世界遺産とは、1972年にユネスコ総会で採択された世界遺産条約(正式名称『世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約』)に基づき、学術的に「顕著な普遍的価値」を有すると認められた、遺跡や景観・自然などのこと。条約締約国はそれぞれ候補物件となる暫定リストを作成し、その中から推薦する案件を世界遺産委員会に提出。調査を重ねて認められたものが、世界遺産リストに登録されることとなる。文化遺産を担当する文化庁では今日も自治体とともに、世界に誇る日本の文化財の価値を見つめ、登録に向けた準備を進めている。

  • 1996年、文部省(現文部科学省)へ入省。建築物などの重要文化財に対し、専門的・技術的視点から調査する調査官として活躍。イタリア・ローマのユネスコ関連機関へ2年間派遣された経験もあり、2011年より文化庁の世界遺産専任のポストへ。世界遺産の推薦・登録に向けて、これまでのノウハウを基にした情報分析や、地元自治体への指導・助言を行っている。肩書は取材当時。2015年10月より、文化庁文化財部参事官(建造物担当)付登録部門 文化財調査官へ異動。
  • 2003年、文部科学省へ入省。学校施設の耐震化や、家庭教育支援など、様々な部署で経験を積んだ後、文化庁の世界文化遺産室に。その後、パリにある世界遺産委員会の事務局であるユネスコ世界遺産センターへの派遣を経て、2013年に現場での経験を活かすべく再び世界文化遺産室へ。日本の文化遺産を守りたい、と世界遺産登録の事務方として支えている。肩書は取材当時。2015年10月より、文部科学省 大臣官房国際課国際機関係長へ異動。

文部科学省 文化庁文化財部記念物課世界文化遺産室 文化財調査官 1996年、文部省(現文部科学省)へ入省。建築物などの重要文化財に対し、専門的・技術的視点から調査する調査官として活躍。イタリア・ローマのユネスコ関連機関へ2年間派遣された経験もあり、2011年より文化庁の世界遺産専任のポストへ。世界遺産の推薦・登録に向けて、これまでのノウハウを基にした情報分析や、地元自治体への指導・助言を行っている。肩書は取材当時。2015年10月より、文化庁文化財部参事官(建造物担当)付登録部門 文化財調査官へ異動。

文部科学省 文化庁文化財部記念物課世界文化遺産室 世界文化遺産企画係長 2003年、文部科学省へ入省。学校施設の耐震化や、家庭教育支援など、様々な部署で経験を積んだ後、文化庁の世界文化遺産室に。その後、パリにある世界遺産委員会の事務局であるユネスコ世界遺産センターへの派遣を経て、2013年に現場での経験を活かすべく再び世界文化遺産室へ。日本の文化遺産を守りたい、と世界遺産登録の事務方として支えている。肩書は取材当時。2015年10月より、文部科学省 大臣官房国際課国際機関係長へ異動。

