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働き方・
ワークライフバランス

Working styles & WORK-LIFE BALANCE

平林 孝太HIRABAYASHI Kota

内閣官房内閣人事局
2010年入省

育休からの復帰に際し、妻はこう言った。
「これから一人で面倒みる時間が増えるから心配だな。でも、育休取ってくれたから、一人だけで育児してると思うことはなかった。これからもよろしく。」

INDEX

はじめに 1.妊娠判明~妊娠初期(2019年11月~2020年2月ごろ) 2.妊娠中期~(2020年2月~) 3.妊娠後期~(2020年5月~) 4.出産~退院(2020年7月) 5.育休1回目(2020年7月) 6.育休1回目終了~(2020年8~9月) 7.育休2回目(2020年9~10月) 8.育休2回目から復帰後~(2020年10月) これから育休を取る未来のパパたちへ

はじめに

本稿は、男性国家公務員の育休取得推進の旗を振る内閣人事局に所属する参事官補佐が2020年7月の第一子誕生に当たり実際に育休を取得した際の経験や感じたことを手拙くまとめたものです。
これから出産・育児を経験することになるであろう未来のパパ・ママたちに、一先輩職員の体験談として気楽に読んでもらえればとの思いで筆をとりました。
育休取得期間は計1か月程度であり、世に出回る“新米パパの育休奮闘記”のような立派なものではないので悪しからず。

※組織・制度に関する見解含め全て個人の意見です。

1.妊娠判明~妊娠初期(2019年11月~2020年2月ごろ)

11月中旬、妻の妊娠判明。妊娠が分かったとき「ありがとう」と妻にちゃんと言えてよかった。
予定日は7月中旬。産院の予約は早めに取るべしとのネット上での脅しにおびえ、早々に検討し予約。
産院が決まった後、仕事のことに思い至る。7月なら国会も閉じているだろうし、夏休み期間とも重なるので、ある程度休みを取っても平気かなと考える。しかし如何せんまだ出産後の生活に対する実感は湧かず、「何は食べちゃいけない」「何はしちゃいけない」など目の前の暮らしのことを考えるのに必死だった。

妊娠判明で浮足立ったのも束の間、妻のつわりが始まり、2月にかけてピークに。本人曰く「他人よりは軽い方だと思う」とのことだったが、見ていていたたまれない。家事をできる限り引き受け、“心配はするが構いすぎない”よう振る舞うことくらいしかできなかった。

2.妊娠中期~(2020年2月~)

安定期に入り、体調安定。このタイミングで夫婦そろって職場に報告(出産6か月弱前)。
男性育休PRにおける上司のお決まり文句として「おめでとう。それで育休はいつ取る?」というのを一種のメソッド的なものとして推奨してきた立場だったが、実際に上司から、何の含むところなく「おめでとう」と言ってもらえ、「出産後の休み方・家族との過ごし方の“希望”を考えてみて」と言われたことは、職場としても祝ってくれているんだと感じられ、じんわりと嬉しかった。この後、病院・親戚・友人等さまざまな人から祝いの言葉は数多くもらったが、“唯一出産により迷惑をかけてしまうかもしれない”はずの職場の上司からそういう言葉をもらえることは、とても心強いことだと実感した。

安定期には入ったものの世間ではコロナの風が吹きすさび外出等はできなくなった。お互い両親は遠くないがその往来も憚られた。自分もコロナ対応で若干多忙になった。妻は、従来は出勤が必須だったが、配慮してもらい3月末から完全テレワークに。妻は自動車出勤だったので相対的には感染リスクは低いと感じていたが、結果として5月中旬に産前休暇に入るまで出勤を求められることはなく、大変ありがたかった。
「出産前に旅行・外食やりつくす!」と思っていたため妻は「ショック~。退屈~。」と不満たらたら。とはいえ不満を言うだけで済んでいたが、人とのつながりが希薄になる上に外出もできないとなれば、人によっては精神的に辛く感じることもあるだろう。ただでさえ妊娠中で不安を抱える妻を支えなければと思った。

