し、主に高齢者を対象に乗車予約アプリの操作方法を手厚くサポート。
- デジタルデバイド対策として、スマートフォンの操作に不安を抱える高齢者に向けて、電話予約センターを設置するとともにアプリ相談窓口も併せて設置。
- 利用データや移動状況データから地域における人の移動実態や乗降拠点の利用状況を可視化・分析することで、データに基づく交通政策立案、地域公共交通の改善・充実化に繋げる。
成果をあげるためのポイント
- AI活用型オンデマンドバス実証運行は、比較的短い実証期間内に広く地域住民に周知することが必要であることから、マーケティング戦略として主に高齢者をターゲットに約1.5ヶ月の間に26回の地元説明会を地区の「公民館単位」で実施。
- 地元説明会の開催においては、夜間は安全面等の心理的ハードルを抱え、出席することに躊躇する高齢者もいることから、全て「日中開催」に変更。
- 日中開催に変更したことより、夜間を含め開催していた令和3年度の1回あたりの平均出席者数6.29人/回に対し、令和4年度は9.4人/回に出席者が増加したことで新規ユーザーを確保。
- 既存の路線バス利用者が多いエリアにおいて、運行車両を使用した個別の地元説明会を実施し、オンデマンドバス本格運行へのコンセンサスを得た。
デジタル化を実施するにあたり、苦労した点と対応方法
- AI活用型オンデマンドバスの予約は、電話及びアプリで予約することが可能であるが、アプリ操作に不安を抱えるユーザーも一定数いることから、地元説明会ではアプリのインストールから予約完了までの操作方法を手厚くサポート。
- 併せて、デジタルデバイド対策として、電話予約を受け付ける電話予約センターの設置に加え、アプリ相談窓口を設置し、今後も継続的なサポートを実施。
今後DX化に取り組む自治体等へのアドバイス
本市では「塩尻市デジタル・トランス フォーメーション戦略」(令和3年5月)を策定し、行政DXと地域DXの両軸により「自治体DX」を促進することとしており、AI活用型オンデマンドバスプロジェクトはこの戦略の「地域DX」の1つに位置付け、庁内横断的に取組みを進めている。
DXの促進には、デジタルとアナログを効果的に融合させた仕組みの構築が必要であり、民間企業等との共創や民間人材の活用なども積極的に取込むことが重要である。
さらに、DX化を加速するためには、高齢者をはじめとするICTツールの利用が不慣れな方に対する利用支援を併せて実施することも重要である。
- 連携団体
- 塩尻市、(一財)塩尻市振興公社
ネクスト・モビリティ(株)、三菱商事(株)、アルピコタクシー(株)
- 問い合わせ
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- 部署
- 塩尻市建設事業部都市計画課
- 電話
- 0263-52-0689
- メールアドレス
- toshi@city.shiojiri.lg.jp