Digi田甲子園の事例を中心に、
デジタルを活用した地域の
課題解決や魅力向上の優れた
取組をご紹介します。
プライベート無線ネットワークによる農業を起点とした身の丈スマートシティ
山梨県山梨市農林水産
実施年度
Digi田甲子園 2022夏
取り組み事例キーワード
スマートシティ、スマート農業、デジタルインフラ整備、事業者負担軽減、担い手確保
デジタルを活用した取組の全体概要
- 市にてLPWAを活用したプライベート無線ネットワーク基盤を構築。
- 農家が畑内に温度・湿度等をセンシングする環境センサーを設置することで、その状況をスマートフォン等により遠隔で把握することが可能。
- 畑から収集したデータをJAの「栽培教科書データ」と照らし合わせることにより、データに基づく営農が可能。
- また果樹盗難防止のため、別途、可搬式人感センサーを設置することにより、畑への侵入者を検知・プッシュ通知することが可能。
- 各センサーは太陽光により稼働するため、電源工事や配線が難しい山間地の畑等でも各種センサーを容易に設置することが可能。
- 現在は、農業を起点に当該ネットワーク基盤を防災・福祉分野にも活用。
実施に至る経緯・動機
- 山梨市は果樹農業を基幹産業とする一方、農家の高齢化等による「作業の重労化」、「労働力不足」、「技術継承の危機」等が課題となっており、スマート農業の推進による課題解決を図ることとした。
- 市の地勢上、山間地にも果樹園が広がり、スマート農業推進における電源確保等の課題があったこともあり、ソーラー給電かつ長距離通信可能で他分野への汎用性が高いLPWAネットワークの構築を行うこととした。
解決する課題の具体的内容
- 直面する課題
- 農業経営者の高齢化率は2015年で64.1%となり、耕作放棄地率の上昇や、農業経営体数の減少が続いている。これに併せ、これまで「勘や経験に基づく農作業」が中心であったため技術継承が容易ではなかった。
- また、各農家は市内複数地域に畑を有していることが多く、各畑の環境確認や防犯のための見回り作業だけでも大きな労力となっていた。
- 解決した課題の具体的内容
- スマートフォン等による畑の環境確認が可能となった為、これまでの自動車等による畑の巡回に係る労力が軽減された。また、人感センサーの設置により、盗難防止ための夜間見回りに係る労力も軽減された。
- 環境センサーが収集した圃場内の温度・湿度等の環境データはクラウドに保存されるため、当該過去データとJAの営農指導者が有する「栽培基準表(教科書データ)」と照らし合わせることにより、データに基づく営農指導が可能となり、技術継承の効率化を図ることが可能となった。
デジタルを活用した取組による成果
取組のアウトカム
- ハウス巡回稼働の低減 20%減
- 市内発生のブドウ盗難新聞報道件数(地元新聞報道ベース)
令和元年6件、令和2年1件、令和3年0件。
※令和元年9月:人感センサー実証開始 ※令和3年8月:農家への無償貸与開始
※被害を届出ない農家も多数存在。 - ハウス異常温度時のアラート検知による経済的損失(ハウス内果樹全滅)の事前抑止 ▲450万円減
総合的なアウトカム
平成30年度 | 令和元年度 | 令和2年度 | 令和3年度 | |
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市における新規就農者数 | 3人 | 5人 | 10人 | 21人 |
本取組の特徴的な点やデジタルの活用において工夫した点
- 本取組は、平成29年にNTT東日本、JA、シナプテック株式会社及び本市による官民連携事業「アグリイノベーションLab」の取組みから派生したものであり、デジタル技術に関する知見の提供やデータによる営農指導等、各メンバーの知見や技術等を持ち寄ることにより持続的な取組みを実現した。
- 市が広域的なプライベート無線ネットワークを構築したことにより、農業分野のほか、防災分野(河川水位監視及び当該情報の市HPへの掲載)、福祉分野(独居高齢者の見守り)においても当該ネットワークを活用した課題解決策を実施し、経費及び時間に係るコストの削減を実現している。
- デジタル技術を活用したインフラを整備するに際し、山間地を多く有し電源確保等の課題がある本市においても、センシングが可能となるよう太陽光による稼働かつ長距離通信が可能なLPWAを選択し課題の克服を図った。
- 平成29年度にアグリイノベーションLabは「山梨県IoT推進ラボ」の農業分野として参画し、以降、地方版IoT推進ラボ等を通じ全国に事例展開。
- 基幹産業である農業へのデジタル化を推進するため、平成30年9月に市独自の補助制度「農業IoT機器購入費補助制度」を創設。
成果をあげるためのポイント
- 官民連携による持続的かつ着実な事業推進
本取り組みは、平成29年にNTT東日本、JA、シナプテック株式会社及び本市による官民連携事業の取り組みからスタートしたものである。取組み当初から関係者間における定期的な打合せや課題の共有などを行い事業目的達成に向けた共通認識を持ち、持続的な取り組みを実現することができた。 - ワンインフラマルチユース
市が広域的なプライベート無線ネットワークを構築したことにより、農業分野のほか、防災分野(河川水位監視)、福祉分野(独居高齢者の見守り)においても当該ネットワークを活用した課題解決策を実施し、経費等のコスト削減を実現している。
デジタル化を実施するにあたり、苦労した点と対応方法
スマート農業の推進に際し、平成30年度に農家向けの「農業IoT機器購入費補助金」を市独自で創設した。この補助金は、農家が購入するIoT機器の半額(上限30万円)を市が補助するもので、補助金創設当時は市のスマート農業が進むものと期待したが、実際には想定した件数よりも補助金申請数が伸びなかった事実もあった。当時、本市においてはこの要因を情報格差と考えたところであり、以降、DX推進において「デジタルデバイドの解消」に向けた取り組みも重点的に取り組んでいる。
今後DX化に取り組む自治体等へのアドバイス
本取り組みは事業構想段階から、NTT東日本、JA等との官民連携によるプロジェクトとして推進してきた。それぞれの役割分担のもと「持続可能な社会づくり」「儲かる農業」の実現という明確なゴールを掲げ、メンバー間における十分な対話を重ね、また、その際には市としても遠慮なく意見を投げかけてきた。行政としてやらなければいけないことと、官民連携としてメンバーから力を借りること等の役割を意識しながら着実に進めてきたことにより、持続的な取組みが実現できたものと認識している。
- 連携団体
- NTT東日本、JAフルーツ山梨、シナプテック株式会社
- 問い合わせ
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- 部署
- 山梨市総合政策課
- 電話
- 0553-22-1111
- メールアドレス
- sogo@city.yamanashi.lg.jp