2 公務員制度改革の必要性


 現行の公務員制度は、戦後、国家公務員が「天皇の官吏」から「国民全体の奉仕者」に転換したことを踏まえ、1で述べた基本的な枠組みを具現化するものとして国家公務員法の制定等により確立したものであり、我が国の行政の民主化に大きく寄与してきたものと評価できる。
 しかしながら、国家公務員法制定後50年余を経た今日、公務員をめぐっては、政策企画立案能力に対する信頼の低下、セクショナリズム等による機動的・総合的対応の欠如、幹部職員の不祥事の続発、いわゆる天下り問題等について行政そのものの在り方とも結び付いた多くの問題点が指摘されている。また、採用試験の種類等を重視する硬直化した昇進管理や過度の年功的処遇のように制度本来の趣旨に必ずしも十分沿っていない人事運用が慣行的に定着してきた面も見受けられる。
 今日、我が国は、行政、雇用環境ともに、以下に述べるとおり、戦後維持されてきたシステムの大きな改革や変化に直面している。これらの改革や変化に対応し、上記の課題にも正面からこたえていくことが、行政を適切に支え、公務員にとっても働きがいのある公務員制度とその運用を実現することになると考えられる。今日、このような観点から、行政システムの改革と雇用環境の変化に対応し、公務員制度とその運用の全般的な改革に直ちに着手する必要がある。

 (行政システムの改革とこれに対応した公務員制度改革の必要性)
 戦後、我が国の行政は、戦争による荒廃からの復興、経済的自立と豊かさの実現という国家目標の下、各種の施策を展開してきた。この時期においては、国民と政治・行政に達成すべき目標が共有されていたこと、高度の経済成長が行政施策に振り向ける資源を毎年増大させることを可能としたこと等により、各省庁は自らの所掌に係る施策を毎年拡大させることによって目標達成に取り組むことが可能であった。
 このような状況の下で我が国はキャッチアップ型の経済成長を極めて効率よく達成することに成功したのである。
 しかしながら、キャッチアップ型の経済成長が達成された1980年代以降、我が国の行政はこれまでの行動様式ではその責務を十分に達成できない状況に直面することとなった。
 社会経済の成熟化により、国民は、従来の経済的な充足に代わって、より多様な価値に関する質的な充足を重視するようになり、行政も国民の多様なニーズに対応していくことが必要となった。
 我が国の国際的地位の向上と経済活動のボーダレス化に伴い、我が国が国際社会のキープレイヤーとして、新たな価値を発信し、公正なルール作りに向けて、戦略性、機動性をもって積極的に参画していくことが必要とされるようになった。
 情報通信等を始めとする広範な分野における急速な技術革新の進展は、社会全体の急速な変化と複雑化をもたらし、行政が取り組むべき課題を一層、高度な知識と機動的な対応を必要とするものに変化させた。
 しかしながら、低成長への移行とそれまでの行政の拡大に伴う財政赤字の拡大は、行政施策に振り向けられる資源を毎年度漸増させることを不可能とし、行政にとっては、急速に複雑高度化した課題に限られた資源で的確に対応することが大きな課題となったのである。
 このような状況は、行政が、内外環境の変化に即応して政府全体として優先的に取り組むべき政策課題を総合的、戦略的に選択していくことや、各省庁の施策の整合性、効率性を確保していくこと、政策の選択や実施状況に関する国民への説明責任を果たしていくことの重要性を一層増大させた。
 行政は、従来重視されてきた専門性、中立性、能率性、継続・安定性の確保に加え、総合性、戦略性、機動性、透明性等の確保に重点を置いて、戦後、有効に機能してきたシステムの抜本的な改革に取り組むことが必要となったのである。1980年代以降の臨時行政調査会、臨時行政改革推進審議会等による行政改革の取組や、行政改革会議の最終報告を受けて現在進められている中央省庁等改革もこのような流れの中に位置付けられるものと考えられる。
 行政がこのようなシステムの改革に取り組んでいる今日、公務員制度もこれに対応した改革が必要であることは言うまでもない。公務員制度には、常に行政の変化を踏まえた見直しが必要であるが、今日、特に、行政の総合性、戦略性、機動性、透明性等を向上させるために公務員制度の面から取り組むべき課題を明確にして改革を進めていかなければならない。
 さらに、従来から行政に求められてきた専門性等の確保についても、今日、行政を取り巻く状況の変化に応じた対応が必要である。
 例えば、上記のような行政課題の複雑高度化は、行政が政治の政策決定を支え、決定された政策を的確に実施していくために従来にも増して高度な専門性を発揮することを要求している。また、公務の効率的運営は不易の課題であるが、財政的制約の強まり等の下で一層の能率性向上のための改革を進めていくことが必要とされている。行政の継続・安定性に関しては、社会経済の変化に的確に対応して、大胆な政策転換を図っていくことや政策の実施状況の評価等に基づいて従来から継続されてきた事業の見直し等を行うことが必要とされている。
 公務員制度の改革に当たってもこれらの状況の変化を十分に考慮する必要がある。

 (雇用環境の変化に対応した公務員制度改革の必要性)
 一方、民間企業においては、今日、グローバルな市場競争の中で厳しい淘汰が進んでおり、高度経済成長時代に有効であった長期継続雇用や年功型処遇といったいわゆる日本型雇用慣行の在り方を含めた雇用システムの大幅な見直しが進んでいる。
 また、我が国全体の雇用をめぐっては、少子・高齢化社会への対応や男女共同参画社会の実現等、公務部門、民間部門を問わず雇用システムの見直しに取り組まなければならない課題も出来している。
 行政がその任務を適切に果たしていくためには、我が国全体の雇用システムとの整合性を保ちつつ、公務部門に有為な人材を確保・育成して、その能力を遺憾なく発揮させることが必要である。
 このため、公務員制度とその運用については、公務に求められる特性の十分な発揮を前提に、人材確保の点で雇用市場を共有する民間企業における雇用システムの変革を踏まえて、公務部門が高い使命感と能力を持つ人材にとって魅力ある職場となるよう、また、一層高い効率性を発揮しうるよう改革に取り組んでいくことが重要である。


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