[ 各 論 ]

1 多様で質の高い人材の確保


【基本的考え方】

(人材確保の重要性)
 行政が、複雑高度化し常に変化する内外の諸課題に対して、限られた資源の中で政策の企画立案、公権力の行使やサービス給付等多様な役割を果たし、国民生活の安全・安定の確保と福祉の増進を図っていかなければならない今日、行政には従来以上に創造性、先見性、専門性等が求められる。
 このため、公務部門における質の高い人材確保の重要性は従来にも増して強まっており、単に知識を有するだけではなく、高い創造力や多様な価値観に対する理解を有する人材、高い専門性を有する人材を積極的に確保していかなければならない。
 一方、近年、その職務の重要性にもかかわらず、国家公務員志望者は減少しており、各省庁からは人材確保についての強い憂慮が表明されている。
 人材確保方策の検討に当たっては、これらの状況を十分に踏まえていかなくてはならない。

(新規学卒者等の長期的育成による人材確保)
 公務部門における人材確保については、我が国の雇用市場の現状、行政の中立・公正かつ安定的な執行の確保、行政独自の専門性の確保等の観点を踏まえれば、今後とも、長期継続雇用を前提とした新規学卒者等の定期採用が大宗を占めるものと考えられる。このため、試験及び各省庁における採用段階において、質の高い新規学卒者等を適切に選抜できるように採用システムを整備していく必要がある。
 なお、各省庁の幹部職員については、幅広い知識・経験や総合的視野、効率的な業務運営を行うための高い組織・人事管理能力が要求されることから、長期的かつ計画的な育成を行っていくことが必要である。採用されたすべての職員にこれらの育成を行っていくことは効率的でなく、また、個々の職員の就労意識に必ずしも合致しているとは考えられないため、今後とも、採用時に一定の幹部候補を確保していくことが効果的であると考えられる。ただし、幹部候補として選抜された後も随時適切にスクリーニングが行われるべきであり、また、幹部職員への登用がこれらの者に限られず能力・実績に基づいて適切に行われる仕組みを確保することが必要である。

(中途採用等による人材確保)
 一方、常に変化する行政課題に対応するためには、異なる視野・見方から政策の企画立案を行うことのできる多様な人材や、官民を通ずる汎用的な能力を有する専門家(プロフェッショナル)等の的確な確保も重要な課題となっている。
 現在、一般行政部門における中途段階での人材確保は、外部からの人材流入に対する閉鎖的な慣行や処遇の困難さ等もあって、限定的なものにとどまっているが、今後、民間の知識・経験が必要な職務や変化へのダイナミックな対応が強く求められる政策の企画立案に係る職務等については、中途採用等により必要な人材を弾力的に確保しうる開放的なシステムを整備していく必要がある。  

【具体的改革方策】

(採用試験改革)
 国家公務員の採用試験について、公開平等の公正な試験実施を堅持しつつ、各任命権者がニーズに合った多様で質の高い新規学卒者等を適切に採用できるよう、以下のような事項について専門的に検討すべきである。
 多様な人材を確保するため、人物面を重視した評価を更に進めるなど、人物試験の改善を図る。
 各省庁が多数の候補者の中から有能な人材を確保しうるよう、定員削減による採用予定者数の変化を考慮しつつ、人事院による試験の合格者数を増やす。
 民間部門の採用との間で人材確保上の影響を受けないよう、試験実施時期の早期化等の配慮を行う。
 試験内容について、より適切なものとなるよう論理構成能力を測ることを重視したものとするなど更に改善を進める。
 I種試験の専門区分について、過度に細分化されている理工系分野について、区分の大括り化や総合的区分の設定を行う。さらに、新たな横割り的な学問領域(環境学、情報学等)の発展への対応にも配慮する。
 なお、実施面に及ぼす弊害に留意しつつ、試験問題の公表の拡大について専門的に検討すべきである。
 大学卒程度を対象とした国家公務員採用I種試験(以下「I種試験」という。)と国家公務員採用II種試験(以下「II種試験」という。)については、幹部候補の効率的な選抜・育成等の観点から、当面、これを維持することが適当である。ただし、採用段階のI・II種の試験区分をその後の人事管理においても過度に重視することにより人事運用の硬直化や職員のモラールの低下を招くことのないよう、幹部職員登用におけるI種試験採用者の厳格な選抜を行うとともに、II種試験及び国家公務員採用III種試験(以下「III種試験」という。)採用者等からの積極的な登用を進めるべきである。
 なお、この点に関しては、多くの対象者からより優れた職員を幹部として確保する観点や閉鎖的な面のある現行のキャリアシステムの弊害を除去する観点等からI・II種試験の統合を検討すべきとの意見もあった。

 (外務公務員採用I種試験の廃止)
 国内外の課題に総合的に対応できる人材を確保する等の観点から、外務公務員採用I種試験を廃止し、国家公務員採用I種試験合格者から人材を確保する。
 なお、特殊言語専門家等の養成・確保を図るため、外務省専門職員採用試験は存続することとする。  外務公務員採用I種試験の廃止に当たっては、国家公務員に国際関係についての基礎的知識を確保していくための試験内容の在り方について、専門的に検討すべきである。

