III  新たな人事評価システムに求められるもの


1 新たな人事評価システムの目標
             
  (1)  新たな人事評価システムの役割と構築の目的
             
     国家公務員としては、5ページに掲げたような行動規範に従って、国民に対して適切かつ的確である効果的な行政活動を、その質を低下させることなく効率的に提供することができ、かつ、担当する行政活動の不断の改善を図ることができるような人材が求められる。このため、人事評価システムは、このような人材の育成・確保と的確な活用、勤務の結果に対する適切な処遇及び勤務意欲の向上に資することを基本的役割とすべきである。
 このような役割を踏まえると、新たな人事評価システムの構築に当たっては、行政活動の一層効果的・効率的な遂行を図るとの観点から、国家公務員に求められる能力を評価する能力評価と、その業務遂行の成果を評価する業績評価を重視した人事評価システムを整備し、その評価結果を、適材適所の人材配置の実現、適切な昇進管理と処遇の推進、人材育成・自己啓発の促進及び勤務意欲の向上に活用していくことを可能とすることを、システム構築の基本的な目的とすべきである。
             
  (2)  現行の人事評価システムの問題点
     
     国家公務員については、これまでも、勤務評定を中心とした人事評価を活用した人事管理が行われてきているが、能力・業績を一層重視した人事管理に資する新たな人事評価システムを検討するに当たっては、以下のような現行の人事評価システムの問題点を考慮すべきである。
       
    1.  制度面の問題点
             
       評価区分に関する問題
         現行の人事評価システムの中心となっている勤務評定制度は、採用試験の種類
・ 専門区分別の制度とはなっていないが、各省庁等においては、採用試験の種類
・ 専門区分等ごとの人事グループによる人事管理が行われている。このため、人事評価の活用等についても、人事グループごとに取り扱われ、これが、過度に固定的なものとなっている面もあることから、勤務評定の結果が、人材の有効な活用や職員の意欲の向上に、必ずしも十分に反映されていないという懸念がある。
             
       評価基準に関する問題
         現行の人事管理では、多くの場合、人事評価に用いるべき能力等の基準が必ずしも明確でないため、明文上の基準に基づいた人事評価が困難になっており、年次が職員の能力等を示す指標として大きな役割を果たしている。
 また、特に、現行の人事評価システムの中心となっている勤務評定については、短期的な勤務実績を中心とした評定であるため、異動・昇進・育成等に積極的に反映し難いという状況にある。
             
       その他の問題
             
         現行の人事評価システムでは、その評価項目等の取扱いについて非公開となっている場合が多く、被評価者が、何をすれば評価されるかということを認識することが困難となっている場合が少なくない。
             
    2.  運用面の問題点
             
       評価者に関する問題
         各省庁等では、人事異動が頻繁に行われるため、個々の評価者が被評価者に対し、中長期的な観察を経た上で評価を行うことが困難となっている場合がある。
 特に企画・立案部門においては、個々の評価者である上司が部下職員に対して年間業務計画等を明示して計画的に業務管理を行う、あるいは個々の評価者である上司が部下職員に対して期待する役割、能力等を具体的に明示するケースは、その困難さもあり、必ずしも多いとは言えないことから、上司から人事評価を受ける個々の被評価者にとって、自らが何をすれば評価されるかを認識することが困難となっている。
 さらに、人事評価を行うに当たっての上司・部下間のコミュニケーションや研修等の機会を通じた評価者訓練も十分に行われていない。
             
       昇進・処遇に関する問題
         人事評価を行っても、職員間で昇進・処遇等の面であまり差をつけていないケース、差をつけている場合でも給与面よりもポスト面を重視して差をつけているケース、実際の人事異動を「顔の見える」範囲内で行っているケース等が少なくないことから、結果的に、評価結果を十分に活用しなくとも足りるような状況となっている。
             
    3.  全般的な問題点
             
       国家公務員に求められる能力や業績が変化してきているが、勤務評定を中心とする現行の人事評価システムは、変化への対応が必ずしも十分ではない。
 また、勤務評定に対する人事当局、評価者及び被評価者の信頼感や、その活用に関する組織としてのコンセンサスも、必ずしも十分なものとは言えない。
             
  (3)  新たな人事評価システム設計の作業目標
             
     以上を踏まえ、新たな人事評価システムについては、これを、現行の勤務評定・人事評価の問題点を改善することができるようなものとするとともに、先に述べた人事評価システムの役割とその構築の目的を可能な限り達成することのできるものとすることを作業目標とし、当該目標に沿って設計を行うべきである。
 その際、行政活動の一層効果的・効率的な遂行を図っていく上では、行政機関における管理職の役割が重要であることにかんがみ、特に、管理職及びその候補者について、従来以上に能力・業績を重視した人事評価を徹底するよう配慮することとすべきである。
             
