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国土強靱化:私のひとこと vol.11

地域と共に造る津波避難施設「命山」

袋井市総務部防災監 出口憲七氏

湖西市危機管理監 藤田和久氏

(左)湖西市 藤田氏 (右)袋井市 出口氏

 南海トラフ巨大地震による津波被害が想定される静岡県で津波避難施設として命山(いのちやま)の整備を進めている袋井市と湖西市。津波対策とその中の特に命山の整備について、袋井市の出口氏(総務部防災監)と湖西市の藤田氏(危機管理監)にそれぞれ話を伺いました。

1.袋井市のより安全度の高い津波避難計画

袋井市津波ハザードマップ(詳細は袋井市HPへ)

出口防災監(以下「出口」) 現在、防災交流協定を結んでいる宮城県岩沼市は、袋井市と同じような地形をしていて、そこが東日本大震災で高さ10mの津波に襲われ、海岸線から5kmぐらいの内陸まで浸水したことは、袋井市民にとって非常にショックだったと聞いています。

 そもそも袋井市は、「静岡県第4次地震被害想定」によると、あらゆる可能性を考慮した最大クラスであるレベル2の地震では、市域の86%以上が震度7の揺れとなりますが、地震対策については随分前より積極的に取り組んでおり静岡県内でも対策が進んでいる地域の一つです。一方で、従来の第3次地震被害想定では浸水域が0.3km2ぐらいの範囲だった津波については、東日本大震災の被害状況を目の当たりにしたことで、もっと広い範囲が被害を受けるのではないかと市も地域(特に浅羽海岸の地域)の方々も、強い危機感を持ちました。そこで平成23年5月に、袋井市では津波被害軽減対策検討会を立ち上げ、住民の避難行動等を示す「津波避難計画」の策定に取り掛かるとともに、津波避難施設等のハード対策の整備方針等を示すアクションプログラムの検討を始め、平成24年2月に最初の津波避難計画を策定いたしました。また海岸線沿いに位置する浅羽南地区においても、平成23年5月に、地域住民主導で、「幸浦プロジェクト」が立ち上げられ、このプロジェクトに市職員も同席させていただく中で、ソフト・ハード両面にわたる津波対策事業についての協議を重ねて参りました。

 また、その後遅れて、平成24年から25年にかけて、国や県の被害想定が発表され、津波避難計画の見直しを行いましたが、その見直しに当たっては、静岡県の想定では海岸防災林は地震では壊れず、川の堤防は四分の三が破堤するとしている前提条件を、最悪の状況も考慮して海岸防災林が地震と共に壊れ、堤防は全破堤するという安全度を非常に高く設定した前提条件にしています。その前提条件で策定した計画を基にして、「生命」の安全確保のための命山の整備や「財産」を守る袋井市静岡モデル整備事業としての海岸防災林の強化を進めているところです。

 避難場所であり、憩いの場でもある地域に愛されている命山

湊命山

出口 実は、命山には歴史があります。延宝8年(1680年)閏8月6日に江戸時代最大と言われる台風が襲い、300名の方が亡くなられました。生き延びた住民たちが避難所となる築山を作ったものが、「命山」と呼ばれるものです。現在、「大野命山」と「中新田命山」の二つの命山が、まさに津波避難施設を作る地域に残っています。このような歴史的な背景もあることから、津波避難施設として命山を整備することにつながったのかと思います。

 袋井市では、一つの命山が既に完成しており、現在三つの命山の整備を進めています。

 最初の命山である湊命山は、整備を進めるための環境が比較的整っていました。津波避難施設が必要だという住民の危機意識に加え、津波避難施設の設置に適した場所に店舗跡地が売りに出されていて土地の確保がスムーズでした。普段は、散歩や地域のイベントに活用されています。また、周囲に高い建物がないため、初日の出や富士山を見るなど、地域住民に愛される場所となっています。命山は、このように平時にも活用でき、また津波避難タワーに比べて経費面でも効率的ですし、建替える必要もなく後世に財産として残せる点がメリットです。もちろん、津波避難タワーは、広い土地が確保できない場所でも造れることや早期に完成させることができるメリットがあります。袋井市でも幼稚園と保育園の近くに津波避難タワーを平成24年12月に完成させています。

