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国土強靱化:私のひとこと vol.3

興味ある領域と防災がつながれば意識は変わる

issue+design代表 筧裕介氏

 地域・社会が抱える様々な課題解決のためのソーシャルデザイン(モノ、サービス、場、仕組みづくり)に取り組まれている筧裕介氏(issue+design代表)に話を伺いました。

 もともと広告会社でコマーシャルや広告デザインの仕事をしていました。この仕事は、面白いけれども、作っては消え、作っては消え・・・もう少し形のあるものを作ったり、社会に残る仕事をしたいなあと思っていました。そして、2001年9月11日に仕事で訪れたニューヨークでアメリカ同時多発テロ事件に遭遇し、その混乱の中で過ごすうち、日本や社会が抱える課題に興味を持ち大学院で研究を始め、そしてその課題解決のための「デザイン」に大きな可能性を感じ、issue+designを立ち上げ実践的に取り組むようになりました。
 最初に取り組んだのは、2008年神戸を舞台にした「避難生活+design」(詳細は「震災のためにデザインは何が可能か」(hakuhodo+design/studio-L著/NTT出版)参照)。阪神・淡路大震災から15年が経とうとしているタイミングであり、神戸市民でも震災に対する危機感や関心が極めて低く、行政・企業・市民もそのことに対して何か取り組んだり、お金をかけたりすることにネガティブな時期でした。その状況に対してデザインで何ができるかということで取り組んだものです。


 2008年の神戸のプロジェクトから生まれ、東日本大震災で役立った「できますゼッケン」

 2008年の神戸のプロジェクトから生まれたのが「できますゼッケン」です。
 阪神・淡路大震災では、全国から多くの方にボランティアに来ていただいたのですが、当時の日本にはボランティア風土みたいなものがなかったため、ものすごく現場で混乱しました。行政はボランティアの受け入れをしたことがなく、ボランティアに行く人は何をすればよいか分からない。
 その時の教訓から、受け入れ側には、ボランティアの方がどういうスキルがあって何ができるかが見えることによって、お願いしやすくなるというニーズがあり、ボランティアの方にとっては、現場で真剣にボランティアをする上で自分が何者で何ができるか考え意思表示することが大切だということが見えてきました。そして、プロフェッショナルな技能から生活に必要な知恵まで、相互で共有し、助け合うためのツールとして、被災地や避難所で、ボランティアスタッフや被災された方々が自分にできることを表明するゼッケンが生まれました。
 東日本大震災の時には、ボランティアに行かれる方々が活用できるようにウェブサイト(http://issueplusdesign.jp/dekimasu/)で公開しました。また、仙台市と提携関係のあった神戸市職員の方が被災地入りするたびに持って行くなどして、ボランティアの方々に使っていただきました。


できますゼッケン

 防災意識は、高まってはまた低下するということの繰り返し

 緊急時や復興のタイミングで出てくる問題というのは、普段の備えや活動に関係する問題が加速度的に進み、分かりやすく噴出します。例えば神戸が阪神・淡路大震災で経験した孤独死などの問題は、日本全体がこれから経験していくことの縮図のようなものです。
 一方で、防災は緊急時の話なので、一生無縁な人もいるので、防災のために普段から何かをするのは結構しんどいと思います。東京でも関東大震災クラスの地震が来ると言われていた30年ぐらい前はもっと深刻に捉えていましたが、会社員や生活者の意識は下がっているような気がします。また、神戸でも阪神・淡路大震災から間もなく20年が経ち、約4割の人が阪神・淡路大震災のことを知りません。世代をまたぐことの難しさを若い世代を見ていて実感しています。
 住宅の耐震化基準のようなハードについては、震災のたびに強化されてきているので、一定のレベルの地震であれば住宅は倒壊しないという状況になっています。ハードの水準はどんどん上がっていますが、防災意識などのソフトについては、高まってはまた低下するということを繰り返しています。
 やはり防災について生活習慣の中にしっかり組み込む、文化にしていくということが必要ではないかと思います。防災について考えたり、そのために行動したりということを日常生活の一部として組み込むことができる機会は、学校教育や子供の時なので、そこに踏み込む必要があるのではないでしょうか。


 IT技術を活用することで防災意識が変わる

 出張や旅行の準備の際に訪問先の防災情報を把握することが、持ち物リストを作ることと同じように行動の一つに組み込まれるといいんじゃないかと思っています。また、多くの地方自治体では津波ハザードマップを公開していますが、A3サイズで出力すれば辛うじて読み取れるようなPDFをホームページに貼り付けているだけです。A3サイズで出力できるプリンターがあるご家庭は少ないので基本的には誰も見ていない、機能していないというのが一つの問題ではないかと思い、新しいウェブサービスを立ち上げました。
 スマートフォンで神戸市内から「ココクル?」(kokokuru.jp)にアクセスすると、自分がいる場所がどれぐらいの高さの津波の可能性があるか、そして到達まで何分ぐらいなのかがピクトで分かります。また、ハザードマップを表示すると周辺の想定津波高さが分かり、どっちに逃げればよいかが視覚的に分かるサービスです。


「ココクル?」の画面の例

 さらに、地震が発生した時にどこに逃げればよいか、子供たちがしっかり分かってもらうための避難訓練ができるといいなと思って開発しているアプリがあります。ARアプリ(拡張現実アプリ)を利用して、スマートフォンをかざすと津波の最大浸水深に応じた大きさの動物が指定されている避難所へ逃げていく映像が出てきます。子供たちは動物たちを一緒になって追いかけていくことで実際の避難所や避難経路を学ぶことができるようにすることを考えています。嫌々避難訓練に参加するよりも、どのように行動すればよいかが感覚的に理解でき、かつ、楽しんでやってくれるのではないかと考えています。


開発中のアプリの画面イメージ

 子供だけでなく、新しいIT技術を活用することで住民の防災意識が変わると思いますし、若い人にはIT技術でこういうことが可能なんだってことを知ってもらうだけでも意識が変わると思います。防災って自分が生きている時間や普段使っているものと関係ないような感じがしますが、このアプリのように興味がある領域と防災がつながることで途端に興味が湧くのではないかと思います。自分事化するというか関連する領域に近づくというか。
 ソーシャルデザインは今とても求められていると思いますし、やってみたいと思っている若い人が増えていると思います。ただ、この分野には経済ができてないというか経済的な論理とは別のところで動いています。国や地方自治体から予算をいただいてできる仕事も限られています。そこがもう少し回っていくと、ソーシャルデザインをやっていきたいと思っている若い人たちの力をもっと活用できるのではないかなあと感じています。


筧裕介氏 プロフィール
  issue+design代表
1998年株式会社博報堂入社。
2008年山崎亮氏他とソーシャルデザインプロジェクト issue+design を設立。以降、社会課題解決のためのデザイン領域の研究、実践に取り組む。
主な著書に「ソーシャルデザイン実践ガイド」「地域を変えるデザイン(共著)」他
グッドデザイン賞、竹尾デザイン賞、日本計画行政学会学会奨励賞、Biennale Internationale Design Saint-Étienne 2013、Shēnzhèn Design Award (中国・深圳) など、国内外の受賞多数。

HP http://issueplusdesign.jp/

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