I  基本認識

 

1 人事評価研究会の任務
       
   現在、政府においては、基本的な仕組みが戦後に構築された我が国の行政システム全般を、行政を取り巻く内外の環境の変化を踏まえた新たな時代にふさわしいものとするための改革が進められている。このような改革のうち、国家公務員制度改革については、平成11年3月に『公務員制度調査会』が取りまとめた「公務員制度改革の基本方向に関する答申」において、その改革の基本的な方向性に関する提言がなされており、人事評価システムの改革は、その柱の1つとなっている。
  本研究会は、この提言を受け、今後、制度所管官庁及び各省庁等において新たな人事評価システムの整備のための検討を行う際に活用することのできる基本的指針等について、専門的な観点から検討を行うことを任務としている。
       
2 人事管理における人事評価システムの位置付けと本報告書の対象
       
   本研究会で検討の対象とする「人事評価システム」は、「人事管理システム」のサブシステムの1つという位置付けにあり、個々の職員について、その業務のプロセスを構成する基本要素(能力・適性・意欲、仕事、成果)を視点として、その現状を評価するものである。
 したがって、人事評価システムは、各組織における人事管理システム全体を通じた基本方針に沿って構築されることが不可欠である。例えば、「どのような職員について、どのような評価項目を重視した人事評価システムとすべきか」等のシステム設計は、各組織における職員の任用・育成等の人事管理全体の基本方針に沿ったものとなる必要がある。このため、本報告書では、このような事項については、その一般的な原則を述べるにとどめ、詳細については、制度所管官庁及び各省庁等における検討に委ねている。
  また、評価結果を任用、育成、処遇等へ各々反映するための手法については、人事評価システムの在り方に関する考え方から一義的に定めることができるものではなく、人事管理システムの他のサブシステムである任用システム、育成システム、処遇システム等の各々の在り方に関する考え方に基づいて定めることが不可欠である。例えば、「人事評価の結果のどの部分を、どのようなウェイトによって、職員の給与に反映させるのか」、「業績評価等の評価結果をどの程度(大きく、中程度に、小さく等)職員の給与に反映させるのか」といったシステム設計については、給与制度を設計する際に検討し、選択し、決定することが必要である。このため、本報告書では、人事評価の結果の任用、処遇等への反映に関するシステム設計については、その留意点を述べるにとどめ、詳細については、任用、処遇等の制度に関する今後の検討に委ねている。
       
3 『人事評価』の概念と人事評価『システム』の必要性
       
  (1)   『人事評価』の概念
     
     これまでも国家公務員の人事評価システムについて様々な議論が行われてきているが、その際、『人事評価』について、必ずしも共通的な概念があったわけではない。例えば、「国家公務員は、公務に従事する全体の奉仕者であるため、営利企業の販売部門の従業員等とは異なり、『人事評価』の対象としてなじまないのではないか」という議論の際には、『人事評価』として、「個人が達成した売上げや利潤等によって個人を評価すること」がイメージされている。
 確かに、『人事評価』の概念については、この例のように、限定的なものとして捉える場合もある。しかし、本研究会においては、これを広く捉え、「一定のミッション(役割)を有する組織において、構成員がミッションに貢献した度合、構成員のミッションの遂行能力の程度等を把握するもの」と捉えることとした。
 すなわち、営利企業の販売部門等の組織における「個人が達成した売上げや利潤等による人事評価」は、当該組織のミッションへの貢献度等を測るための評価であって、それを国家公務員の人事評価としてそのまま適用することはできないが、一方、国家公務員については、各省庁等の組織における公務のミッションを踏まえ、これに対する貢献度等を測る『人事評価』を行うことが可能かつ必要であると考え、このためのシステムの整備について検討を行うこととした。
       
  (2)   人事評価『システム』の必要性
     
     「人事評価『システム』を整備すると職員間で恣意的な格差がつけられるのではないか」、「人事評価『システム』を通じて上司による管理が過度に強化されるのではないか」等の意見が見受けられる。
  しかし、仮に『システム』化された人事評価を行わないこととした場合には、職員の異動、処遇等は、上司や人事当局の日常の心証による評価(『システム』化されない人事評価)によって行われることとなってしまう。この日常の心証による評価では、評価技術等の未熟な上司による個人的な評価尺度による評価、職員の一面の特性のみにとらわれた評価、職員の過去の印象に引きずられた評価等の主観的な評価の問題が生じやすく、かえって恣意的な人事管理につながりやすいものと考える。
  このため、本研究会においては、主観的な評価の問題を改善し客観性を高めた、国家公務員にふさわしい人事評価『システム』について検討を行った。
       
4 本研究会における検討の進め方
       
   本研究会においては、人事評価システムに関する検討を行うに当たって、システムの根本まで一旦立ち戻った上で、見直しのための議論を幅広く行った。
  確かに、国家公務員の人事評価システムの見直しについては、「現行の勤務評定制度が一定程度機能していることから、その問題点の一部修正を行えば足りるのではないか」という意見もあり得る。しかし、今回の人事評価システムの見直しは、21世紀に向けた中央省庁等改革の一環としての国家公務員制度の改革という「節目」の改革の柱の1つとして位置付けられるものであることから、現行システムの一部修正の議論にとどまることなく、より適正な評価の実現を図るという評価制度の原点に立ち戻って検討を行い、所要の見直しについて提言を行うこととした。
  また、国家公務員には様々な職種があり、多様な業務が遂行されているが、本研究会では、主に一般行政事務部門を想定した上で検討を進めた。このため、それ以外の部門については、実際に制度所管官庁及び各省庁等において人事評価システムの見直しに関する検討を行う際に、必要に応じて当該部門の特性に合った修正等を加えつつ、本報告書が活用されることを期待する。
       

 
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