 これは命山の整備に限ったことではありませんが、まず地域にリスクを正確に説明して理解を得ることが大事です。その上で、整備場所を決める際など地域にご協力いただかないと進められないことがあるため、検討当初から地域と一緒に検討することも重要です。さらに、地震対策や命山・防潮堤強化等の津波対策を進めていくためには、多額の経費が必要です。袋井市では、あらゆる災害に打ち克つたくましいふるさと袋井の実現を目指し、「袋井市ふるさと防災寄附金」を設立し、寄付を募っています。ここでも地域に説明し理解を得るという努力が欠かせません。これら様々な努力を積み重ねていくことが、地震・津波対策を前進させることにつながると考え、日々取り組んでいるところです。

2.地震や津波の被害を受け続けてきた歴史を持つ湖西市

湖西市津波浸水域図(詳細は湖西市HPへ

藤田危機管理監(以下「藤田」) 約6万人の市民の内、約1万2千人も参加しているのが、湖西市の津波避難訓練です。この避難訓練は東日本大震災以降に3月11日に実施し続けていますが、実施時間帯が夜間にも関わらず、この参加者数です。これは静岡県内でもずば抜けて多い。

 湖西市の沿岸部は、新居宿が江戸時代に津波の被害を受けて宿場町の場所を山側に替えたり、白須宿が宝永4年(1707年)の宝永地震・津波で大きな被害を受け台地の上に高台移転したりした歴史がある地域です。浜名湖も、明応7年(1498年)の明応地震により今切口ができて淡水から汽水の湖になったのです。このような歴史もあり、自分たちの地域は自分たちで守るという意識が、現在でも高い地域なのかもしれません。

 湖西市が東日本大震災を踏まえて改定した津波避難計画では、実際に避難するルートに基づいて算出すると、津波の到達時間までに高台や大きな避難施設にたどり着けない津波避難施設空白域(=避難困難地域)が存在します。この空白域への避難施設の整備を最優先で進めているところです。なお、遠州灘沿岸には、東京大学の海岸防災林があったり、国道1号のバイパスが高架で通っていたりするため、大規模な防潮堤を作ることは容易ではないですが、できることから実施していきたいと考えています。

 一石三鳥となる命山

新居町の命山の整備イメージ

藤田 先ほどお話した新居宿のある新居地区は、低い丘陵地を切り崩して浜名湖を埋め立ててきた所です。JR東海道線の新居町駅も大正4年に同様に作ったったものです。この新居地区で、地元自治会から削り残している山を削り、避難場所にして欲しいという要望がありました。また、これが今回の取組のベースになったのですが、山の所有者であるお寺さんから土地を寄付してくれるという申し出もあり、県とも連携していくつかの事業を組み合わせられないか検討しました。山を削って急傾斜地を解消するとともに、削った土砂で避難施設空白域に命山を築けないか。調整の結果、命山を二か所に造ることができそうだという状況です。これからの課題は、整備後の命山の平時の活用についてです。そのためのワークショップを地元の住民、隣接する幼稚園・小学校関係者等とともに開催し、検討を開始したところです。

 一方で、広い土地を確保できない地域では、津波避難タワーを整備することになります。津波避難タワーは数十年後にも良好な状態を確保し続けられるかという更新を含めた維持管理面が課題です。これまであまり使われていない耐久性が期待でき、維持管理も容易となる素材の使用等も視野に入れながら、整備を行っていきたいと考えています。

 ハード対策は、ソフト対策を側面から支援するもの

藤田 東日本大震災以降、これまである意味防災の対象外であったレベル2の津波について、各地方公共団体ではその対応に迫られているのが現状かと思います。津波対策について、発生頻度が比較的高く、発生すれば大きな被害をもたらすレベル1はハード対策、あらゆる可能性を考慮した最大クラスであるレベル2はソフト対策とハード対策を組み合わせることが基本ではないかと私は考えています。すなわち、レベル2では、「逃げる」ことが大前提であって、ハード対策はそれを側面から支援するものと捉えることが大切なのではないでしょうか。これこそが国土強靱化の考え方ではないかと私は考えています。そういう地域では、避難することがそこに住み続ける上での作法の一つであり、後世にも伝えていくことをしてこそ、真の避難計画になるのではないでしょうか。

出口憲七氏 プロフィール
袋井市総務部防災監
陸上自衛官を経て、平成24年より現職
袋井市HP http://www.city.fukuroi.shizuoka.jp/
同 防災情報のページ
http://www.city.fukuroi.shizuoka.jp/kurashi_tetsuzuki/bosai_anzen/bosai/index.html
藤田和久 プロフィール
湖西市危機管理監
静岡県職員を経て、平成26年より現職
湖西市HP http://www.city.kosai.shizuoka.jp/
同 防災情報のページ
http://www.city.kosai.shizuoka.jp/1012.htm

#地方自治体 #津波避難施設 #命山

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