  • そもそも世界遺産の目的って、条約上は、“文化遺産や自然遺産を損傷、破壊等の脅威から保護し、保存するための国際的な協力及び援助の体制を確立すること“なんですが、簡単に言うと、世界にある貴重な遺産を次世代に継承していくためにみんなで守っていこうというものですね。
    1960年代初頭に、エジプト政府が計画していたナイル川流域のダム建設によって水没してしまう遺跡を守ろうと、ユネスコが救済キャンペーンを始めたことがきっかけです。
    このユネスコの取組によって、世界的な援助・支援が集まり、この遺跡を移築して守ることができました。このことから、国際組織として世界中の歴史的価値ある遺跡や建造物を守っていこうという動きが始まって、条約の採択につながったんですよね。
    いま、条約締約国は191か国あります。日本は1992年に条約に加盟しました。
    日本はもともと、文化財保護法がしっかりと制定されていて、文化財はきちんと守られているんですよ。でも世界遺産に登録されることで、従来の保護体制がさらに強化されたり、周辺の文化財にも意識が向けられるようになるのはすごくいいことだと思います。
  • 世界遺産に登録されると、地域の活性化につながりますし、観光地として注目度も上がります。登録をきっかけに、埋もれていた文化財の価値に意識を向ける人が増えるのはうれしいですよね。
    そうですね。実際に登録に向けて自治体の人たちと準備を進めていると、地域振興のことだけじゃなくて地元の文化財をきっちり守っていきたいと考えて取り組んでいる人が多いように感じます。
    たしかに。登録準備をきっかけに、地元の人たちも、もちろん自分たちもその価値を見直すという側面がありますよね。世界遺産の推薦を進めるにあたっては、世界遺産条約の基準を満たさなければいけない。そのために、いろんな角度からその文化財の価値を考え、見つめ直していくことにもなりますから。
    本当ですね。2015年7月までに、日本で認められた世界遺産は19件。そのうち文化遺産は15件、自然遺産は4件になりました。これからも、日本の文化財を守り続けていくために、取り組んでいきたいですね。
  • たとえば、最近登録が認められたものですと、「富士山」が有名ですよね。世界遺産には文化遺産のほかに自然遺産もあります。富士山は最終的に文化遺産での登録になったのですが、当初は自然遺産として申請しようという動きがありました。
    何よりも美しい山ですからね。ただ、世界を見渡すと同じような円錐状の成層火山は少なくないこと、また登山客が多いことからも、自然遺産としては認められないのではないかという見解があったみたいですね。
    そこで、自然遺産ではなく文化遺産として進めることになったんですよね。
    登録のポイントは「信仰の対象と芸術の源泉」という点です。富士山は、竹取物語の時代から長く崇拝の対象として神聖視されていましたし、芸術という観点で言えば、富士山を描いた作品はもちろんたくさんありますからね。
    そして実は、海外の芸術家も富士山が描かれた浮世絵に影響されたりしているんです。この、国内外の芸術家にインスピレーションを与えた点も認められたんですよね。
    登録に至るまでにはいろいろありましたが、認められた時はやっぱりうれしかったですね。
  • 世界遺産登録には、地元自治体のみなさんの力が大きいですよね。私たちはあくまでサポートの役目を果たすだけですから。西さんは調査官として、地元自治体の方々と密にやり取りしてますよね。出張も多いですし。
    そうですね。週に2~3日は現地に行って、「審査機関のICOMOS(国際記念物遺跡会議)が気にするであろう点について、こう対処しましょう」というようなアドバイスをしています。
    今はどこに行くことが多いんですか?
    長崎が多いですね。「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」について、現地調査の準備に入っています(※)。その次に推薦を予定している「沖ノ島」がある福岡に行くことも増えました。(※2015年9月取材当時)
    西さんたち調査官の方々がこれまでに培われた経験やノウハウが、世界遺産登録に向けて強みになりますからね。
    力になりたいですね。世界の動きを見ていると、自国だけではなく他国の遺産登録に協力する国もたくさんあるんですよ。私自身も、日本だけでなく海外の遺産登録に向けて協力する仕事もできたらいいなと思っています。
  • いま、世界7か国共同で登録に向けて動いている案件もあるんですよね。
    フランスが代表して推薦していますが、国の重要文化財にも指定されている上野の西洋美術館が、フランスの建築家ル・コルビュジエが設計した代表的な建築作品の1つということで、他の国にあるものと合わせて話が進んでいますね。
    国内だけではなく、世界とつながることができるのもこの仕事の魅力ですね。日本が国際舞台でどういう貢献ができるのかを考えられることは、私にとってすごく大きなやりがいです。
    本当にそうですね。ただ一方で、私としては世界遺産の在り方に課題も感じているんです。
  • どういうことですか?
    たとえば、「世界遺産に登録されたものだけが、価値がある」という誤解を生んでしまうことです。
    あぁ、それは本当にそう思います。世界遺産の特別な審査基準に合うか合わないか、それだけですもんね。認められていなくても、世界遺産と同じくらい価値の高いものはたくさんあります。“世界遺産に登録されないものは、価値のないもの”と受け取られてしまうのは、とても残念ですよね。
    そもそも、世界遺産は有形の不動産にしか認められていませんからね。
  • そうなんです。例えば、地元に神社があるとして、世界遺産の対象は不動産である神社だけですが、そこで古くから続いているお祭りにも価値はあるはず。実際、日本はこういう形のないものも文化財として保護しているんですよ。
    無形のものを文化財として認めている国は世界でも稀なんです。日本は、文化に対する制度や国民の意識が進んでいる国といわれています。
    私も課題に感じていることがあります。それは、世界遺産は登録がゴールではなくてスタートだということ。登録されてよかった!で終わらせずに、その後どうやって守り続けていくかに意識を向けていかなければいけないなと思います。
  • それはありますね。登録された瞬間は注目されますが、単なるブームで終わらせるのではなく、それを大切に思う気持ちをいかに持ち続けていくかということも大きな課題ですね。
    100年後の人たちにも、今と同じように文化財を大切に守ってもらいたい、それが実現できる仕組みを整えられればと思います。