9 高齢化への対応と退職管理の適正化


 21世紀の高齢社会において、65歳まで働くことのできる社会を目指し、年金の支給開始年齢の引上げ等にも対応する観点から、公務部門における65歳までの雇用に積極的に取り組むべきである。その際、行財政改革の要請、組織の活性化及び退職管理に関する厳しい国民の批判を考慮し、
(1) 現行の年功序列型の仕組みを見直し、能力・実績に応じて処遇を弾力化する
(2) ピラミッド型体制を維持するための早期退職慣行を是正し、人員構成を段階的に台形型に転換していくため、選択可能な複線型の人事管理に転換する
などの見直しを併せて行うことが必要である。
 制度の改革に当たっては、人件費が増加しないようにするとともに、公務の能率的運営や行政の能力向上という視点も十分踏まえる必要がある。

 公務をライフワークとできるような人事システムへの転換を図るとともに、国民の厳しい批判を厳粛に受け止め、いわゆる天下りとして批判されている権限等を背景とした押し付け的な再就職あっせんは行わないこととすべきである。公務員個人の能力活用の見地からの再就職については、その公正性、透明性が確保されるような方策を講じることにより国民の信頼が得られるようにすべきである。

(1) 公務をライフワークとできるような人事システムの在り方

【基本的考え方】

(雇用期間の長期化)
 現在の早期退職慣行は、組織の新陳代謝、活力の維持の観点から有効な面はあるが、行政の在り方が見直され、また、社会全体においても高齢化への対応が課題となる中で、公務部門において長期の在職が可能となる人事システムへ転換していく必要がある。
 雇用期間を長期化するに当たっては、組織の活性化、活力の維持が課題となる。このため、能力・実績を的確に反映するとともに、キャリア・パスについて選択可能な柔軟な人事システムへの転換、研修等の能力開発の実施、自己啓発の支援等を合わせ行う必要がある。
 上記の人事システムを現実のものとすべく段階的に転換していくため、直ちに改革に着手する必要がある。

(能力・実績重視型の人事システムへの転換)
 公務の能率的運営、活性化を確保するため、年次横並び的・年功的な人事システムから能力・実績重視型の人事システムへの転換が必要である。
 在職期間を長期化する場合には、同一の試験による採用者、入省後の経験年数が同様な集団の下でも、職員の意欲、能力、知識、経験等の差がより顕著になると考えられ、その差を反映した処遇とすべきである。

(複線型人事システムへの転換等)
 今後の人事管理等を考慮すれば、早期退職慣行によりピラミッド型の人事構成を維持することは事実上困難となる中で、組織の活力を維持していく必要がある。
 複線型の人事管理は、国際的に高い水準を維持し、変化に対応し得る機動的で質の高い行政を展開していくため、高い専門能力を有するスタッフ組織等における人材確保の観点から導入が図られるものであるが、同時に、上記の必要性を満たしていく方策としても有効と考えられる。(「5 行政の専門性の向上と個人の適性・志向に配慮した多様なキャリア・パス」参照)
 なお、本省庁のみならず、ブロック機関、地方出先機関等においても、ピラミッド型の人事を維持するため早期退職が行われている例も見受けられ、様々な組織の実情に応じた複線型の人事管理の在り方について具体的検討を行う必要がある。
 職員の能力発揮の観点、職員の活性化の観点から、職員のキャリア・パスや従事するポストについて、職員の希望を聴取する仕組みの導入などにより職員の意向を加味しつつ、幅広い選択肢からの選択が可能となる仕組みとする必要がある。
 その際、職員の退職パターンについても、能力活用による転身等を含めて多様な選択を可能としていく必要がある。  

【具体的改革方策】

(定年延長の検討)
 今後の高齢化の一層の進展等に対応し、公務部門において、65歳定年に向かうべきである。この場合、財政上の負担が増加しないよう配慮するとともに、人事システムの見直しを合わせて進めることとし、実施時期については、社会情勢等を踏まえ検討する必要がある。
 これに対し、定年延長については、現在の厳しい雇用情勢や民間企業の定年制の動向等を踏まえれば、慎重に対応すべきであるとの意見もあった。
 定年の検討に当たっては、公務内の各職種の実情を踏まえるとともに、一定期間の範囲内で定年扱いとなる年齢を選択できる制度や短時間勤務制度、比較的早い時期での転身を支援する制度など、多様な選択を可能とすべきである。

(当面の取組み)
 まず、人事システムの転換、運用の改善に取り組み、長期雇用がスムーズに進む基盤をつくるとともに、当面、現行の定年後も公務内において引き続き働く意欲と能力を有する者については、再任用を行うことにより、65歳までの雇用を図ることとすべきである。

(能力・実績等に応じた弾力的な昇進・給与等)
 従来型の年次横並び的・年功的な昇進管理を改め、能力・実績、適性、志向等も踏まえながら、昇進、人材配置などを広い範囲で弾力的に行うことのできる人事システムとすべきである。
 中・高年齢層の給与については、標準的な給与カーブをなだらかにフラット化する前提の上で、能力・実績、職務・職責の変化を反映して柔軟に上下しうる仕組みとすべきである。そのため、民間企業で行われているような、(1)給与決定における査定部分の拡大、(2)幹部への年俸制の導入などの事例を踏まえつつ、各職種における給与の在り方について専門的検討を進める必要がある。また、60歳台前半までの雇用を視野に入れ、高齢職員の給与の在り方等について検討を行うべきである。