 (採用等の単位)
 採用等の単位については、一定の業務分野に専門知識及び意欲を有する人材の確保・育成、個々の職員の適切な能力・実績評価に基づく人事管理等の観点から、省庁ごとに採用等を行う現在の仕組みは維持すべきであるが、中央省庁再編後は、新たな府省ごとの採用を基本とし、各々の府省内で一体性を確保した適正な人事管理を行うべきである。一方で、少数採用の専門的分野の職員の府省の枠組みを超えた採用等関係府省間の共同採用についても必要に応じて検討すべきである。
 いわゆる一括採用については、上記のような適切な人材の確保や人事管理等の支障となる面も多いと考えられることから、新たな行政体制における縦割りの弊害是正の進捗状況を見極めた上で、必要に応じて検討することとすべきである。

 (幅広い人材の採用)
 各省庁は、採用に当たっては、特定の大学・学部出身者や採用試験における特定の専門区分の合格者に偏ることなく、真に質の高い人材を見極めた上で採用するよう努めるべきである。特に、各省庁の所掌事務を勘案し、採用試験における理工系区分の大括り化も踏まえつつ、理工系の能力を有する人材を適切に幹部候補として確保していくことが必要である。

 (中途採用の拡大に資する仕組みの整備)
 中途採用の拡大に資する仕組みとして、専門的分野のスタッフ職への公募等公務部外の人材の登用の仕組みの導入を検討すべきである。
 その際、公務部外の専門家の情報を集中的に管理する仕組みとして、例えば、公務部門における人材バンクの仕組み(「9 高齢化への対応と退職管理の適正化」参照)を活用することについても検討すべきである。

 (新たな任期付任用制度の導入等)
 内閣官房、各府省における政策スタッフ職や専門職(「5 行政の専門性の向上と個人の適性・志向に配慮した多様なキャリア・パス」参照)、企業的業務運営が必要な部門の官職等のうち、公務部内では育成することが困難な専門性を必要とする官職等に、民間企業経験者、弁護士、公認会計士、研究者その他部外における経験を通じてこれらの専門性を有する者を任期を限って任用し、給与等の適切な処遇を行えるよう、任期付任用の仕組みを整備すべきである。  また、高い専門性を有する者を非常勤のスタッフとして活用していくことについても検討すべきである。

 (政治的任用)
 内閣官房における内閣総理大臣補佐官等の内閣総理大臣を直接補佐するスタッフについては、内閣総理大臣の判断により、弾力的に任用する仕組みを整備すべきである。

 (適切な人事交流の推進等)
 官民交流については、必要な法制を早急に整備した上で積極的に推進すべきである。その際、官民合同の会議を設置するなど政府全体として円滑に官民交流を進めるための方策を講ずるべきである。
 また、これまで研究交流促進法により自然科学系の分野を中心に進められてきた産官学間の人事交流について、自然科学系以外の分野も含めて拡大すべきであり、さらに、私立大学等との交流も積極的に進めるべきである。
 国と地方公共団体との人事交流は、両者にとって、人材の育成、確保及び活用の観点から有意義であることから、交流ポストの長期固定化により生ずる弊害の排除に配意しつつ推進すべきである。このため、国・地方の相互・対等の交流を促進するとの観点から、各省庁と地方公共団体がそれぞれの交流実績(人数・ポスト等)を公表する仕組みを早急に整備すべきである。
 各省庁間の緊密な連携を強化し、幅広い視野に立った人材を養成するため、また、公務部内の多様で質の高い人材を適材適所で活用していくため、引き続き省庁間人事交流を積極的に推進すべきである。その際、本省庁課長級以上の幹部職員及び課長に準ずる幹部要員の人材情報についての総合的な管理システムとして構築される人材情報データベースを活用すべきである。また、中央省庁再編後の新たな府省間における人事交流の推進方策・基準については、各府省間で具体的に検討すべきである。

 (移籍に関する仕組みの整備等)
 政府全体として職員の適性・志向等を踏まえた適正な人材配置を推進する観点から、他府省への移籍(転籍)を可能とする仕組みを整備すべきである。なお、その運用に当たっては、各府省人事担当部局による連絡協議の場を設けるべきである。

 (部内公募の導入)
 個人の自主性を生かしながら人材を適材適所で活用する観点から、例えば特定のプロジェクトリーダーやメンバー等について、省庁内や当該課題についての関連省庁間で、職員に対する公募を行うことにより幅広く人材を登用することについて検討すべきである。

 (障害者雇用の積極的推進)
 民間企業に対し率先垂範すべき立場にある国にあっては、すべての事業主に共通すべき社会連帯の理念に立って、障害者の雇用の促進等に関する法律等に基づき、障害者の雇用を一層積極的に推進すべきである。


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