2020年3月末(出産4か月弱前)、上司に育休等の取得意向を説明した。
産前までは現居で過ごし、出産後は自分の実家(夫の実家)で2か月ほど過ごし、その後現居に戻るプランとした。その際、出産直後に2週間育休、現居に戻るタイミングで3週間育休を取得する希望とした。
いわゆる“里帰り出産”は妻の実家に戻ることを指すのが一般的だが、妻の実家は妻の母がフルタイムで働いており、ここに里帰りしても妻にとって家事・育児上の負担がそこまで軽減されるわけではなかった。一方、自分(夫)の実家は、自分の母がパートタイム勤めであり妻子の面倒も見れ、自分の父や妹も住んでいるため皆で代わる代わる赤ちゃんに構おう!ということでこのような形になった。幸い、妻は自分(夫)の実家メンバーとうまくやっていたし、実家メンバーも出産後の滞在を歓迎してくれたためうまくいったが、妻が不安・不満・不快に思うところがないかは何回も意向確認した。
そうは言っても妻にとっては退院直後かつ慣れない夫の実家暮らしを始めることで負担がかかるこのタイミングが重要と考え、妻と相談した結果、自分も2週間育休(休暇含む)を取ることにした。同居で生じるかもしれない軋轢にも自分が間に立つ必要があるとの考えもあった。また、自分の実家から現居に戻り、親子3人の生活が改めて始まるタイミングで3週間育休を取ることにした。
なお、収入面の懸念はなかった。特別休暇・年次休暇は有給だし、育児休業についても(業務上、実は自分が作った)収入シミュレーションシートに数字を打ち込んで3週間程度なら手取り減は数万円だと分かっていた。それよりも分娩費用・ベビーベッド・ベビーカー・チャイルドシート等の調達など、一時的により大きい出費が控えていたため、もはや気にならなかった。(その時は気づかなかったが、共済からの出産祝一時金、親族からの出産祝金など後から補填されたものもあった)

上司には育休の取得意向と同時に業務上の懸念も伝えた。育休取得予定の7~9月は国会対応の心配はなかったが、9月にヤマ場を迎える業務があり、それが一番の懸念だった。上司や部下とよく相談し、業務全体のスケジュールの確認、業務分担の可視化・調整をすることで、自分自身休んでも大丈夫だと安心感が持てたし、係内でも状況を正しく理解してもらえたと思う。

3.妊娠後期~(2020年5月~)

妊娠経過は順調。妻は産前休暇に入り、出産・入院に向けた準備を本格化させた。コロナの影響で両親学級などが軒並み不開催となっていたので、動画サイト等で沐浴の仕方やおむつの替え方を夫婦で勉強した。妻と近所を散歩しながら「子供の名前はどうしようか」「生まれた後のベビーカーでの散歩ルートの下見だね」などと話した。コロナの影響で異例づくめの妊娠期間だったが、こうしたゆっくりした時間が取れた面はよかったと思った。

緊急事態宣言発令により仕事にも影響が出ていた。9月がヤマ場の仕事はスケジュールどおりに進められるか不透明な状況だった。ただ、育休に向けた業務計画の検討を行ったことで、係内での業務の全体像の認識共有はできており、焦ることもなく緊急事態宣言解除後にリスケジュールを引くことができた。

4.出産~退院(2020年7月)

予定日より1週間前の平日、自分はテレワーク中だった。夕方に妻が前触れなく破水。登録していた妊婦タクシーを呼び出す。お互い冷静さを心掛けたが、やはりどこか平静ではなく支度に謎に手間取る。職場にはこれから病院に向かうため早退する旨連絡。心の準備はできていたはずなのにふわふわした心持ちだった。テレワーク中で本当によかった。妻もこのときを振り返って「在宅してくれていて本当に良かった」と語っていた。

翌朝、生まれた。立ち合えた。これまでよく見てきたドラマのように、分娩台から赤ちゃんの泣き声が漏れたとき、さすがに自分も涙が滲んだ。「ありがとう。おつかれさま。」との言葉が口をついた。

出産をもって、予定よりは早いが2週間の休みに入らせてもらうことになった。
感染予防のため面会時間は短めに制限されていたが、毎日会いに行った。妻は3時間ごとの授乳で寝不足であり、自分の面会中は気を緩ませうとうとしたり赤ちゃんの面倒を自分に任せてシャワーを浴びたりしていた。
自分は面会時間以外の時間で、実家での妻子の迎え入れ準備を進めた。部屋の掃除、ベビーベッドの組み立て、現居から必要な荷物の運び込み、消耗品の買い出し等、到底1日では済まず存外手間がかかった。市役所に提出する資料、自分の職場に提出する資料、妻の職場に提出する資料をそれぞれ整理・準備した。
妻が入院中の5日間、現居~病院~実家の移動時間がかさんだこともあり、ほぼ休む時間なく動くこととなった。
無事に退院の日を迎え、自分の実家での暮らしがスタートした。

5.育休1回目(2020年7月)

実家による全面的サポートにより、“食っちゃ寝”が可能だった妻は、授乳やおむつ替えの時間以外はなるべく横になり睡眠時間を稼いでいた。妻が寝ている時間が多かったのでおむつ替えはなるべく自分がやるように努めた。
市役所の用事は1回で済まなかったので手間だったが、一通り手続きが終われば、自分としてもやっと落ち着いた時間を過ごせた。妻の産後経過は順調だったが、体調は万全でなく、家事・料理を完全に実家に任せる形であってもなお、しんどそうだった。
ある夜、赤ちゃんが異常な泣き方をして、全く泣き止まないことがあった。あれこれ手を尽くしても泣き止まず、ネットで調べてみても理由は分からない。119番にかける前に、藁にもすがる思いで東京都の夜間育児電話相談サービスにかけた。電話口の助産師さんにあれこれ状況を聞かれたが、「赤ちゃんは泣くものです。大泣きは初めてでしょうが、みんなそんなものです」とけろっと断じられた。今になって振り返れば「あのときが初ギャン泣きだったね~」と思えるが、その当時は生まれたばかりの子供に死の危険が迫っているのではないかと夫婦そろって本気で思っていた。
その翌朝、妻は「これはさすがに一人だと心細かった。休みをとって一緒にいてくれてよかった」と言った。産後の身体的な辛さは見たまま分かりやすいが、もし育休を取っていなかったらその心の負担に自分は気づけただろうか。“妻のサポート”ではない、“夫婦での育児”が始まったんだと実感した瞬間だったように思う。

