5 行政の専門性の向上と個人の適性・志向に配慮した多様なキャリア・パス


【基本的考え方】

(今後の行政組織・運営の方向)
 行政組織は、(1)総合的・戦略的な意思決定を迅速に行うための簡素・効率的なライン組織と(2)それを支える機動的で高い専門能力を有するスタッフ組織の連携の下に機能していくことが必要である。特に、今後、行政組織・定員のスリム化の中で、社会経済の変化や技術革新の進展に的確に対応しうる国際的にも高い水準の行政を実現していくためには、スタッフ組織をより重視した組織・人事管理を進めていくことが重要である。
 しかし、現状では、スタッフ組織の十分な整備が行われておらず、また、その職務・職責の位置付けも必ずしも明確ではない。

(それぞれの組織機能に応じた人材育成)
 現在、各省庁の一般行政部門においては、主にライン職に就くことを想定した単線型の人材育成、昇進管理がなされているが、ライン組織、スタッフ組織がその機能を十分に発揮していくためには、それぞれの機能に対応した人材の育成を進めていくことが必要である。今後は、主にスタッフ職に就くことを想定した人事コースの設定・定着を図り、複線型の人事管理制度を構築していくことが求められる。
 なお、複線型人事管理の運用に当たっては、各省庁が業務内容に応じて柔軟に行うものとし、また、職員個人の適性・志向に配慮したものとしていくことが必要である。

(スタッフ組織の整備、人材育成等)
 スタッフ組織については、必要なポストの整備を行いつつ、その機能をライン組織の管理的機能から明確に分化するなど、組織上の位置付けを明確にすることが求められるが、同時に人事管理面においても、これに充てる人材の育成、処遇等について、明確かつ体系的な位置付けを行っていくことが必要である。

 スタッフ組織については、行政の能力向上の観点から、
 特定行政分野についての専門知識と関連分野まで含めた幅広い視野を併せ持ち、機動的に政策の企画立案、調整を行っていく「政策スタッフ職」
 特定行政分野における高度な専門知識・経験に基づき政策の企画立案の支援や専門行政分野の執行に当たる「専門職」
といったスタッフ職を整備し、これに充てるべき人材を職員の適性・志向を踏まえつつ育成することが必要である。
 スタッフ職の給与については、職務・職責が弾力的に変わりうることや高度な専門知識・経験等が必要であること、職員の能力がより端的に仕事の成果に反映されることを踏まえ、それらにふさわしい給与体系とすることが適当である。また、職務評価についても、必ずしもライン職の職務評価との関係にとらわれない適切な評価を行うことが必要である。  

【具体的改革方策】

(複線型人事管理への移行)
 高い専門能力を有するスタッフ組織を実現するためには、一般的な採用試験(I・II・III種試験)により採用した職員について、職員の適性・志向等に配慮しつつ、一定の時期以降、専門職中心のキャリア・パスに移行していく者を確保して高度な専門的能力を向上させることにより、従来のライン組織中心の単線型の人事管理から、スタッフ組織の人材確保にも重点を置いた複線型の人事管理への移行を推進すべきである。
 併せて、実施機能を担う部門のスペシャリスト等特定官職への採用を前提とした試験等により採用段階から専門職に充てるべき人材の確保が可能なものについては、採用段階から長期的に人材を確保・育成して適切な処遇を図っていくべきである。

(人事運用上の区分としてのコース設定等)
 複線型の人事管理を導入していくに当たっては、各省庁において、その業務等の必要性に応じ、人事運用上の区分として専門職コース等のコースを設定し、個々の職員にどのようなキャリア形成を期待しているかを明らかにすることを検討すべきである。
 その際、個々の職員のコースの決定は、任命権者が、将来的な組織・人事構成の見通しの下に、職員の適性・志向等にも配慮しつつ行うべきである。
 一方、コース分けが逆に人事管理の固定化を招くことのないよう、コースの性格は弾力的なものとし、(1)コース設定自体を各省庁の必要性に応じて行うこと、(2)コース分けはそれぞれの職務の性格等に応じた段階で行うこと、(3)コース間の異動も弾力的に行いうることとすることについても検討すべきである。
 また、コースと職員の採用試験区分との関係が固定的なものとならないような配慮も必要である。

(政策スタッフ職、専門職の整備)
 複線型人事管理の適切な運用を図るため、政策スタッフ職については、スリム化するライン組織を機動的に支援しうるよう必要なポストの整備を行い、また、専門職については、行政の専門化に対応し、特に高い職責を担う上級のポストの整備を進めるべきである。その際、政府全体として、必要なポスト整備が円滑に行えるような環境整備も必要である。

(政策スタッフ職、専門職の人材育成等)
 専門職の職員には、スペシャリスト育成の観点から、同一あるいは類似の行政分野における継続・反復的な勤務経験の付与や、体系的かつ時代の変化に対応した専門的業務研修等を計画的に行っていくことが必要である。また、そのように計画的に育成した専門性を有効に活用していく観点から、定年までの勤務等による長期的な能力活用を図っていくべきである。
 政策スタッフ職については、次第に政策スタッフ職中心のキャリア・パスに移行する者も考えられるが、基本的には、職員全体の中から機動的・弾力的に適材を充てるべきである。

(政策スタッフ職、専門職の給与体系)
 政策スタッフ職の給与については、弾力的な人材配置が可能となるよう、職務評価に幅をもたせることにより、1つのポストに対して広い幅の給与の中から適切な格付けを行うことを可能とすること等ポストと給与の関係の弾力化について専門的に検討すべきである。
 専門職の給与については、職能給的な要素を取り入れ、職務の級の段階を簡素にした新たな俸給表の設定について専門的に検討すべきである。また、特に高い能力・実績を有する者については、ライン組織の上級幹部並みの高い水準とすべきである。


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