(選択可能な退職パターン)
 複線型の人事管理を導入しつつ、退職パターンについても、複線型の人事管理に応じたキャリア・パスや職員の意向等を踏まえ、(1)定年前に退職し、自らの能力を生かして民間部門等で活躍する、(2)専門職として専門知識を生かし定年まで在職する、(3)ライン職を退いた後、大学や研究機関を含む公的な部門で能力を活用する、(4)高齢期には比較的軽い勤務を選択した後退職するなどの様々な選択を可能とする必要がある。
 このような観点から、定年年齢前の短時間勤務の導入あるいは退職準備のための休暇の付与、職業能力開発機会の付与、資格の付与又は取得の支援等について具体的に検討すべきである。  

(2) 国家公務員の再就職について

【基本的考え方】

 国家公務員の再就職の在り方については、憲法上の職業選択の自由にも関係する問題であり、また、個人の能力を活用した再就職は社会全体における人材の有効活用という側面を有するものであるが、いわゆる天下りに対する国民の強い批判を厳粛に受け止めて対応していく必要がある。
 いわゆる天下りとして批判されている権限等を背景とした押し付け的な再就職あっせんは否定されるべきであり、改革のための実効ある方策をとる必要がある。
 一方、公務員個人の能力活用の見地からの再就職については、公正性、透明性が確保され、国民の信頼が得られる仕組みとする必要がある。
 そのための一つの方策として、再就職者を介して官民が癒着関係になることを防止するため実効ある措置をとる必要がある。  

【具体的改革方策】

(現行の再就職規制の厳正な運用)
 現行の再就職規制については、厳正な運用を行うとともに、規制や審査の基準についての一層の説明や行政の在り方の変化に対応した不断の見直しを行うべきである。

(再就職後の行為規制)
 現行の規制では、再就職した者と出身省庁との間の接触に関する行為規制は存在しないことから、国民の行政に対する信頼確保等の観点から、現行の規制に加えて、再就職後の行為規制の導入について検討すべきである。
 再就職後の行為規制に関しては、規制違反について厳正に対処することを念頭に置いて、どのような行為を対象とし、どのような法体系に位置付けるのか、実効性の担保方策(刑罰、違反者の公表など)をどうするのか等について専門的な検討が必要である。

(特殊法人等への再就職)
 特殊法人等の存在意義、業務の運営等については別途行政改革等の観点から整理されるべきであるが、公務員の知識・経験を生かした人材活用を行う場合には、プロパー職員及び民間人の登用を妨げることのないよう配慮が必要であり、公務員出身者の役員就任に関する閣議決定等の厳正な運用が必要である。
 特殊法人等の役員の処遇については、特殊法人等の業務に関しては市場原理が働きにくいことを考慮し、能力・実績を反映した適正な水準とするとともに、透明化が図られるべきである。

(人材バンクの導入)
 公務員の再就職について、権限等を背景とした押し付けではないかという批判にこたえうる透明な仕組みの一つとして、人材バンクを導入すべきである。
 人材バンクは、公務員の人材情報と、企業等からの求人情報を集め、両者の調整等を通じて再就職を支援する仕組みとする。なお、退職管理だけに限定せず、中途採用や各府省間の移籍を含めたシステムとすることについても検討を行う必要がある。
 人材バンクを通じた再就職が円滑に進み、実効が上がるようにするため、政府に人材バンクを置くこととし、早期に導入し、段階的に充実を図っていくべきである。
 なお、人材バンクの透明化を図る観点等から、人事院の協力を得ることとし、実施に当たっては民間部門を活用すべきである。また、運営に当たっては各界の意見を聴くとともに、その運営状況を公表すべきである。

(再就職状況の公表)
 再就職の実態を明らかにすることによって、国民の信頼が得られるよう、公表の範囲・方法を検討し、再就職状況の公表を進めることが適当である。  

(3) 退職後所得の在り方

【基本的考え方】

 公務員が在職中、安んじて職務に専念できるよう、国民の理解を得つつ、退職後の生活の安定を図る必要がある。  

【具体的改革方策】

(退職手当制度の見直し)
 退職手当制度については、以下の点を踏まえ、退職手当額の算定方法、退職手当の支給方式、定年前早期退職特例措置を含め、早急にその見直しに着手すべきである。
 公務における長期の在職を可能とする人事システムへの転換等公務員制度の抜本的改革に関する議論の方向
 民間企業において近時、(1)賃金の退職金算定基準からの切り離し、(2)貢献度を反映した退職金化、(3)退職金の支給方法の多様化という視点に立った退職金制度の見直しが進行中であること
 また、退職手当の官民比較についても、民間企業における退職金制度の複雑化、多様化の動向を考慮に入れた上で適切に行う必要があり、幹部職員の退職手当についても、民間との適正な比較方法を検討すべきである。

(公務員の退職後所得の検討)
 公務員に様々な規制、義務を課す以上、退職後の生活の安定を図るべきではないかとの視点を踏まえ、共済年金の在り方について検討するとともに、民間企業において退職一時金の年金化が進んでいることを考慮し、退職手当の支給方式についても検討すべきである。


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