6.育休1回目終了~(2020年8~9月)

1回目の育休期間が明け、久々に出勤した。皆祝ってくれて嬉しかったし、自分が不在の間大きなトラブルもなかったと聞いてほっとした。
業務状況も夏休み直前でわりかし落ち着いており、早めに家に帰れる日々が続いて助かった。夏休みも取れた。
1か月検診で母子ともに健康とのお墨付きをもらい、穏やかな日が続いた。仕事に復帰したことにより、日中、自分は不在にしているが、自分の母が頑張って面倒を見てくれている。赤ちゃんのいる生活に慣れることができたので、予定どおり現居に戻り(引っ越し)、2回目の育休を取得することにした。

7.育休2回目(2020年9~10月)

実家から現居への引っ越し作業に育休の冒頭数日を費やした。実家メンバーは赤ちゃんとの別れを大変さみしがってくれた。
赤ちゃんの服・バスタオルはじめ各種タオル類が大量に増え、おもちゃ・絵本などのグッズもあり、収納が全然足りなくなったので、収納棚を買い足した。こういうのは赤ちゃんを連れた妻では買いに行けないし、自分がやるにしろ土日だけだとなかなか進まないので、育休中に済ませることができて助かった。

赤ちゃんはぐんぐん大きくなる。外界の刺激に敏感だったり鈍感だったりを繰り返す。昨日までお気に入りだったものも翌日には見向きもしない。ありきたりだが、日中ずっと世話をしているのと、平日夜と週末だけ触れ合うのだと密度が全然違う。
夜ずっと泣いていて、泣き止んでくれなくて、ずっと抱っこするのがしんどくて、眠いのに寝させてもらえないとき、イラっとする気持ちが全くないかと言えば嘘になる。それでも、翌朝は何もなかったかのようにご機嫌で笑いかけてくると、親としてはもうどうしようもない。そのたびに妻とああだこうだ言いながら試行錯誤して、如何に手を抜きつつ、如何にご機嫌を取るかを考える。
育児の在り方は親子の数だけあるのだろうが、我が家における育児のスタイルは、間違いなくこの育休期間中に、夫婦一緒に作り出すことができたと断言できる。

8.育休2回目から復帰後~(2020年10月)

体験談なので事実を書かねばなるまい。
育休2回目で自分が不在の間、職場は突発案件で大炎上していた。結局、自分の不在を埋めるように他係からの応援が入り、それでもなお多忙を極め、タクシー帰りの日もあったようだ。
“申し訳ない”。当然そう思ったが、口には絶対するまいとも思っていた。育児の当事者は自分だが、自分を育休に送り出したのは職場の皆の意思決定だ。「自分だけ休んですみません」などと謝ってはいけない。
育休明け初日、ちょっとしたお菓子を手土産に同僚に「ありがとうございました、とてもよい機会でした」と挨拶して回った。同僚も、自分の不在を恨むことなど言わず、ただ子どもの成長と自分の職場復帰を喜んでくれた。自分なりにより仕事に励み、皆の力になれるよう精進しようと気持ちもあらたになった。自分が管理職になったら、どんなに忙しくても、育休に入る部下を快く送り出そうと心に決めた。

育休からの復帰に際し、妻はこう言った。
「これから一人で面倒みる時間が増えるから心配だな。でも、育休取ってくれたから、一人だけで育児してると思うことはなかった。これからもよろしく。」

最近流行ってるから育休とってみたけど、とってよかった。

これから育休を取る未来のパパたちへ

将来の自分を想像して“自分が育休なんてとても…”と考えるだろう。自分もこれまでは想像できなかった。
男性国家公務員の育休取得促進の取組が進めば、間違いなく育休を取りやすい雰囲気になっていくだろう。
ならば、すべきことは、職場の空気をうかがい、どう上司に切り出すかを悩むことではない。育休を取ることを前提に、どのような取り方が家族にとって望ましいかを考え、その取り方と業務を両立させる方法を考え、どのような業務上の工夫によりいかにそれを実現させるかを考えることに頭を使った方がよっぽどいい。
困ったらみんな通ってきた道なんだからみんなで考えればいい。
長期間の育休を前提にしなくてもいい。子どもを生むこと、生んだあとの過ごし方を夫婦で話し、相談しながら決めればいい。そのプロセスこそがよい育休に繋がるキーだと自分は思う。

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