2 行政及び国家公務員制度全般からの配慮点
             
   新たな人事評価システムの設計を行う場合には、以下のように、行政改革・国家公務員制度改革等の観点からの要請に応えるため、行政及び国家公務員制度全般からの配慮を行う必要がある。
             
  (1)  行政改革・国家公務員制度改革等の観点からの要請
       
    1.  国家公務員制度改革の面からの要請
             
       現在、政府においては、『公務員制度調査会』の「公務員制度改革の基本方向に関する答申」を踏まえ、
         I種試験採用職員の適正なスクリーニングとII・III種試験採用職員の登用促進、技官のキャリアパスの柔軟化、女性職員の登用促進、年次の逆転を含めた昇進と採用年次との結びつきの緩和等の人事運用の弾力化
         年功的要素を縮小し、能力・業績をより的確に反映する方向での給与体系の見直しと、職務・職責をより的確に反映する給与制度の整備
         職員の計画的・総合的な育成システムの構築と自己啓発の促進
      等の方向で、公務員制度改革の具体化のための検討が進められているところであり、新たな人事評価システムについては、現在提言されている上記の改革の方向性に合致するとともに、これに資するものとなることが求められる。
             
    2.  組織編成・働き方の変化の面からの要請
       
       行政改革等行政及び国家公務員をめぐる諸環境の変化によって、国の組織編成が変化するのみならず、国家公務員についても、従来の考え方、手法、行動様式等にとらわれない働き方が求められている。このため、新たな人事評価システムは、以下のような点を実現するシステムとして構想される必要がある。
         大括り化された各府省の組織においても、適材適所の人材配置や職員の育成等に資することのできるような人事評価システムとすること
         新規施策を実現した職員のみならず、規制緩和等の行政改革に対応し、施策の見直しや廃止を行った職員を高く評価できる人事評価システムとすること
         職員の縦割り意識を是正し、省庁間、部局間の協力体制を促進するような人事評価システムとすること
         行政の情報化や部内下位の組織への権限委譲等による組織構造等の変化に対応することのできる人事評価システムとすること
         各省庁等において国民の信頼を得られる国家公務員を育成し、評価すること のできる人事評価システムとすること
             
  (2)  行政及び国家公務員制度全般からの配慮点
             
     以上の要請に応えるため、新たな人事評価システムの設計を行う場合には、以下のような配慮が求められる。
             
    1.  組織としての業務目標・政策評価等との関連性への配慮
             
       新たな人事評価システムは、組織としての業務目標との関連性に配慮し、当該業務目標の実現に資するような人事評価システムとなっていることが必要である。また、現在、政府で検討が進められている組織としての評価である政策評価との関連性にも配慮することが求められる。
             
    2.  組織や業務の多様性への配慮
             
       各省庁等においては、その組織構成や業務が多様なものとなっており、各組織・職場が求める人材像、能力、働き方、業務プロセス等も多岐にわたることとなる。このため、新たな人事評価システムについては、このような多様性に配慮したシステムであることが必要となる。
             
    3.  組織や業務の特性への配慮
             
       国家公務員は、その業務を集団的・組織的に行うことが多いため、新たな人事評価システムについては、職員個人に対して、その所属する組織の業績への関与の度合に応じた人事評価を行うことができるようなシステムとなっていることが重要である。
             
    4.  人事管理上の課題との関連性への配慮
             
       新たな人事評価システムについては、I種試験採用職員の適正なスクリーニングとII・III種試験採用職員の登用促進、技官のキャリアパスの柔軟化、女性職員の登用促進、昇進と採用年次との結びつきの緩和等の人事管理上の課題に資するものとなるよう配慮しなければならない。
             
3 人事評価システムとしての要件
             
   人事評価は、各省庁等の責任で行われるものであるが、新たな人事評価システムの整備に当たっては、その人事評価システムとしての適切性、妥当性等の観点から、以下のような要件が求められる。
             
  (1)  基本要件
             
      新たな人事評価システムに求められる要件は、以下のように整理される。
       「公平性」、「客観性」、「透明性」及び「納得性」の向上が確保されていること
       差をつけるための人事評価ではなく、職員及び組織の目標実現に貢献する人事評価であること
             
  (2)  現行の人事評価システムを踏まえて重視すべき点
             
     新たな人事評価システムを整備する際には、現行の人事評価システムを踏まえ、以下の点を重視すべきである。
       より適切な行政活動を実現するために革新的・積極的な取組みを行った職員に、加点主義的な人事評価を行うものであること
       人間性等の一般的な人物評価を行うものではなく、具体的な職務行動を通じて現れた能力、業績等を評価するものであること
       新たな人事評価システムが、組織内で人事当局、評価者及び被評価者のコンセンサスを確保できるシステムとなっていること
       新たな人事評価システムの適用範囲、評価結果の活用等が、当該システムの精度、機能等にふさわしいものとなっていること
             


 

 
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